「あれ、あのドラッグストア、うちの地方にしかなかったの?」と驚いたことのある人は少なくないだろう。そこで、個性豊かなローカルドラッグストアを北海道から沖縄まで一挙紹介! ドラッグストア業界は近年スーパーやコンビニを脅かす勢いで拡大を続けているが、そのワケをユーザーの声から探った!
■道民なら知らぬ者はいない有名チェーン
一般用医薬品をはじめ健康食品や化粧品、日用品などを豊富に取りそろえ、生活の強い味方となっているドラッグストア。2022年度の市場規模は前年比2%増の8兆7134億円と、コロナ禍を追い風にして拡大を続けている。
近年の業界のトレンドは、相次ぐ大型合併だ。マツモトキヨシが、同じく業界の雄であるココカラファインと経営統合したのが21年のこと。ほかにも売上高1位のウエルシアや2位のツルハも、これまで10社以上と合併しており、業界再編が進んでいる。
となれば画一化が進みそうなものだが、むしろ各社が個性を先鋭化させたり、そもそも地域密着型のチェーンがなおも残り続けているのが面白いところ。そこで今回は北海道、東北、関東、中部・関西、九州、沖縄の6つのエリアに分け、各地に住むユーザーにアンケートを実施。よく利用するドラッグストアチェーンへの愛を熱く語ってもらった。
また、06年の創刊以来、全国のドラッグストアチェーンの動向を追い続けている、国内唯一のドラッグストア業界専門誌『ダイヤモンド・ドラッグストア』の編集長・小木田(こぎた)泰弘さん、そして大のドラッグストアマニアとしてテレビなどでも活躍するライター・齋藤めぐみさんのおふたりにも取材。ドラッグストアの最新潮流や、業界が成長を続けるワケを教えてもらった!
ということで、まずは北海道から見ていこう。多くの人から名前が挙がったのは、1972年に創業のサッポロドラッグストアー、通称"サツドラ"〟だ。
「CMや店内BGMでよく流れている『サ・ツ・ドラドラ』というフレーズは、多くの道民が口ずさめる名曲です」(20代男性)
そんなサツドラの魅力はポイントのたまりやすさだ。
「北海道だけで使える共通ポイントカードで『EZOCA(エゾカ)』というものがあるのですが、サツドラでこれを使うと化粧品は100円につき1ポイント、日用品や医薬品などは200円につき1ポイントが付与され、500ポイントたまると500円分の『EZOCA共通お買物券』と交換ができます。
毎月1日、10日、20日、30日はポイントが5倍になるので、この日にいろいろ買う道民は多いですよ。さらに、これは上級テクですが、nanacoで支払いつつdポイントカードも提示するとポイントの3重取りができます。すごくトクした気分になれますね」(40代女性)
■個別配送を展開する東北エリアの覇者
東北エリアで圧倒的な人気を誇っているのは、前身となった1929年創業の「鶴羽薬師堂」から数えれば94年の歴史を誇るツルハドラッグだ。地盤は北海道だが、東北エリアにも500店以上を展開し、存在感を示している。
「ツルハは『楽天ポイントカード』と連携しているのが便利ですね。200円につき楽天ポイント1ポイントが付与されるのですが、おまけにツルハ独自のポイントも同時にためることができます。両方提示するのが面倒なら、スマホに『ツルハドラッグアプリ』を入れておけば、一度で両方にポイントがつけられて便利ですよ」(20代男性)
ツルハは業界の中でも、先進的な取り組みを進めてきた。
「コロナ禍の直前くらいから、配送サービスを充実させていたのも特徴的。『お買い物便 とどけ~る』というサービスは、受付店舗から2㎞圏内を目安に、店舗で購入した商品を家まで届けてくれるんです。
自前の配達員を持っている店舗もありますし、近年はUber Eatsと提携して配送を行なう場合もあるようです。同様のサービスはマツモトキヨシなどもやっているので、資本力のある企業の間では今後広まっていくかもしれません」(齋藤さん)
また、ツルハは一般の調剤薬局が閉まっている土日・祝日でも一部の店舗で調剤を行なってくれるところも人気の理由だとか。近年のドラッグストアでの調剤対応に関して、小木田さんはこう分析する。
