「もともとは芸人志望で、研究も面白くなってきたので博士課程に進みました。『ホンマでっか!?TV』に出ることが直近の目標です」と語る廣瀬 涼氏「もともとは芸人志望で、研究も面白くなってきたので博士課程に進みました。『ホンマでっか!?TV』に出ることが直近の目標です」と語る廣瀬 涼氏

新人類、団塊ジュニア、ゆとり世代と、いつの時代も若者は上の世代から「われわれとは違う」という意図を込めたレッテルを貼られがちなもの。その最新版が、今の10代~20代前半を指す「Z世代」だ。

若さへの羨望(せんぼう)と嫉妬はいつの時代の大人も感じがちなようで、その心情をくすぐる分析記事やコメントが多くの媒体をにぎわせている。

現状、おとなしく品がいいという方向でまとめられがちなZ世代論に、学問的なアプローチで切り込んだ新刊『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか』が出版された。金融機関系列の研究所に所属する著者・廣瀬 涼氏に、世代論に踏み込んだ理由を直撃したら、なぜか話は思わぬ方向へとそれていき......?

* * *

――上の世代がレッテルを貼り、留飲を下げる世代論が少なくない中、廣瀬さんの著書は時代背景や歴史的事実、統計などのファクトから、Z世代の価値観や「推し活」といった最新のトレンドを説明しているので、非常に納得度が高かったです。

廣瀬 Z世代論というと、マーケティングの方法を指南する記事も多いですよね。

私の専門は「オタクの消費文化論」で、学部生だった頃から10年以上、一貫して追いかけているテーマです。オタク消費研究を突き詰めた先の最前線がZ世代で、そこにこの1、2年たまたま光が当たったのは私にとって好都合でした。

私の役割は、オタクが消費をする場面で起きる現象を客観的に描写することで、研究対象に肩入れも批判もしません。行動論や心理学に寄りがちな旧来の世代論に対して、自然とカウンターになっている面はありますかね。

――オタク研究にのめり込んだきっかけは?

廣瀬 それは私自身がオタクだからです。私の研究の核にあるのは「消費は楽しいもの」という思いで、オタクはコンテンツにお金や時間の消費を「全振り」しています。

私は今30代ですが、60代になる親世代も若い頃からゲームやアニメを楽しんでいました。あと20年もたてばほとんどの日本人がオタクになっていくと思いますし、すでに「1億総オタク社会」という言葉もありますね。だからこそ、時代の先駆者としてZ世代が行なうオタク消費の研究には、意義があると思っています。

――廣瀬さん自身もオタクとして「全振り」されていると。

廣瀬 はい。ディズニーオタクであることは公表していますが、そのほかにもアニオタでもありますし、乃木坂46オタクでファンクラブに入ってツアーもガンガン行っています。

自分の行動を客観的に描写して、そこから普遍性を取り出すことも研究のうちなんです。ちなみに、今年は全方面のオタ活を合計して、数百万円以上は使っていますね。

――10ヵ月ですでに百万円単位での出費! 廣瀬さんの立ち位置はZ世代論の中でも異色ですが、お勤め先においても異彩を放っています。

廣瀬 日本生命系列のシンクタンクなので、経済や投資、人口動態などの社会構造について、平たく言えばお堅い研究をしている人がほとんどですね。

――そんな廣瀬さんの今後の目標は?

廣瀬 ずばり、『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)に出ることとレギュラー番組を持つことですね。そして、最終的にはテレビで漫才をしたいです。

――えっ!?

廣瀬 冗談だと思われるかもしれませんが、マジです。お堅いシンクタンクにこんなのがいたらいいキャラづけにならないかなという、打算的な考えもありました。

――な、なるほど~。テレビで漫才をしたいというのはなぜ?

廣瀬 というか僕、そもそも芸人だったんですよ。大学院に所属しながらピン芸人をやっていて、バカリズムさんやZAZYさんのようなフリップ芸をやっていました。その前に漫才コンビを組んでいたこともあったので、ネタはいつでも作れます。

で、ワタナベエンターテインメントのオーディションに合格していたのですが、今の勤務先の内定とバッティングしてしまいまして、文化人枠で世に出るほうが早道かなと。バラエティ番組のひな壇に座るまでの最短ルートを追求しています。

――そもそも芸人志望だったわけですね。

廣瀬 はい、本当は高卒で吉本興業に所属したかったのですが、親が教育にお金をかけてくれていたのでさすがに言い出せなくて。ただ大学から修士、博士課程まで行けば最長で32歳まで大学にいられるので、この間に芸人になればいいやと思ってました。

ところが研究のほうも楽しくなってしまって。そこで研究を芸人仕事に結びつけるために現在の勤務先を選んで、入社時にも伝えました。最近はテレビのニュース番組に呼ばれる機会をいただくのですが、同僚から「『ホンマでっか!?TV』にまた一歩近づいたね」と言われることもあります。

――欲望は全部かなえるように動くし、やろうと思えばなんでもできてしまう。そして、周囲もそんな廣瀬さんを受け入れてくれていると。

廣瀬 いやいや......自分ではそれなりに苦労もしてきたと思っているんですけどね。

今の勤務先に入社するときに、オタク研究は今後絶対に必要になるものだからと強く訴え、分析を続けることを了承してもらっていました。それでも自分が異物だという自覚はあったので、入社初日から立て続けにオタク関係のリポートを提出し続けました。

研究者としての自分を、扱うテーマ、力量共に会社と同僚に認知してもらおうと考えてのことです。とはいえ、最初は「あいつはなんなんだ」と言われたり、正直、軽く見られているかな?と感じる場面もありました。

そもそも博士課程に在籍していたときも、学会で「オタク研究なんて一時の流行でしかないし、なんの意味もないからやめろ」と言われ続けていたんです。そういう声にも腐らず、先々、絶対に大事な研究分野になるからと言い続けてやってきました。

――闘いもあったんですね。

廣瀬 はい。何を言われようと、とにかく成果で認めさせれば勝ちだと思って続けてきました。今では同僚も、社外の方に「サブカル関係は廣瀬がいます」と言ってくれているようで、ありがたいことです。

●廣瀬 涼(ひろせ・りょう)
1989年生まれ、静岡県出身。ニッセイ基礎研究所生活研究部研究員。大学院博士課程を経て、2019年より現職。専門は現代消費文化論。オタクの消費を主な研究テーマとし、10年以上彼らの消費欲求の源泉を研究している。昨今では自身の経歴を生かし若者(Z世代)の消費文化について研究を行ない、講演や各種メディアで発表している。NHK『NEWSおはよう日本』などで若者のオタク文化について制作協力。著書に『タイパの経済学』(幻冬舎新書)

■『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか Z世代を読み解く』
金融財政事情研究会 1870円(税込)
「新入社員の歓迎会 新入社員全員欠席希望で課長が激怒している 新卒よくやった」。本書は2022年4月のこのツイートを紹介することから始まる。なぜ、この新入社員は歓迎会に出たくなかったのか? これを大きな問いとして、Z世代が歩んできた時代や、それらと向き合いながら構築していった価値観を各章で説明し、行動原理を解き明かす。上記のツイートにイラッとした人は必読の一冊だ

★『“本”人襲撃!』は毎週火曜日更新!★