シグネチャーバンクなどの破綻を受けて、異例の「預金保護」に動いたアメリカ政府。イエレン財務長官は今後も同様の措置を講じるとしたが、その後、撤回するなど二転三転したシグネチャーバンクなどの破綻を受けて、異例の「預金保護」に動いたアメリカ政府。イエレン財務長官は今後も同様の措置を講じるとしたが、その後、撤回するなど二転三転した

アメリカの2銀行の経営破綻を皮切りに、ヨーロッパにも飛び火した金融不安。その後、各国の金融当局の素早い対応で、事態は収束したかに見えるが、アメリカの大幅利上げの「副作用」といえる金融不安の波はこれで収束に向かうのか?

かつて、2008年のリーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発する「リーマン・ショック」を予見した経済アナリストの中原圭介氏に聞いた。

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■「Twitter型銀行破綻」

米銀行のシリコンバレーバンクとシグネチャーバンクの経営破綻に端を発した一連の金融不安。その余波は瞬く間に欧州にも飛び火し、世界有数の投資銀行であるスイスのクレディ・スイスが経営危機に追い込まれるなど、「リーマン・ショックの再来か」と世界経済に動揺が走った。

この動きに金融当局の対応は素早かった。米財務省は破綻したふたつの銀行の「預金保護」を打ち出し、クレディ・スイスは同じスイスの大手投資銀行UBSが買収することが決まり、いったんは危機不安が収束したように見えた。

だがその後も、イエレン米財務長官の預金保護に関しての一部撤回とも受け取れる発言が報じられると株価が大幅に下落するなど、金融システムへの不信感はくすぶり続けており、今後の見通しは依然として不透明だ。

今回の金融不安はなぜ起きたのか? そして"第二のリーマン・ショック"の危機は本当に去ったのか?

「金融不安の背景にあるのは、昨年以来、アメリカやヨーロッパで行なわれてきた『利上げ』による影響と、SNSの広がりが加速させた『不安の拡散』だと思います」

と語るのは、経済アナリストの中原圭介氏だ。

「長く続いた金融緩和の時代が終わり、アメリカの中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、2021年の秋頃から金融引き締めに転じる姿勢を見せていました。

そして昨年から、FRBは0.75%の利上げを4回連続で行なうなど、異例ともいえるスピードで利上げを進めていき、これに追随する形で欧州中央銀行も、利上げの方向へとかじを切りました。

その影響をダイレクトに受けて、財務状況が急激に悪化したのが破綻したシリコンバレーバンクです。

一般的に金利が上がると債券の価格が下がる傾向にあるため、すでにおととしに利上げの兆候があった時点で、そうなることは予想できたはずでした。ところが、シリコンバレーバンクは米国債の長期債などを中心に、極端に債券に偏った形の運用を続けていたことから、利上げによる債券価格の下落で巨額の含み損を抱えたのです」

また、預金者の大部分が、通常は預金保護の対象とならない企業や法人だったというシリコンバレーバンク特有の事情も、破綻の大きな要因になったという。

悪化していた財務状況がSNSで瞬く間に広がり、シリコンバレーバンクの預金引き出しに人々が殺到。経営破綻に至った悪化していた財務状況がSNSで瞬く間に広がり、シリコンバレーバンクの預金引き出しに人々が殺到。経営破綻に至った

「同銀行の顧客の中には、『コロナバブル』の恩恵を受けてきたIT情報系企業が多かったのですが、コロナが落ち着いて各企業の業績が悪化、その後リストラを強いられ預金の引き出しが増えたことで、銀行が抱える債券の含み損が表面化しました。

その財務状況に関する不安がTwitterなどのSNSによって瞬時に拡散し、預金引き出しが殺到して経営破綻に追い込まれた。

つまり、人々の疑心暗鬼が急激に広がったことで起きた『Twitter型銀行破綻』なのです。10年前であれば、こうした破綻は起こりませんでした。初めてのケースだと思います」(中原氏)

■日本でも同様の破綻が起こる?

このように、いくつかの事情が重なって起きたシリコンバレーバンクの破綻だが、いったん金融システムへの不安が膨らむと、一種のパニックになって雪崩のような連鎖反応を引き起こすのが金融危機の恐ろしさだ。

その心理的な不安のターゲットになっているのが、経営内容や財務状態に何かしらのキズを抱えた金融機関だと中原氏は指摘する。

「不安材料は金融機関によってさまざまです。例えばシリコンバレーバンクに続いて経営破綻したシグネチャーバンクは、昨年11月に破綻した暗号資産交換業者大手のFTXなど、仮想通貨関連企業との取引が多いことが不安視されて、預金の引き出しが殺到したといわれています。

またクレディ・スイスも、昨年破綻した米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントへの高リスクの投資に入れ込んで巨額の損失を計上したほか、マネーロンダリング(資金洗浄)などの不祥事や経営ガバナンス上の問題が次々と発覚。大きく信用を失っていたところに今回の金融不安が起きて、とどめを刺されてしまった形です」

さらにここ数年、ロシアを巡る資金洗浄対策の問題が指摘され、経営再建を進めていたドイツ最大手のドイツ銀行が大幅な株価下落に見舞われ、ドイツのショルツ首相が「ドイツ銀行の経営状況は健全で、第二のクレディ・スイスにはならない」と強調するなど火消しに追われている。中原氏が続ける。

「ただし、アメリカの大手銀行の財務状況は健全で、現時点でリーマン・ショックのような世界的な金融危機が起きるとは考えにくい。

破綻を回避したクレディ・スイス。同じスイスの大手投資銀行UBSが買収することが決まった破綻を回避したクレディ・スイス。同じスイスの大手投資銀行UBSが買収することが決まった

先日、イエレン財務長官の発言で金融不安が再燃する動きも見られましたが、当初アメリカ政府は素早く預金保護を明言し、スイス当局もクレディ・スイスの買収交渉を短期間でまとめるなど、各国が『危機は小さいうちに鎮める』という姿勢を示した点はリーマン・ショックの教訓が生かされているのだと思います。

一方で、経営や財務状況に問題がある中小の銀行や、金融当局の規制が及ばないヘッジファンドなどで、低金利の時代に利益を出そうとリスクを度外視した運用をしていたところには、まだまだ火種が残っている可能性はある。

今回の金融不安は、ゼロ金利時代に蓄積された金融業界のゆがみが、利上げの時代に転じたことで一気に表面化したといえるかもしれません」

ちなみに、日本でも債券の運用に大きく依存している金融機関は少なくなく、その中には米国債の下落で多額の含み損を抱えている地方銀行もあるという。

アメリカやヨーロッパと異なり、日銀総裁の交代後も金融緩和を当面続けるという日本だが、景気が上向く兆しも見えない中、国際的な金融不安の火の粉が日本に飛び火する前に、何かしらの手を打っておく必要がありそうだ。