あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「コンドームの売り上げ」について。
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コロナ禍収束後には、コンドームってたくさん売れるようになるの? きっとこれは全人類の疑問に違いない。
2023年5月8日以降、新型コロナは感染症法における5類相当になった。国民意識として大きな区切りになったのは間違いなく、解放的に感じる男女は少なくないだろう。現実的には今も第9波といわれ、感染者数は増加しているが、夏休みは各地が人びとでごったがえした。
各地を交差する男女が増えれば、交わる男女も増える。そこで、全国のドラッグストアのPOSデータを調べてみた。POSデータは商品が何個、いくらで、どこで売れているかがわかるデータだ。
結果からいうと"5類落ち"以降、コンドームの売り上げは大きく伸びている。2023年5月は前年比で15%増。さらに6月も25%、7月も16%と二桁増が続いている。
例年、コンドームは年末年始と5月あたりによく売れる。年末年始はイベントがあるが、5月はなぜだろう。4月からの新生活で出会った男女が、そのような仲になるのが1ヵ月後くらいということか。
ともかく、5月8日の新型コロナ5類移行は、コンドームの売り上げ好調時期に重なるという記念碑的事件だった、とはいえる(真剣に読まないでほしい)。
ところで、データを見る喜びとは、自分が想像もしなかった現実と出会う喜びだ。コンドームの売れ行きはある種の解放感の表れだとするならば、それは若い世代だけではないのかもしれない。
5月以降のPOSデータを眺めていると、70代と80代の男女もコンドームを購入しているとわかった。概算では、70代は男性が全体の2.3%、女性は0.7%。80代は男性0.5%、女性0.1%。少なからぬ比率といえる。
書き手としてジェンダーや年齢や身体的な記述は躊躇(ちゅうちょ)してしまうものの、なんとまあ日本のシニアは元気で微笑(ほほえ)ましいことだろうか、と希望のように感じた。
もちろんPOSデータは完全ではないので、登録カードの年齢詐称や、店員のカウント間違いもあるだろう。しかし、実際より高めの年齢にわざわざ詐称して登録する動機はさほどないはずだし、すべてがミスカウントということもないはずだ。
もしかすると子どもや孫のための購入なのかもしれないが、家族が使うコンドームを物色するシニアの姿を想像してみると、それはそれで文学作品が書けそうだ。種類はどのように決めるのだろう。好みを聞くのかな。
ちなみにコンドームには厚みがある。それは0.1㎜だったり0.01㎜だったりする。薄めで一般的なのは0.02㎜くらいか。私はコンサルタントであり、常に仮説をもって物事にあたる。そこで「猛暑の今年は、少しでも厚着をしたくないから薄めのコンドームが売れる」との仮説を構築していた。
しかし、とくに薄めのコンドームが売れているわけではなかった。ずるっ。見事に外れた。まあそんなこともあるさ。久々の人もいるだろうから、厚めがよかったのかもしれないしねえ。ぶつぶつ。
ただ、地球温暖化が問題になる現代、これから気温とコンドームの厚みの相関関係は、消費社会論としてきわめて大きな話題になるだろう。材料使用量の低減はSDGsにもつながる重"厚"なテーマなはずだ(これもあまり真剣に読まないでほしい)。
●坂口孝則(Takanori SAKAGUCHI)
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!