現在、外国人観光客が急増中という岡山県倉敷市の街並み現在、外国人観光客が急増中という岡山県倉敷市の街並み
上がらぬ給与に、高騰する物価。冷え切った日本経済の先行きには暗雲が重く立ち込めるが、一筋の光となりそうなのがインバンド特需だ。

日本政府観光局の推計値によると、2023年4月の訪日外国人数は194万9100人。これでもコロナ前の2/3ほどで、「今後さらなる盛り上がりが期待できる」と観光業界に従事する者は口をそろえる。

岡山県・倉敷市。川が流れ、白壁の蔵屋敷や柳並木で知られる美観地区はかねてから外国人に人気のエリアだが、今、外国人旅行者が殺到しているという。ボランティアガイドを務めていた女性が語る。

「外国人観光客はすっかり戻ってきて、街にも活気がでてきました。夜、居酒屋に行って外国人を見ない日はないし、休みの日になると道中に溢(あふ)れていて、自転車で通るのもひと苦労(笑)。

アメリカや欧州、中国だけでなく、チリやアルゼンチンなんかからも旅行者がお見えになります。私たちボランティアガイドは英語の通訳が必要なときに呼ばれたりすることもあるのですが、最近は翻訳アプリがだいぶ進化していて、メニューをカメラにかざすだけで翻訳できたりするのね。コミュニケーションの壁はどんどん低くなってるように感じます」

■滞在期間が長く移動時間を気にしない欧米人

日本人が想像する海外旅行というと、GWやお盆、正月を使っての5泊6日、長くても8泊9日くらいが関の山だろう。ところがインバウンド勢は事情が違う。彼らのバケーションは我々と違って、だいぶ長い。

「せっかく日本に来るのだから、2週間、あるいは3週間滞在したいという声が訪日外国人にはとても多い。加えて、欧州やアメリカの人は移動時間への抵抗が少ないのも重要なポイント。

『東京~博多間で5時間新幹線に乗る』というと、日本人は過酷だなと感じるでしょうが、長い距離の移動に慣れている欧米人にすれば『寝てれば着く』という感覚。一度日本に来たからには、とことん楽しんで帰りたいと思っているのです。インバウンドを考えるうえで、彼らのこうした感覚を理解するのはとても大切」

こう語るのは、自治体のインバウンド支援や地方創生を手掛けるイマクリエの鈴木信吾氏だ。「円安と相まって、グローバルな観光市場における日本の存在感が日に日に高まっている」と感じた鈴木は、パリとバルセロナに飛び、現地人の意識調査を実施。「日本で行きたい場所はどこか?」とアンケートを取った。その解答は以下だ。

1位 東京 
2位 京都 
3位 田舎 

この結果を受けて鈴木氏が語る。

「パリとバルセロナでイベントを行なった際に、来場者にアンケートをとったのですが、『日本の田舎』の需要の高さに驚きました。『バケーションは郊外でゆっくり過ごす』というのが彼らのスタイルで、日本に来ても、東京みたいな大都会は最初と最後の1~2泊でよくて、滞在は山や海、のどかな田園風景を楽しみたいという声が非常に多かったんです。

あるフランス人は、2週間の滞在で東京→静岡→広島→福岡→屋久島と周るのだと教えてくれました。また別の方は、ジブリや『君の名は』のファンらしく、飛騨高山に行くなど聖地巡礼したいと。日本人が気づいていないだけで、今、田舎には相当なポテンシャルが眠っているのです」

前出のボランティアガイドもこう話す。

「先日案内したドイツの方は、『焼き物を見るために日本に来た。2週間かけて全国を回る』と語っていました。備前、唐津、伊万里、有田なんかを見て周りながら、出雲大社に参拝して帰るんだと。

一緒にお酒を飲んだのですが、平均的な日本人よりもよっぽど日本の文化や歴史を知っているのでは、と感心しました。温泉も楽しむし、宿坊にも泊まってみたいと語ってましたね」

■"インバウンド特需"を地方が享受するために

ビジネスチャンスは、田舎にこそ眠っている。では、それをどう掘り起こすか。鈴木氏の提案は明快だ。

「ひとつは、発信力を高めること。長野の野猿公苑は『猿が温泉に入っている』写真が海外でも話題になって観光客を呼びましたが、インバウンド向けのニュースを掘り起こし、発信することはとても大切です。

テーマでいうとトレッキングや温泉、サーフィン、宿坊、寺社仏閣、日本食、異文化体験などは根強い人気があります。出し方ひとつで大きな話題になるので、SNS発信はマスト。自治体の方からの相談も実際に増えてますね」

SNSに投稿された「温泉に入る猿」の写真をきっかけに、世界的観光名所となった長野の野猿公苑SNSに投稿された「温泉に入る猿」の写真をきっかけに、世界的観光名所となった長野の野猿公苑
アプリが普及したとはいえ、言葉の問題もある。

「フランス人にとって英語は、日本人と同じで第二外国語。英語だけでなく、多言語化への対応は必須です。日本の都心部の旅行会社はどこも予約が埋まっていると聞きますが、地方の旅行会社はこの"インバウンド特需"の恩恵を受けているかといえばそうでもない。現地の旅行代理店と訪日外国人のつなぎ込みがスムーズにいけば、インバウンドもより盛り上がると思います。まだまだ改善の余地はあると思う」(鈴木氏)

今後も続々と来日すると見込まれる訪日外国人は、日本にとって数少ない希望の星だ。冷え込んだ地方経済を救う一手となるか。

●鈴木信吾 
イマクリエ代表取締役。2002年青山学院大学卒。完全テレワークの組織運営を得意とし、自治体支援を数多く手がけれる。2022年、「テレワーク先駆者百選」総務大臣賞を受賞