書店には、毎日何冊もの新刊本が置かれているが、ついつい男たちの目に留まってしまう書籍がある。それが『女子大生、オナホを売る。』だ。
衝撃的なタイトルながら、ページをめくれば実はまっとうなビジネス書。どのように売れるオナホにするか、リサーチ方法やコンセプト設計など、当時行なったマーケティング手法が具体的にまとめられた一冊だ。実際に読んでみると、この本のタイトルも本書に書かれているようなマーケティング的観点から作られていることがわかる。多くのビジネスマンから絶賛され、現在2万6000部を超えているマーケティングの入門書なのだ。
そんな本書の著者は現在26歳の神山理子(通称:リコピン)さん。大学生時代にオナホールを開発し、人気商品にまでしたわけだが、なぜその若さでヒット商品を作れたのか。そこには幼少期から培った素質があった。
■オタク偽装で身に付いた"傾聴力"と"洞察力"
神山さんが初めて"ビジネス"を手がけたのは、学生時代だ。学校に七輪と鮭を持ち込み、火災報知器を鳴らしてしまい、停学に。アルバイトもできなくなったため、自ら音楽を販売し始めた。
「最初はメルカリでいろいろ売ってたんですけど、売るものがなくなって、音楽を販売し始めました。小学生のころから初音ミクやニコニコ動画とかの影響で音楽は作っていたんですよ。そのころからブログもやっていたので、BGMなど素材として販売していることは知っていたんです。
ただ、その販売サイトにあがっている音楽のタイトルがローマ字で『ロマンティックメロディー』とかすごく抽象的でわかりにくく、探すのがダルかった。だから、ローマ字の中に日本語があれば目立つし、『ドライブデートの帰りに聞く曲』とか使用シーンを明確にすればクリックしてもらえると思って工夫しました」
マーケティングとは、消費者の行動や思考に合わせた売れる仕組み作り。音源を探している人は欲しい曲のイメージを持っているため、その人たちに合わせて商品名=タイトルを考えたのだ。
「高校時代、友人の相談にのることが多かったんですよ。そのときにすごく思ったのが、『みんな理詰めで行動せず、感情で動くことが多いな』ってこと。人間はコントロールできないと思ったんですよ。
でもマーケティングの本を読んだら、購入までコントロールしているじゃないですか。それこそテレビショッピングなんて、人の心理をうまく誘導して購入させています。本来コントロールできない部分をコントロールするのがめちゃくちゃ面白いなと思って、マーケティングに興味をもちました」
高校生時代に消費者行動論に関心を持ったという神山さんだが、それ以前から人の心理を考え続けていたという。それは「オタク寄りだった」中学生時代だった。
「中学のころ、AKB48と嵐がはやってたんですよ。私はボカロとか本が好きで、どっちも全然興味ないけど、仲良くならなきゃいけない。だからAKBや嵐の話をしないで仲良くなるには、みんなが話している時にどういう話にいきつきたいのか、共感し合いたいとか、学びになるような話がしたいとか、最初に見極めるようにしました。相手が話したいことを話せるようになれば、距離も縮まって仲良くなれるので。
揉め事に絶対巻き込まれたくなかったんですよ。どこかの派閥に所属すると敵は生まれるので、できるだけカジュアルなオタクに擬態しながら中間にいようと思っていて。そうすると多方面に対して理解が深くないとそのポジションにつけない。それで"傾聴力"や"洞察力"は身に付いたんだと思います。周りの人がどんな人なのか、何に興味があるのか見極めて、敵を作らないよう等しく友達になるために」
"傾聴力"や"洞察力"は消費者の隠れた欲求=インサイトを聞き出すには必要不可欠な要素。思春期の子供たちが作るグループから外れながらも、浮いている存在ではなく認められるためにそのスキルが磨かれていたのだ。
■エロというタブーを知るのは楽しかった
さらに神山さんの素質として持ち合わせていたのが、"好奇心"と"衝動性"だ。
本書のタイトルにあるように大学時代にオナホを開発したが、そのきっかけはインターン中に上司から言われた「オナホ、作ってみなよ」というひと言。神山さん自身、エロは嫌いで下ネタも苦手な女子大生だったが、戸惑うことなく受け入れた。
「拒否するつもりもないというのもありましたけど、人が考えてることを知りたいっていう好奇心ですね。さっき言ったように人の欲求だったり、理屈で説明できない行動に興味があるんですけど、その中でもエロってタブーな話題。あまり普段は人に聞けないことなので、それこそインサイトを掘っていて楽しかったです。学びが深くて。こういうこと考えてるのか、なるほどねと(笑)」
