企業のメルマガってショージキ、読み応えがあるものは少なくないですか? ところが、メルカリから届くトレンド通信は、「え、そんなものが今人気なの!?」などといった驚きが毎回あり、めちゃめちゃ面白いのだ。
トレンド分析の基となるのが、メルカリが発表している物価指数。一年の推移を振り返りながら、リアルな消費動向を深掘り!
■どうしてメルカリが物価指数を?
物価の高騰が続く中、一風変わった「物価」が注目されている。フリマアプリ運営のメルカリ社が毎月発表する「メルカリ物価・数量指数」だ。これはメルカリ内でやりとりされるモノの価格と流通量の変動を表す指数で、メルカリ総合研究所が昨年5月から毎月発表している。いわば、ユーズド品の物価・数量指数だ。
例えば、最新のデータである2023年2月のデータを見ると、レディースのレッグウェア価格が前年同月比119.1%と、大幅に上昇している。メルカリ総合研究所によると、昨今の電気代高騰により、防寒に使えるレッグウェアへの需要が増したせいだという。
だが、不思議な値動きを見せる商品も多い。例えば、今年1月の前年同月比物価上昇率トップ5を見ると、どういうわけかメンズ水着が大幅に値上がりしているのだ。なぜ真冬に水着を欲しがる男性が続出しているのか? メルカリ総合研究所研究委員の志和あかね氏に聞いた。
「実はこれ、不思議な値動きではありません。メルカリではもともと、秋・冬には水着がよく売れるんです。
というのも、オフシーズンだとデパートなどで水着が買えなくなりますよね。だから、海外旅行などで水着が必要な人たちがメルカリで探すんです。今冬はスポーティなタイプの水着もよく売れているので、運動不足を乗り越えようとプール通いを始めた人の需要もありそうです」
ところで、メルカリはなぜ物価・数量指数を発表しているのだろうか?
「リユース市場は21年には約2.7兆円にまで拡大し、この傾向はまだまだ続きそうです。ところが、各品目の価格変動に関する詳細なデータがない。そこで、月間延べ利用者数が2000万人を超えるメルカリ内の物価や流通量の変動を公表することで、経済や消費行動の研究に役立ててもらおうとしたんです」
物価変動に詳しい経済アナリスト・森永康平氏もメルカリ物価指数に注目する専門家のひとりだ。
「物価の指標としては、総務省が毎月発表している『消費者物価指数』が非常に網羅的で厳密なデータです。一方で、メルカリ物価指数はニッチな消費者心理をより色濃く反映しており、生活感があって生々しいのが特徴。映画のチケットとかユーズドのアクセサリーとか、消費者物価指数では絶対に測れないものの価格変動が見えますからね」
ではここからは、とりわけ消費トレンドが追いやすい物価指数に注目して、公表が始まった22年4月からのデータを見ながらこの1年間の隠れた消費者心理を探ってみよう。
【22年4~7月】コロナ禍の影響がモロに表れる
22年4月の前年同月比物価上昇(以降、特に断りのない場合は前年同月比)のトップはアクセサリー/時計だった。メルカリはこれを、コロナ第6波がピークアウトし、徐々に外出する人が増え始めたことの影響ではないかとみている。
続いて、翌22年5月の物価上昇トップ1、2位は演劇・芸能やスポーツのチケット。チケット類は20年春の緊急事態宣言によって暴落して以降、少しずつ価格が上昇しており、その影響が表れている。
逆に、メルカリ物価の低下にも大衆心理を読み取ることはできる。22年6月の物価下落の3位はレディースのジャケット/アウターなのだが、これはこの年6月の、関東を中心とした記録的な猛暑の影響がありそうだ。出品量が増加していることも、この推測を裏づけている。
このほかにも、メルカリ物価の意外な値動きから、社会の変化が読み取れることは少なくない。例えば、20年春から楽器・器材カテゴリーの物価が上昇し続けているのは、コロナ禍によって家で過ごす時間が増えたから。
また、やはりコロナ禍に見舞われてからマタニティカテゴリーの出品数が減り続けているのは、不安から出産を控える人々が増えたことの影響と言えそうだ。実際、国のデータでも、コロナ禍で出生数が減ったことは確かめられている。
【22年8~12月】女性プレイヤーの増加でトレカ市場が活況
22年8月の物価上昇第4位はスマートフォン/携帯電話だ。これは半導体不足に加え、20年9月以降の大手キャリアによる中古スマホ販売参入の影響だと志和氏は言う。
