スキーブームは今や昔。しかし、ここへきて越後湯沢に再び注目が集まっているという スキーブームは今や昔。しかし、ここへきて越後湯沢に再び注目が集まっているという
新潟県・越後湯沢の不動産市場に異変が起きているという。同地でバブル期に次々と建てられたリゾートマンションは、スキーブームの終焉(しゅうえん)により価値が暴落していたが、ここへきて再び価格が高騰し始めているのだ。この現象の裏に「インバウンド拡大のヒントが隠れている」と指摘するのは住宅ジャーナリストの榊淳司氏。一体それは何か――。

*  *  *

「越後湯沢復活」の可能性については、数年から私は様々な場所で言及してきた。理由に挙げてきたのは東京からのアクセスの良さ。東京から新幹線でも観光バスでも1時間ちょっとのアクセスだ。駅を降りると、徒歩でアクセスできるスキー場もたくさんある。加えて、湯沢には温泉も豊富にある。

これに加え、このところはインバウンド客を見込んだ投資も活発化しているようだ。湯沢町でインバウンドを受け容れる宿泊施設は限られているが、その一方で越後湯沢のリゾートマンションには民泊が許可されているところもあり、そうした物件は特に価格の上昇幅が大きく、コロナ以前の倍以上の値で取引されている例もあるという。

■「雪目当て」で訪日する外国人観光客

コロナ禍が収束した今、越後湯沢のような日本の雪国で期待されているのは、スキー目的の外国人観光客だけではない。スキーの経験が全くない、雪の降らない国からの観光客も期待されているのだ。

日本を訪れる外国人観光客のなかには、「雪目当て」という人も少なくないらしい。

東南アジアや中国南部の人のほとんどは、雪を一度も見たことなく、触ったことも、そこで遊んだこともない。そのまま一生を終えることになる。彼らの多くは、外国映画などに出てくる「雪」に憧れているかもしれない。中には「生きているうちに一度は『雪』というものを見てみたい」、あるいは「冬の寒さを体験してみたい」と考える人も多いのだ。

都内から最もアクセスのいいスキー場のひとつであるガーラ湯沢 都内から最もアクセスのいいスキー場のひとつであるガーラ湯沢
その「冬」と「雪」が日本には十分にある。あり過ぎる、といってもいいくらいだ。特に人間が手軽に足を踏み入れて「冬」と「雪」を本格的に体験できるのは、スキー場や以前スキー場だった場所だ。日本にはそんな場所が、インバウンドたちが比較的容易にアクセスできる場所にある。

ただ、現状では「雪」を目的とした外国人観光客が訪れているのは、オーストラリアやヨーロッパからのスキー客を集めている北海道のニセコなど、ごくわずかな観光エリアしかない。

そしてスキーは依然としてやや贅沢なスポーツだ。用具やウエアにはお金がかかる。だから、ニセコにやってきているのは欧州系のリッチなインバウンドが中心になっている。

しかし、もっとお手軽に「雪」を楽しめる場所がたくさんある。その一例が、スキーリゾートの新潟県湯沢町なのだ。

バブル期に建てられたタワーマンションが立ち並ぶ湯沢町 バブル期に建てられたタワーマンションが立ち並ぶ湯沢町
とはいえ、東南アジアや中国南部からやってくるインバウンド客には、本格的なスキーヤーは少ない。雪のないところに住む人々だからそれは当然だろう。しかし彼らにとって「雪」は特別な存在だ。雪景色を見る、雪合戦やそり遊びをする、ということが、十分に訪日の動機になるのだ。

彼らにとっては30cm程度の積雪でも十分だ。それなら、「湯沢」駅に近いスキー場や"元スキー場"でも可能というわけだ。

そして彼らには、越後湯沢のアクセスの良さも好ポイントとなる。成田空港からバスでまっすぐ湯沢に向かい、そこで2泊ほどしながら雪と温泉と和食を楽しむ。その後で東京に戻って都市観光を楽しむなり、富士山を観に行くなりする短期ツアーなら、東南アジアの庶民層にも楽しめる料金が設定できる可能性があるのだ。

そう考えれば、新潟県湯沢町はインバウンドがお手軽に「雪」を楽しめる「ジェネリック・ニセコ」になるかもしれない。

■寒さや雪自体が集客のカギに

本格的に日本の「冬」や「雪」を楽しむのなら、札幌の雪まつりや石川県・金沢市の冬の都市景観などというメニューもある。青森あたりで「かまくら」を体験するのもいいだろう。

札幌の雪まつりなどは、パンデミック以前にはインバウンドからの人気が相当高かった。「雪まつり」のようなイベントを、札幌ならずとも日本海側の都市で、それぞれ開催するのもいいだろう。暖かいところからやってくるインバウンドにとっては、寒さや「雪」自体が珍しいのだ。それらは立派な観光資源になり得るのだ。

「インバウンド拡大に雪を利用するべき」と指摘する榊氏 「インバウンド拡大に雪を利用するべき」と指摘する榊氏
実は世界で日本ほど多くの雪が降っている国は珍しいのだ。降雪量の多い世界の都市ランキングで1位は青森、2位札幌、3位は富山となっている。越後湯沢以外にも「ジェネリック・ニセコ」になり得る雪国はいくつもあるだろう。

インバウンド対応型の産業は、人口減少が進む日本の中では数少ない成長分野だ。そこをさらに伸ばすために、今まではオフシーズンと考えられてきた日本の「冬」と「雪」をうまく活用すれば、地方不動産市場の活発化にも繋がるのではないか。越後湯沢の不動産市場の復活を見て、そんなことを考えた。

●榊淳司 
住宅ジャーナリスト。1962年京都府生まれ。同志社大学法学部および慶應義塾大学文学部卒業。バブル期以降、マンションの広告制作や販売戦略立案などに20年以上従事したのち、業界の裏側を伝える立場に転身。購入者側の視点に立ちながら日々取材を重ねている。『マンションは日本人を幸せにするか』(集英社新書)など著書多数