「実は、ツルハに限らず多くのドラッグストアがやり始めたサービスでもあります。病院で医師が出した処方箋に基づいて、薬剤師が薬を調製して作った医療用医薬品を患者に提供する保険調剤は、これまで町の調剤薬局が主に行なっていました。
ですが、既存の調剤薬局の多くは大きな病院や診療所の目の前にあって、待ち時間が長いなど不便な面もありました。そこにドラッグストア業界は目をつけたんです。
自由に店舗展開ができるドラッグストアの中に調剤コーナーを併設し、そこで薬剤師が処方箋を基に調剤をしてくれれば、新たなお客さんを取り込みつつ、薬を待っている間は日用品などの買い物をしながら時間を潰してもらえる。ドラッグストアからすると一石二鳥の取り組みなんです」
このほかにも、実験的な取り組みを行なうのがツルハの特徴だ。
「北海道札幌市にある『ツルハドラッグ 八軒4条店』は、店内に100円ショップ『キャンドゥ』のコーナーが設けられているのに加え、冷凍食品の専門スーパーとして近年注目を集めている『TŌMIN FROZEN(トーミン・フローズン)』と提携したコーナーもあります。
特殊な冷凍技術で通常の冷凍食品より高い鮮度を維持している同ブランドの冷凍食品には、ご飯ものや麺だけでなく、おすしや日本酒もある。お客さんの好奇心を巧みに刺激している取り組みですよね」
北関東が地盤のカワチ薬品も東北エリアで人気だ。
「カワチ薬品はドラッグストアというよりも、スーパー感覚で行く人のほうが多いイメージ。東北は車社会なので、安売りの日には洗剤やボックスティッシュ、トイレットペーパー、冷凍食品などを求めて多くの人が訪れ、一度に大量に購入しているのをよく見かけますね」(30代女性)
「カワチ薬品は今でもチラシ戦略を重視しており、普通のスーパーで買えば200円はしそうなものが98円で買えるといったこともある。スマホアプリなどになじみのない中高年層にも長らく愛されている印象です」(齋藤さん)
■美容PBで確固たる地位を築くマツキヨ
次は東京を含む関東エリア。齋藤さんによると、関東エリアは群雄割拠だが、強いて挙げるなら1932年創業のマツモトキヨシが頭ひとつ抜けているという。
「マツキヨの強みはそのブランド力ですよね。ココカラとの経営統合があった21年あたりからおしゃれなPB(プライベートブランド)戦略に力を入れ始めた印象です。同店のPB商品は、ビビッドな原色と黒を合わせたモダンなデザインで、大手メーカー品より安いのに品質は同レベルというハイコスパな商品が多々あります」
特に強いのがコスメだ。
「マツキヨのPBは美容マニアたちの間で定期的にバズっている。特に、『ARGELAN(アルジェラン)』というオーガニックコスメブランドのシャンプーやリップクリームの評判をよく聞きます」(30代女性)
関東のユニークなブランドとして齋藤さんが挙げたのが、1993年創業のトモズだ。
「トモズは欧米型ドラッグストアとして、近年存在感を増しています。国内外のサプリや化粧品を多数取りそろえているほか、薬剤師や管理栄養士などの有資格者スタッフも多い。また、調剤にかなり力を入れており、処方箋の受けつけなども主な業務です。こうした点が欧米のドラッグストアのイメージに近いですね」
関東甲信越エリアでは、1957年創業のサンドラッグも要チェック。
「アプリで15%オフのクーポンがよく配信されるので、なるべく高いものを見極めて使っています。ドラッグストアってポイントをためても特定の商品と交換になることがあるんですけど、サンドラッグの独自ポイントは1ポイント=1円として商品購入時に利用できるので使い勝手がいいです」(50代男性)
■"スーパー化"を加速するアオキ
関西・中部もブランド競争が激しいエリアだそう。
「関西は業界首位のウエルシアや、1976年創業のスギ薬局のような関東圏にも進出している人気チェーンがある一方で、1869年創業の老舗クスリのアオキ、1988年創業で福井県を中心に展開しているゲンキー、1957年創業で大阪に本拠地を置くダイコクドラッグなど、ローカル色の強いブランドもひしめいている面白いエリアです」(齋藤さん)
