2008年の住宅バブル崩壊の予想を的中させ、巨額の富を稼いだマイケル・バーリ氏。一連の取引はノンフィクションや映画『マネー・ショート』で描かれた 2008年の住宅バブル崩壊の予想を的中させ、巨額の富を稼いだマイケル・バーリ氏。一連の取引はノンフィクションや映画『マネー・ショート』で描かれた

突然の出来事だった。住宅バブル崩壊をぴたりと的中させ、巨額の富を得た著名投資家マイケル・バーリ氏が、約2400億円を投じて株価の下落にフルベットしたことが発覚!

このほか、"投資の神様"バフェットも暴落に備えて動き出しているようだが、その予測は的中するのか? その真実味と、日本への影響を識者に聞いた!

■バブル崩壊の予兆を感じさせるチャート

米国株暴落の懸念が、市場関係者の間で広まっている。その震源地は、著名な投資家ふたりの行動だった。

ひとり目は、五大商社株の購入で日本でも脚光を浴びた"投資の神様"ことウォーレン・バフェット。

時価総額約120兆円を誇る世界一の投資会社バークシャー・ハサウェイを率いる彼は、今年の4~6月にかけて、米国株を約1.1兆円も売り越した(株式売却が購入を上回ること)。運用資産の8割以上を米国株に集中投資していた彼のこの行動は、多くの投資家に警戒心を生じさせた。

くしくもバフェットと時期を同じくして、約2400億円相当を米国株下落に賭けた有名投資家がいた。その名はマイケル・バーリ。さかのぼること15年前、彼はリーマン・ショックを完全に読み切り、住宅ローン証券を売って大儲けした。買いのバフェットと売りのバーリがいずれも米国株の下落に張ったのだ。

さらにここにきて、モルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカといった大手金融機関の著名アナリストも続々と、近い将来の米国株大幅下落を予想。暗雲が垂れ込める中、米国株の先行き、そして日本への影響をどう考えるべきか!?

まずは直近の市況をおさらいしよう。米国株を代表する株価指数のS&P500は、昨年初頭に4796.56ポイントで史上最高値をつけた。その後は昨年9月にかけて2割ほど下落したものの、再び復調しつつある。直近2年のスパンで見れば動きは決して悪くなく、さらなる高値を狙っているようにも見えるのだ。

ところがそんな現状を、海外ファンドマネジャーの石原順氏は、2000年に崩壊した「ドットコムバブル」直前に似ていると指摘する。

「ドットコムバブルはインターネットブームが株式市場を過熱させた現象です。米国を中心に、日本でもライブドアや楽天などの株価が高騰しましたが、のちに暴落しました。

ここ最近の上昇相場はアップルやアマゾンなどの巨大IT企業が牽引(けんいん)しているのですが、その背景にあるのはコロナ禍による巨額マネーのバラマキ。いわば国が株高を支え続けた相場であり、そのマネーがIT企業に集中している。株価も割高感が漂っていて、背景が当時とよく似ているんです」

00年から02年にかけて、米国ではバブル崩壊による長期下落相場が続いた。一時的な回復とさらなる下落を繰り返しながら、S&P500は半値まで叩き売られたのである。

こうした動きが、まさに今の米国株でも起きているという。

「この半年のS&P500の動きを見ると、7月末にいったん天井をつけた後は4%ほど下落。その後半分戻したものの、直近は動きがさえません。

私は昨秋から今夏にかけての株価上昇は一時的なものであり、長期的な下落相場の中の回復局面に過ぎないと考えています。7月末から現在までの小幅下落→回復も同様の流れだととらえており、今後も株価は上下動を繰り返すでしょう。これはさながら、ドットコムバブルの崩壊をなぞっているようです」

■暴落の引き金を引くのは日銀!?