「スマホに限りませんが、物価高騰などもあり、リユース品を使うことが当たり前になってきています。女子大学生と話をしたときに、『将来的にメルカリなどで売るときの価格を考えて服を買っている』という話も聞きました。
メルカリに出品しやすいように、ブランド品であることを証明できたり、購入価格がわかるタグをとっておく若者も多いですね」
消費行動自体が変わりつつあるということだ。また、メルカリの利用動機にも変化が起きている。
「実は、60代以上の利用者も増えており、ひとり当たり平均年間出品数は約72個と20代の約2倍にも及ぶんです(2021年3月時点)。シニア層の利用動機は、おトクに商品を買いたいのはもちろんのこと、取引時のチャット欄で会話を楽しみ、コロナ禍での孤独感を解消していたのも大きいようですね。
また、少し古いデータですが、2018年の調査ではメルカリでの平均滞在時間が、FacebookやInstagramといったSNSより長かったんです。意外な掘り出し物を探すこと自体が楽しいからでしょう」
話を戻して、22年9月の物価に目を向けると、上昇率5位にはトレーディングカード(トレカ)が入っていた。
「YouTubeでの対戦動画やパック開封動画を見る人が増えたことから、男性に限らず女性プレイヤーが増えたことが大きいでしょうね。一般市場での需要増に連動してメルカリでの売買も増えていますが、コレクションとしての人気もあり、投資商品として扱われている側面もあります」(志和氏)
コロナ第7波が収まりつつあった22年10月の物価上昇率トップは演劇/芸能のチケット。メンズアクセサリー(2位)やスポーツのチケット(5位)と相まって、外出への強い意欲がうかがえる。
屋外での脱マスクの雰囲気が広がり始めた22年11月頃からは、オーラルケア用品の出品量が減り始めた。
「一日中マスクをつける生活によって自分の口臭が気になる方が増え、オーラルケア意識が高まったといわれています。したがって、マスクを外す時間が増えたことに伴い、オーラルケア用品の出品も減ったのでしょう」(志和氏)
ただし、出品量こそ減ったものの、メルカリでの物価は横ばいのままだ。
22年12月には年間のデータも発表している。18年と比べて物価指数が最も上昇していたのは、なんと自動車本体。実は16年より自動車やバイクの取り扱いが始まっており、活発に取引されているのだ。
ランキングの詳細は表にまとめたが、密を避けて楽しめるアウトドア関連商品をはじめ、コロナ禍の影響が色濃く残る一年だったことがわかる。
【23年】謎の値動きをするカーテン/ブラインド
明けて23年1月のデータでは、冒頭で記したメンズ水着の値上がりが目を引くが、トレカの大幅な値上がりも目立つ。一方で興味深いのが、カーテン/ブラインドが前年同月比で68.5%と著しく値下がりしていることだ。
「下落の理由はわかりません。研究所では毎月、データを見ながら値動きの理由について議論するのですが、結局、原因がはっきりしないケースも少なくないんです」(志和氏)
前出の森永氏はこう言う。
「消費者物価指数の値動きはせいぜい十数%くらいですから、数十%の価格の変動が起こるメルカリ物価指数は、カテゴリーの分け方による数値の偏りが起きていたり、プレミア値などの『最大瞬間風速』の影響も受けていることには注意が必要でしょう」
それを踏まえ、森永氏はメルカリ物価指数の楽しみ方を提案する。
「リアル店舗だと物理的な限界がありますから、あまりニッチな商品は置けません。Amazonでさえ、倉庫に商品を置く以上、限界がある。でも、個々人が出品するメルカリにはその限界がありませんから、すごくマニアックな市場が形成されるんです。
例えば、崎陽軒(きようけん)のシウマイに入っている、顔が描かれた醤油差し。あれは表情にバリエーションがあるのでコレクターズアイテムになっています。超レアアイテムである金色バージョンは、1万円をはるかに超える価格で取引されたりします。
これはおもちゃカテゴリーやインテリア・住まい・小物カテゴリーなどに出品されていますが、そんなニッチな世界の値動きも織り込んだデータが出てくるのがメルカリ物価指数の楽しさですね」
メルカリ物価指数は毎月、同社のニュースレターなどで発表される。消費者物価指数にはなかなか反映されない、世間の隠れたトレンドやマーケットを探りたい人は眺めてみるといいかも!