インサイトを掘るために、友人にアンケートをとったり、アダルトグッズ店から出てくる客に話しかけたり、マッチングアプリで出会った人にオナホについてインタビューしたという。マーケティングのリサーチとしては普通のことであるが、モノがモノだけになかなかできることではない。極めつけはオナホ使用中の"リアルタイムインタビュー"だ。
「友人に他社のオナホの使用レビューを電話で聞く予定だったんです。でもなかなか電話がかかってこないので、こちらから電話したら、ちょうど使っている途中で『待って、待って、今やってるから!』って言われたから『じゃあ今教えて!』って。
終わってから感想を聞いても、賢者タイムで落ち着いちゃって、感想が変わっちゃうんじゃないかと思ったんですよ。終わる前に聞かないとダメだと。最初はたまたまでしたが、ほかにふたり、リアルタイムでレビューを聞かせてもらいました。みんな、ビジネスをしている友人で意図を伝えたら『マーケティング的にはそうだよね』と納得してくれたので、ありがたかったです」
ビジネスのためとはいえ、躊躇しそうなものだが......。神山さんは「それはまったく無かった」と断言する。
「昔から衝動性が高いとは言われますね。やりたい、知りたいと思ったことをやらずに終わるのがすごくイヤ。なので、オナホの使用中に感想を聞くのも、そもそも必要なことですし、今聞くべき!と思って聞きました。
さすがにモラル的にまずいことはしませんが、雑草を食べて生活したらどうなるのかなと思って、1カ月半、雑草とヤクルトと少しのお米だけ食べてたら17キロくらい痩せたこともありました。
学校を停学になった七輪の件もそうですけど、人と違うことをすると面白いことが起きやすい。だからできるだけそういう経験をしておこうと決めていて、やってみようと思うとすぐやってしまいますね」
本書でも綴られているが、マグロ漁船やヒヨコの雌雄鑑別のバイトを経験したのも、「やってみたい!」と思ったからだ。
「マグロ漁船は、オナホを作るかブラックバイトメディアを作るか考えていた時に、知り合ったんですよ。ブラックバイトメディアのクライアントになるかもと思って連絡先を聞いていたんです。それでオナホを作ったあと、次の事業の準備で時間ができたので、せっかくなら働いてみたいと思って連絡をとったら受け入れてくれました。ほとんど役には立っていないんですけど(苦笑)。
ヒヨコも珍しい資格を取りたいと思って『ひよこ鑑定士』の資格が出てきたので、求人を探して。けっこうそういう人がいるみたいでコスパは見合わないけど需要はあるそうなんです。それはやってみたから知れたことだと思っていて、やっぱり色んな経験をしておくのは大事だと思いました」
神山さんは「やらないと気が済まない」というが、衝動性は言い換えれば、行動力。理由はともあれ、多岐にわたる好奇心と突発的な衝動性が合わさることで、多面的な知識や経験を身につけられたのだ。
すでに若手事業家として結果を出し、今回の出版に至った神山さん。今後、何を目指しているのか。
「事業としては、人の話を聞く仕事をしたいですね。何者でもない人間に、適切に話を聞いてもらえることってあまりなく、価値のあることだと思うんです。個人でコンサルティングを請け負ってはいますが、解決策がほしいわけでなく話を聞いてほしいという需要もあるはず。有料にすることで話す内容の解像度もグッとあがるんですよ。だからお金をいただいて話を聞くことで、相手にもメリットがあると思います。
あと、今回出版したことでこうしてメディアに出ることになりましたけど、もし今後こういった機会があるなら、ビジネスじゃないことで出たいですね。雑草ソムリエとか。ビジネスやってた人が10年後もビジネスやってるって面白みがない。そういう意外性は欲しいし、期待は裏切っていきたいです(笑)」
衝撃的なタイトルで目を引く『女子大生、オナホを売る。』。ビジネスで成功を収めた著者が、これから何を仕掛けていくのか要注目だ。
●神山理子(かみやま・りこ)
1997年生まれ。明治大学商学部卒。20歳の時、インターン先で音楽メディアの運営責任者へ抜擢。その後、オナホールメーカーを起業し、"育てるオナホ"をコンセプトにした『淫乱覚醒』はAmazonランキング4位とヒット商品に。WEBマーケティング会社を立ち上げ、翌年売却。現在は個人でコンサルティングなど請け負う。
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