米国株の先行きは怪しいどころか、すでに崩壊が始まりつつあるという。すると問題は、金融市場でささやかれる大暴落はいつ起きるのかだ。

1級FP(ファイナンシャル・プランニング)技能士の古田拓也氏は、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げが起点だと語る。

「過去の米国株の暴落は多くが利下げ局面に入った後に起こっています。リーマン・ショックもそれに該当しますね。

インフレが落ち着けばFRBは利下げに転じるはずで、市場関係者は来年6月の開始を予想しています。その後の8、9月は米国株のジンクス的にも株価が下がりやすい時期なので、暴落が来る可能性が高いのはこのあたりでしょう」(古田氏)

暴落はズバリ1年後と読む古田氏に対して、前出の石原氏は来年11月に米国の大統領選が控えている点を指摘。株価暴落が起きると現政権にとって選挙で不利に働くため、FRBもそれまでは利下げしにくいだろうと読む。つまり、暴落は来年晩秋以降が基本線との見立てだ。

ただし、場合によってはXデーが今年11月まで早まりかねないという。そのシナリオとは?

「キーマンは日本銀行です。今、米国だけでなく全世界でほぼ一斉に利上げを行ない、お金を市場から減らしてインフレを抑えようとしています。その中でほぼ唯一、お金の流れを止めていないのが日銀。市場関係者の間では、日銀が利上げを開始すれば世界中の投資資金が止まり、今の相場は完全に終わるといわれています」

いずれにせよ、これから1年前後の間に大暴落が起きる可能性は高いようだ。では、その場合はどこまで下がる?

「過去の例に照らすと、最高値から半値程度まで下がる可能性があります。S&P500なら最高値の4800ポイントを起点に、2400~2200ポイントくらいが底値の目安となります」(古田氏)

ちなみに、底を突いたタイミングを見極める方法は?

「メドとして覚えておきたいイベントが、FRBによる『量的緩和』の開始です。

量的緩和とは、中央銀行が市場に出回るお金の量を増やそうとすること。こうすれば投資家にもお金が行き渡りますから、市場も再び活性化する。つまりFRBが量的緩和に踏み切るということは、なんとしても景気を浮揚させようと決心したことを意味します。

実際、過去にも量的緩和を起点にして株価が上昇したことは多々ありますから、買いのタイミングを探りたい方はぜひ覚えておきましょう」(石原氏)

■日本への影響は?

最後に日本株、および日本経済への影響について古田氏に聞いた。

「残念ながら、日本株は米国株以上にダメージを受ける可能性が高そうです。というのも、米国の景気後退となれば急激な円高が起きます。これは、円安をはずみにして収益を上げていた製造業や商社が大きなダメージを受けることを意味する。こうした輸出企業は日経平均に占める比率も大きいですから、当然株価は暴落するでしょう」

日本の株式市場の経験則では、暴落時はだいたい最高値から半値~3分の1のどこかで底値をつけている。日経平均がこの先、利下げまでの間に3万5000円まで上昇したと仮定すると、1万5000~1万7500円あたりが底値のメドになるという。

株が下がれば当然、われわれの暮らしにも大きな影響が及ぶはず。ところが古田氏は、「実体経済は案外悪くないかも」という。そのワケは?

「もちろん悪い影響もあります。米国のあおりを受けて国内景気が悪化する可能性は高いですからね。ただ、円高で輸入物価が下がればインフレが収束に向かいます。これは生活に直結しますよね。

また、失業率は一時上昇するかもしれません。とはいえ、日本国内の極度な人手不足はこの先、長期にわたって動かすことのできない既定路線です。失業者も選ばなければ仕事につけるはず。その上、最低賃金が年々アップしており、極端な安月給の仕事も減っています。つまり米国よりはかなりマシで、日本人はさえない株価でも案外暮らしやすくなるかもしれないのです」

また、チャンスの種もある。

「来年からは新NISAが始まります。つみたて枠とは別に、一括購入にも使える枠も設けられますから、米国株の暴落時はその枠をフル活用して割安に株を買う好機です。

もちろんつみたて投資も株価下落時のほうが先々のリターンは大きくなるので、来年は資産形成を始める絶好の時期ともいえるでしょう」

最悪のシナリオが実現しないことを祈りたいけど、個人でできる備えはあるのだから、心構えをしておいたほうがよさそうだ。