「上の世代の人は持っている権益や関係性を若い世代に惜しみなく与えて若手が育つ肥沃な土壌になろう」と語るメン獄氏「上の世代の人は持っている権益や関係性を若い世代に惜しみなく与えて若手が育つ肥沃な土壌になろう」と語るメン獄氏

「コンサル」と聞くと、スマートに働くイメージを持つ人も多いだろう。しかし、大手外資系コンサルティング会社に勤めてきたメン獄氏が初著書『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』で描くコンサルの世界は、むしろアツく、キツく、泥くささも感じさせる。

超効率重視なコンサル業界に身を置いてきたメン獄氏は、日本社会の働き方をどう見ているのか。

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――まず、コンサルタントという仕事について教えてください。

メン獄 コンサルとは、経営者との関係性と自らの経験や専門性を武器とする、経営全般に対してのアドバイザリー業務です。

最近はそれに加えて、最新テクノロジーを用いた経営の効率化や事業拡張を得意とするITコンサル、M&Aを検討しているクライアントに対して財務や金融のアドバイスをするファイナンシャル・アドバイザリー・サービスなど、多様な企業支援が行なわれています。

コンサルには効率主義なイメージがあると思いますが、そのとおりで、どれだけ短期間に、高品質な付加価値が生み出せるかに心血を注ぐ業務なので、時間単位の生産性にかなりのプレッシャーがかけられます。

――本書は、メン獄さんが入社してから退職するまでの出来事が時系列に書かれており、登場する同僚が個性豊かで小説のようでした。一方で、エクセルやパワーポイントなどの便利な時短テクニックなども差し込まれる独特な作りでした。

メン獄 実はこの本は、勤務していた会社を退職することを決意した際に、最後の部下となったスタッフに向けて書き始めたのがきっかけなんです。自分が上司として彼女をスーパーバイズ(指導)できる時間が3ヵ月を切っている中、この業界で働いていく上での道しるべを残せないかと考えて着手しました。だから"マニュアル"なんです。

――第1章のタイトルは「"速い"はそれ自体が重要な価値だ」。スピード感を重視するコンサルに比べると、日本社会全体では時間当たりの生産性が意識されていないと感じます。

メン獄 コンサルは特に時間に対する生産性を重視しますが、すべての業種においてそれが正義だとは思いません(笑)。ゆとりの中で生まれるアイデアもあると思いますし。

――意外です! 日本社会はコンサル業界のように効率を重視すべきだと考えているかと。

メン獄 僕としてはむしろ、新しい事業を考えてつくっていく人が増えていかないといけないと思っています。NHKの調査によれば、就活口コミサイトが発表した東大生・京大生の2023年卒業生の就活人気ランキングにおいて、トップ10の半数をコンサル会社が占めているんです。

僕はそこに問題意識があります。皆でコンサルやってもしゃあないので、それよりも医療、教育、エネルギー、農業などの社会インフラに若い才能が行きたくなる仕組みづくりが必要だと感じます。

――昨今は働き方改革に加え、新型コロナの影響によるリモートワークの増加など、社会全体で仕事が変化しています。そんな中で、メン獄さんが後輩育成のために心がけたことは?

メン獄 コミュニケーションの時間をちゃんとつくることです。僕の場合は朝15分、夕方15分と毎日時間を取って、仕事の話も関係のない話もしていました。それによって、僕がどういう人間で何を大事にしているのかが伝わる。

もちろん、相手のことも知れますし。というのも、対面のコミュニケーションは問題なく行なえるのに、オンラインのコミュニケーションがヘタな人ってけっこういるんですよ。例えば、後輩から届いたメールに誤りがあったときに「それ違うよ」って送るとするじゃないですか。

送った本人は全然そんなつもりなくても「怒ってるのかな」とか思われかねない。絵文字のひとつでもつければいいんですけどね。でも、対面でちゃんと関係が築けていたら「この人はメールだと、こういう言い方もするよね」くらいの反応になる。

――なるほど。

メン獄 とはいえ、コロナ禍によってもたらされたリモートワークは、目に見えない形で社会全体の大きな足かせとなっていたと感じます。教わる側はもちろん、教える側にも。これまで若手が見て覚えていたものまで伝えなければならなくなったワケですから。改めてオフィスのすごさを感じました。

――オフィス、ですか?

メン獄 少し視線を動かすだけで、どこで誰が何をやっているのか把握できるし、隣の会話も聞こえてくるし、後輩がテンパってたらすぐに声がかけられる。フロアのすべての情報が頭の中に無意識に入ってくる環境ってパフォーマンスが上がるんです。オフィスがあるだけで、新人研修のコストもかなり下がっていると思います。

――日本の職場にまだ根強く残っている残業時間至上主義はどうみていますか?

メン獄 日本がまだ貧乏だった頃は働けば働くほど儲かったんでしょうが、今は違いますよね。現在の日本経済は物にあふれていて、発展しきった状態ともいえる。

だから、量を創出するために使っていた時間と頭を日本が今後ぶち当たる少子化などの課題解決に使うべき。労働人口が減っていく中で、どうレバレッジをかけてこの国を支えるのかを考えていかなければならないと思います。

――働く世代のわれわれは具体的にどうすれば?

メン獄 やっぱり若い世代が働きやすい環境づくりだと思いますよ。そのために、上の世代は自分が持っている権益や関係性などのリソースを惜しみなく後輩に分けるべきだと思います。

あとは意義がなくなった古いしきたりをなくすこと。昔から、「就職は人生の墓場」だといわれてきたじゃないですか。大学までが楽しくて、就職したらそこから先何十年も労働、みたいな。でも、そういう意識って僕らのような上の世代の人たちのしきたりや思い込みが積み重なった結果だと思うんです。実際、仕事はもっと自由にやっていいはずなんです。

まずは自分の後輩に「あ、仕事ってこんなに自由にやっていいんだ」って思わせる。大きく言うと、そう思える若手をどれだけつくれるのかに日本の未来はかかっているとも思います。そのために、僕ら世代はもう古いしきたりと一緒に心中して、後輩のための肥沃(ひよく)な土壌になることが大事だと思います(笑)。

●メン獄(めんごく)
1986年生まれ、千葉県出身。上智大学法学部法律学科卒業後、2009年に大手外資系コンサルティング会社に入社。2021年に退職後、医療業界全体のDX推進を目指すスタートアップ企業にDXコンサルタントとして就職。主に大企業のテクノロジーを用いた業務改革の実行支援・定着化、プロジェクト管理、運用設計が専門領域。コンサルティング業界の内情やDXトレンドを紹介し、仕事をよりポップな体験として提案するTwitter、noteが人気を博す

■『コンサルティング会社完全サバイバルマニュアル』
文藝春秋 1980円(税込)
大手外資系コンサルティング会社に12年間勤めてきた著者が、入社から退職までを振り返り、コンサルタントという仕事において得てきた見識をまとめた一冊。アナリスト編、ジュニアコンサルタント編、シニアコンサルタント・マネージャー編に分かれており、それぞれの立場や役回りによって求められる能力がどう変化するのかなどを分析している。エクセルやパワーポイント、議事録を作る際のテクニックまで惜しみなく書かれている

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