ヤマト運輸がDM便や小型薄型運送事業を日本郵便に全量委託するという協業が発表されたのは6月19日。ヤマトは集荷のみ行ない、仕分け~配達は日本郵便が担うことに ヤマト運輸がDM便や小型薄型運送事業を日本郵便に全量委託するという協業が発表されたのは6月19日。ヤマトは集荷のみ行ない、仕分け~配達は日本郵便が担うことに
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「日本郵便とヤマト運輸の協業」について。

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「ラブレターが書かれた冷蔵庫は『信書』に当たるか?」。2002年、衆議院の総務委員会で笑えるやりとりがあった。信書とは「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」、要するに手紙などであり、事実上、日本郵便しか送れないことになっている。

そこで当時、郵政関連法案の審議で野党議員が総務副大臣に冒頭の質問を投げたところ、回答は「信書と判断する」。皆が仰天した。じゃあその冷蔵庫は日本郵便しか配達できないの?

遡(さかのぼ)って昭和の時代、当時の首相のもとに女子高生からヤマトを通じて手紙とともにチョコレートが届いた。首相は笑顔で喜んでみせ、新聞各紙も好意的に報じた。しかし明らかに信書だ。郵政監察官はヤマトに警告書を送り付けた。......法律だからって厳しすぎない?

ヤマトの歴史は郵便事業(現日本郵便)との闘争の歴史だ。

ヤマトは1997年に「クロネコメール便」を開始。「信書を送る」とはいわずダイレクトメール等を狙ったものだったが、"信書と疑わしき内容"を運ぶ可能性を秘めていた。

それも2015年にはサービスを廃止。会見でヤマトは信書の問題をクリアできなかったと悔しさをにじませ、そして他領域での復讐を誓った。なぜここまで規制に守られる事業者がいるのだと。

この経緯を知ると、先日発表された「クロネコDM便」と「ネコポス」が日本郵便に移管される両者の協業には隔世の感がある。

ヤマトは関連事業の売上高が約1300億円と小さくはないが、小型の配送物は安い割に手間暇がかかり効率が悪い。しかも物流2024年問題をひかえ、人手不足や労務費の上昇もある。さらにEC各社は独自の物流網を整備している。そこで事業の再編が必要と判断した。もともとヤマトのトラックはある程度大きなものを運ぶのに適し、日本郵便はバイクや軽四輪など小回りがきく。

確執の相手とも組むタイミングだったというべきか。しかし仮名称が「クロネコゆうメール」「クロネコゆうパケット」ってのには笑った。昔の太陽神戸三井(現三井住友)銀行じゃないんだからさ。

これで大きな勢力図は、事業者向けが佐川急便、家庭向けがヤマト、小型や信書などが日本郵便、その他に特定EC向け物流となる。ヤマトから日本郵便への該当サービスの切り替え時期は今年10月から来年1月。現場は準備を急がねばならない。

ところで言いにくいのだが、少なからぬ利用者は日本郵便よりもヤマトの優位性を感じているのではないか。私の妻もメルカリ利用時は「ゆうパケット」より「ネコポス」を愛用していた。

しかしこれで信書はもとより、小型もあまり選択肢はない。日本郵便のサービス向上を願うしかないが、決算関連資料ではいくつかの懸念点が吐露されている。

IT化の進展により郵便物の減少が続いていること。人件費の上昇が利益を圧迫していること。具体的には、社員の高齢化に伴う厚生年金保険料、雇用保険料、健康保険組合保険料の負担増加などだ。しかも固定費や人員はそう削れず、委託先への報酬も上がっている。サービスの向上より、まずは維持ということかなあ。

巨大な事業を日本郵便に渡し、赤字にさせることで積年のヤマトの宿望が達せられた......なんてブラックジョークになりませんように。

●坂口孝則(Takanori SAKAGUCHI) 
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。『営業と詐欺のあいだ』など著書多数。最新刊『調達・購買の教科書 第2版』(日刊工業新聞社)が発売中!

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