良薬は口に苦し。体にいいものはおいしくないのが世の常である。そんな常識を打破したのが、日清の「完全メシ」シリーズだ。
栄養バランスが整っているのに、なぜかウマいのである。そこで、完全メシの大ファンである料理芸人が開発担当を直撃。そのおいしさの秘密に迫った!
■開発期間はたった1年!
週プレでは過去に、完全栄養食の食べ比べ企画を行なった(36号掲載)。計36種の商品の中で、ズバぬけて高得点を叩き出した商品群がある。それが、日清食品の「完全メシ」シリーズだ。
かつ丼や担々麺など、決してヘルシーとは思えない料理の"完全メシ"化に成功し、お味のほうも審査員一同、大絶賛。試食会場は日清の商品開発力に騒然としていた。
いかにして日清は味と栄養バランスの両方を実現したのか? 前回の企画で実食を担当した、料理芸人・クック井上。氏が開発担当の高木裕一郎氏、マーケティング担当の金子大介氏を直撃した!
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クック 「完全メシ」シリーズ、ひと通り食べましたが、特に冷凍の「汁なし担々麺」と「ボロネーゼスパゲティ」のウマさには感動しました! 日清の回し者みたいになっちゃいますけど、そのままレストランで出てきても遜色ないとマジで感じましたよ。
金子 ありがとうございます。
クック そもそもこの完全メシ、どういう経緯で生まれたんですか?
金子 今、飽食によるオーバーカロリーが世界的な社会課題になっていますよね。また、食事は十分に取っているつもりでも、特定の栄養素だけが不足する「新型栄養失調」の問題もあります。
さらにシニアの方には粗食によるフレイル(心身の働きが低下した虚弱な状態)の増加などがあり、そうした食の課題を解決しようと、プロジェクトがスタートしました。
クック なるほど。開発にはかなり時間がかかったのでは?
金子 2021年の春から開発を始め、商品の発売は22年の5月でした。
クック たったの1年って、短くないですか!?
金子 そうですね。「カレーメシ」や「ラ王」、グラノーラなど既存の製品を一気に完全メシ化したことを踏まえると、おっしゃるとおりかなり短いと思います。
ですが、そこはこれまで即席麺などの開発で培ってきたものが応用できたのが大きかったです。例えば減塩の技術もそうですし、三層麺の製法を生かして麺の中心層の一部に栄養素を配合するなど、あらゆるノウハウを結集したからこそ、このスピードで商品化ができました。
クック これは他社が追随するのは大変ですわ。
高木 とはいえ、そのプロセスは決して簡単なものではありませんでした。確かにこれまでの蓄積はありましたが、おいしさと栄養素のバランスを両立するのはやはり大変なことだと思い知りましたね。
クック そりゃそうですよね。それにしても、よくこんな実現不可能そうな商品の企画が社内で通りましたね。
金子 というよりも、もともと社長自らが立ち上げたプロジェクトですので、そこはスムーズでした。
■苦みやエグみを打ち消す工夫とは?
クック しかし、ここまで普通においしいと疑いたくなるんですが、これホンマに栄養バランス取れてるんですよね!?
高木 ええ。各商品の栄養素は日清食品のホームページにも掲載されていますから、ぜひチェックしてみてください。
クック じゃあおいしいのはおかしいと思うんですよ。だって、完全栄養食をうたうほかの商品をいろいろ食べ比べましたけど、苦みが強かったり、薄味だったり、あるいは食感がバサバサしてたりすることが多かったですから。
塩味なんて感じることはまずなかった。なので完全メシで汁なし担々麺だの牛丼だのがリリースされているのを見て、何か裏でインチキをしてるんじゃないかと(笑)。
高木 そこはわれわれも苦労しましたよ。一般的においしい食品というのは、どうしても塩分や脂質、炭水化物が豊富なものが多いですから。
例えば、既存の即席麺やカレーメシにそのままいろんな栄養素を加えるだけでは、どうしても苦みやエグみが出てしまいます。それにカレーなどの脂っこい商品には飽和脂肪酸などが含まれますが、そうした成分をコントロールする必要がある。
最初に会社から「ウマい完全メシを開発せよ」と命じられたときは、絶対ムリだと途方に暮れたのを覚えています。
金子 そもそも、ただ栄養素を配合すればいいのではなく、上限値と下限値を適正に守りつつ、それでいて賞味期限内の栄養素の減衰も考慮した設計が必要ですからね。これは非常に難しいミッションなんです。
クック よく投げ出さなかったですね。
高木 会社の未来を担うプロジェクトなので、やるしかない状況だったのに尽きます(笑)。
クック なるほど。で、どうやって好ましくない味を感じさせないようにしたんです?
高木 栄養素自体の味を変えるのではなく、その味を覆い隠すというアプローチを取ったのがキーポイントですね。とにかく試行錯誤を重ねて、スパイスや甘みなどでうまくバランスを取りながら、全体の味を調えていきました。
かなりの数の試作を積み重ねる必要がありましたが、例えばカレーメシに関しては、むしろ完全メシ版のほうがおいしいのではないかと自負しています。
クック カレーメシもわれわれ試食時の評価は高かったですね。「冷凍 完全メシ お好み焼 特製ミックス玉」なんて、ソースもマヨネーズもかかっているわけじゃないですか。これはいったいどうやって実現してるんですか?
