パンデミックの終息を受け、訪日観光客の戻りが顕著だが、商機を得るはずのインバウンド業界は人手不足に悩まされているパンデミックの終息を受け、訪日観光客の戻りが顕著だが、商機を得るはずのインバウンド業界は人手不足に悩まされている
5月に入り、急にコロナ禍は過去のものになり、街に人が溢れるようになった。東京の都心部の場合はとくにインバウンドの外国人が目立つようになってきた。

観光業界にとっては待ちわびた"アフターコロナチャンス"の到来なのだが、関係者の話を聞くとどうもいいことばかりではない。浮かぬ顔をしている経営者が少なくないのだ。理由は「人が採用できない。人が足りない」ということだ。

■コロナ禍で失われた労働力

この3年間で労働市場を巡る状況は大きく変化した。もともと言われてきた少子高齢化は予測通りに進行して、若い労働力は着実にその数を縮小してきた。さらに無視できない変化といえるのは、コロナ禍で起きた「人生を見直す」動きだ。

アメリカでは国民の3%程度の規模で、それまでの人生を見直し、自発的に離職する人が出てきた。仕事中心の人生から自分中心の人生に路線を変更するという考えになったのだが、経済全体で見れば働かない労働人口が3%もの規模で出現したことになる。日本の労働人口は6000万人ぐらいだから、3%といえば180万人。これは産業全体に相応のインパクトのある数字である。

それに追い打ちをかけて、日本では外国人労働者が増えていない。今の円安水準だったら、どうせ出稼ぎに行くなら韓国か台湾の方が割がいい、と彼らが思うようになってきた。だから、インバウンド特需が戻ってきたにもかかわらず、コロナ禍で人を削りすぎた会社にとってはそのビジネスチャンスが機会損失になってしまう。

■外国資本が日本で狙う商機

GW中にこんなことがあった。東京の臨海エリアの大型商業施設に家族で出かけ、夕食の時間帯になった。美味しそうなイタリアンのお店があったので入店しようとしたのだが、店内は一見ガラガラなのに席がテラス席しか用意できないという。予約の団体客がこの後やってくるというのだ。

わたしたちの前のカップルは別の店に移ったが、わたしたちはテラス席で食事を始めることにした。そこにヨーロッパからの団体客とおぼしき30人ぐらいの一団がレストランに入ってきた。店内はほぼ団体客の貸し切り状態となり、店員は大忙しの状態になった。

中国系旅行会社のなかには、非中国系の外国人観光客をも顧客として取り込む動きをしはじめているところもある中国系旅行会社のなかには、非中国系の外国人観光客をも顧客として取り込む動きをしはじめているところもある
私たち家族は先に注文を済ませていて、店が混む頃にはメインディッシュのタイミングだったので問題は起きなかったのだが、満席となったあと明らかに店内は混乱しはじめた。フロア担当の店員がふたりしかいないので、オペレーションが回らないのだ。

しばらく眺めているとようやく状況は落ち着いてきて、観光客たちの食事が始まったタイミングで、添乗員ふたりがテラス席の私たち家族の隣のテーブルに腰を下ろした。そこで初めて気づいたのだが、ツアーの添乗員ふたりは中国人で、日本語含めて少なくとも3か国語が話せるようなのだ。

興味深かったのは、途中で添乗員の男性が店主を呼んでアドバイスを始めたことだ。

「あなた、今みたいな注文の取り方してたら大変だよ。個別の注文を許したでしょう? あれでみんなどんどん勝手な注文をはじめたから忙しくなったのよ」

と、お店のサービスにツアコンの視点からいろいろとダメ出しをしている。私もコンサルタントなので、「なかなか的確なことを言っているな」とその添乗員に感心したものだ。

外国人資本家への利益流出の可能性を指摘する鈴木氏外国人資本家への利益流出の可能性を指摘する鈴木氏
この体験で私が感じたことは、インバウンドの復活は日本人だけのビジネスチャンスではないということだ。中国の旅行会社が欧州で団体客を獲得し、日本語の話せる中国人社員に日本でビジネスをさせて儲(もう)けているわけだ。

「アフターコロナになれば、いずれいなくなった外国人労働者も戻ってくる」。日本人は思っているが、ひょっとすると戻ってくるのは、外国人資本家の方なのかもしれない。注意が必要だ。

●鈴木貴博 
経営戦略コンサルタント、百年コンサルティング株式会社代表。東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループなどを経て2003年に独立。未来予測を専門とするフューチャリストとしても活動。近著に『日本経済 復活の書 -2040年、世界一になる未来を予言する』(PHPビジネス新書)