ウエルシアといえば、数年前に「ウエル活」と呼ばれる節約術が話題を呼んだ。
「毎月20日にTポイントを200ポイント以上使うと1.5倍分の買い物ができるようになるというもので、これが広まると20日に大量の日用品を買い込む人が現れたのです」(齋藤さん)
ほかにも、こんな声が。
「Tポイント以外に、最近イオンのWAONポイントも同時にためられるようになったのがうれしいです。化粧品をよく購入するのですが、たまに"この商品を購入すると300ポイント!"みたいなキャンペーンがあるので、好きな商品のときは思わずニヤついちゃいますね」(20代女性)
前出のクスリのアオキの戦略にも注目したい。
「ここは今、次々と地域のスーパーを買収し、そこで働いていた人やもともと持っていたスーパーの店舗などを活用する形で、食品スーパーに近いドラッグストアを展開しています。
同店は酒や加工食品など、冷蔵しなくてもいい食品はもちろんのこと、店内に肉や野菜といった生鮮食品や、一部のお店には総菜まで取りそろえています。こうした商品でお客さんを惹(ひ)きつけつつ、利益率のよい市販薬なども一緒に購入してもらう戦略は、業界で広まってきた印象がありますね」(小木田さん)
同様の路線で北陸、中部の人々に愛されているのがゲンキー。同店は食品の売上比率が高いドラッグストアだ。
「家族の1週間分の食料をほぼすべてゲンキーでそろえるヘビーユーザーです! PB商品に自信があるのか、有名ブランドの商品の横に『トップメーカーと比べてみてください!』と書いたポップを掲げて売っています。
僕のお気に入りは税込74円という破格の安さの食パン『小麦のひかり』。僕の地元の飛騨古川で生産しており、コストパフォーマンスの高い品なのでよくまとめ買いしています」(30代男性)
■売り上げの6割が食品のコスモス
九州エリアで圧倒的に人気なのが、1973年創業のディスカウントドラッグコスモス(以下、コスモス)だ。
「コスモスは売り上げの6割ほどが食品という異色のドラッグストアです。西日本の体力のあまりない食品スーパーは同企業にシェアを取られて次々と撤退してしまっているくらい、その勢いはすさまじいものです」(小木田さん)
ユーザーからは、同社が掲げるスローガン「毎日安い!」を評価する声が多数挙がった。
「コスモスの魅力は、ややこしいことをせずとにかく安いこと。ポイントカードやキャッシュレス決済を導入しない分、いつでも安いことをウリにしているのですが、実際どんな商品も全般的に安いですね。僕はPBのカルボナーラ(158円)をよく買っています」(20代男性)
一部の人からは、ドラッグストアモリの名前も挙がった。
「ここは面白いキャンペーンをやっているんですよ。買い物500円ごとに抽選補助券1枚がもらえるのですが、10枚ためると月末に開催される"ドラモリ恒例月末抽選会"でガラポンが1回できます。ハズレだとシャボン玉やあめなんですが、1回だけ2Lのコーラが当たったことがあります!」(20代女性)
「月末に補助券が足りないと、つい買い足しちゃうんですよね(笑)。ここは焼酎や日本酒をはじめ、お酒の品ぞろえがいいのもお気に入りです」(30代男性)
最後のエリアである沖縄にはちょっと変わったチェーンがあるようだ。
「ドラッグイレブンというチェーンですね。ここはドラッグストアでありながら、一部の店舗にはなんとヘアサロンが併設されていたりする面白いお店。そのロゴも某コンビニチェーンにそっくりだったりして、かなりインパクトがあります。実は、このチェーンの親会社はツルハホールディングスです」(齋藤さん)
「『ドラッグイレブン』は20年にツルハの子会社になったのですが、ツルハは新規ブランドにリニューアルするより、地元民に愛されるローカルブランドを残すほうが受け入れられやすいと考え、あえて屋号やスタイルを残しているようですね」(小木田さん)
今後はいっそう競争が激しくなり、業界の再編も進むことが予想されるが、それでもこのまま個性豊かなドラッグストアの数々がなくならないことを願いたい!