高木 それは企業秘密です。
クック ディフェンスが堅い! じゃあ、カレーやオムライスみたいなご飯ものについてはどうです?
高木 例えば、お米の再合成技術というものがあります。まず米をバラバラに分解するんですけど。
クック えっ!?
高木 その米から余分な糖質を取り除いたのち、ビタミンやミネラルなどを加えて米の形に再合成するんです。
クック エゲツないことしますね。
高木 それから、お米と栄養素を一緒に炊く、なんて手法もあります。もっとも、そのお米を単体で食べてもおいしくはないので、あくまでトッピングやスープなどと一緒に食べることが大前提になりますが。
クック なるほど。だからご飯ものはオムライスやドリア、かつ丼にカレーといった、ソースやルーがかかったものが多いわけだ。
高木 そうですね。麺類も同様で、ナポリタンやたらこパスタ、肉味噌まぜうどんなど、ソースと組み合わせてバランスを取ることでおいしさを作り上げています。
クック ちなみに、かつ丼のとんかつみたいなトッピング自体にも栄養素を入れたりしている?
金子 そういう商品もありますが、ケース・バイ・ケースです。例えば弊社独自の具材のひとつに「謎肉」(カップヌードルにトッピングされている加工肉)がありますが、こういう自社製のものはアレンジしやすいですね。
クック その謎肉、単体で売ってほしいくらいです!
■すべての料理を完全メシ化する
クック 完全メシの開発には当然コストも大きな問題になりますよね。例えばこれだけ栄養バランスが整った「汁なし担々麺」が398円って、どう考えても安すぎないですか?
金子 そこは販路の工夫であったり、製造工程を見直したり、生産量を増やすことでスケールメリットを効かせたりと、あの手この手を尽くしています。
クック 今は398円の冷凍完全メシは汁なし担々麺とボロネーゼだけですが、もっと増やしてもらえるとうれしいです。これらを除いた冷凍完全メシはオンラインストア限定販売で、1食798円とやや値も張りますからね。
金子 完全メシの競合相手は普段のごはんであるというのが、われわれの総意です。目指すのは、皆さんの普段の食生活の一部が、自然と完全メシに置き換わっていく状況ですね。そのためにも、お求めやすい価格にする努力は続けていきたいです。
クック ライバルは家庭メシ! 人々が調理をせず冷凍食品で満足するようになると、僕のような料理芸人は困ってしまいますが(笑)。ズバリお聞きしますが、完全メシの市場は広がっているんですか?
金子 おかげさまで、順調に拡大中です。発売から1年間で1000万食を突破し、新ジャンルの商品としては上々のスタートを切れました。
クック 今月2日には、湖池屋と共同開発した「完全メシ カラムーチョ ホットチリ味」もリリースされましたが、ついにお菓子まで完全メシ化するとはなぁ。木村屋總本店との「完全メシあんぱん」なんてのもありました。
金子 他社さんとのコラボレーションも積極的に取り組んでいます。一日でも早く、すべての食事を完全メシ化しようというのがわれわれの目標ですからね。
クック リリースのペースが尋常じゃなく速いですよね。1年半で25種以上の商品を世に送り出していますが、なぜそんなにいっぱい出してるんですか?
高木 どんなにおいしくて栄養バランスが整っていても、選択肢が担々麺とボロネーゼしかなかったら、手を伸ばしてもらいにくいでしょうからね。普段の食事と置き換えていただくためには、とにかくメニューが豊富でなければなりません。
金子 冷凍食品やカップライス、カップ麺だけでなく、スムージーやカップスープ、グラノーラなどのバリエーションを用意したことが、リピーター獲得の一因になっていると思います。
クック ちなみに今後、どんな商品が登場するんですか? 餃子に目がない僕としては、ぜひ餃子を完全メシ化していただけるとうれしいんですが。
高木 ああ、いいですね。餃子は構成要素的に比較的トライしやすい気がします。
クック 逆に、完全メシ化しにくいメニューというのもあるんですか?
高木 例えばラーメンなどの汁気の多いものは、スープを飲む量が人によって違うので、商品設計の難易度は非常に高いですね。
クック なるほど、それで摂取する栄養素の量がバラついちゃいけないわけだ。
金子 まだ発売から1年半ですから、道半ばです。そうしたハードルをどうすれば乗り越えられるか、引き続き考えていかなければなりません。
クック 今後もいろんな完全メシを食べてみたいので、頼みます!
●料理芸人・クック井上。
お笑いコンビ「ツインクル」ツッコミ担当の本格派料理芸人。初の著書『魔法の万能調味料料理酒オイル』(ダイヤモンド社)が発売中
■「完全メシ」って?
日清食品が2022年5月にリリース。33種類の栄養素とおいしさのバランスを追求した。カップ麺やカップライス、スムージー、グラノーラ、カップスープのほか、「冷凍完全メシ」にはパスタ、うどん、かつ丼、オムライス、ピザなど幅広いラインナップを取りそろえる