岸田内閣は関係企業の視察や業界関係者へのヒアリングなどを経て、「物流革新緊急パッケージ」を経済対策に盛り込むことを発表した岸田内閣は関係企業の視察や業界関係者へのヒアリングなどを経て、「物流革新緊急パッケージ」を経済対策に盛り込むことを発表した
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「2024年問題」について。

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物流業界の「2024年問題」が注目されている。働き方改革関連法でトラックドライバー等の時間外労働時間の上限が年間960時間と設定され、現状と比して労働時間が少なくなるため、モノが運べず、日本全体で物流が停滞すると懸念する人が多い。

ECで毎日のように買い物する人は多い。さらに再配達をお願いするケースも多いだろう。先日、岸田文雄首相は2024年問題の解決に寄与するためにと「置き配」を推進するポイント制度などを含む「物流革新緊急パッケージ」をまとめた。

なお、あまり語られない点として、時間外労働時間の上限設定は企業の従業員に適用される。しかし個人事業主のドライバーは関係がない。個人事業主は労働者であり経営者でもある。自己の判断で長時間労働も可能だ。たとえばIT分野でも大企業の社員は労働時間が規定されているが、ベンチャー企業の創業メンバーは昼夜問わず働いているように。

だから物流でも調整弁として、個人事業主に仕事が流れるだろう。2024年以降の統計を注視したいが、もしかすると稼ぎたい人たちは従業員を辞めて独立する可能性がある。

ただ、それでは労働形態が変容しただけで根本的な解決にならない。条件の改善と賃金の上昇があってこそ、業界に継続した人材が流入する。そこでいくつかの私案を書いておきたい。

米国の物流関係のニュースサイトを見に行ってみてほしい。笑ってしまうほどストライキでよく物流が止まっていることがわかる。物流は経済の血液だが、条件改善のためには貨物も止めるのだ。そこで、【1】職業別組合の存在が望まれる。組合が堅苦しいならSNSでもいいので、横のつながりで荷主や政治に声を伝える機会を作るのだ。日本では企業別組合が大半で、なかなか横断的な声が上げにくい。前述の通り個人事業主らとも連携していく必要がある。

また、【2】再委託契約の見直しも必要だ。たとえば「ここからここまで1万円で運んでね」と荷主と物流業者が契約をする。しかし現状では、物流業者が"おいしくない仕事"と思ったら別の下請けの物流業者に8000円で再委託する。さらに孫請けの物流業者に6000円で委託する......といった中抜き構造が生じる。しかも、孫請けの業者が事故を起こしても責任の所在が不明確になる。できるだけ荷主が把握できる業者が運ぶのがふさわしい。そのためには再委託契約の制約が必要だ。

さらに、【3】企業別待ち時間の公開も有効だろう。現在、営業用トラックの積載率は40%程度だ。空のまま過ごす時間が長い。なぜなら企業ごとに細かな対応を求められるからだ。荷物を運んでも長時間待たされてなかなか渡せない、とか。工場の近くで、トラックが列になり待つ様子を見た経験のある人は多いだろう。

だから私は、物流会社が荷物を運ぶ際にどの荷主企業に時間を費やしているか、待ち時間トップ10でも100でもいいので、ただただ事実を集計し、行政が公開すれば一発で効率化が進むと思う。待ち時間こそが最大の非効率要因なのだから、ここを改善せねばならない。経済の血液である物流が滞らないのは関係各位の努力ゆえだ。加藤浩次さんを真似るなら「当たり前じゃねえからな」と言っておきたい。

坂口孝則

坂口孝則Takanori SAKAGUCHI

調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!

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