「経済、経済、経済。私は何よりも経済に重点を置いていきます」。岸田首相は10月23日の所信表明演説でそう述べた 「経済、経済、経済。私は何よりも経済に重点を置いていきます」。岸田首相は10月23日の所信表明演説でそう述べた
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「経済活性化」について。

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「6割の企業が赤字?」。社会人になり知って驚いた。ほとんどの企業は上場しておらず、株主から配当を求められていない。株主と経営者は一体化している。だから、黒字で法人税を払うくらいなら経費をたくさん使って赤字にする、と。企業って儲けるためにあるんじゃないの?

先日、岸田文雄首相は所信表明演説で「経済、経済、経済」と強調した。経済の好調さがすべての起点というわけだ。私は複数の企業での勤務経験を経て、コンサルタントとして働くようになった。いまだにずっと企業の現場にいる。この機会にいくつか提案したいことがある。

(1)配当金の損金算入。中小企業は社長が株主だ。本来なら堂々と儲けて、配当金を自分に払えばいい。でも、配当金は損金≒コストにならず、税金が安くならない。なので、仕事と私生活の境目が曖昧な使いみちの経費を多く計上し、節税をはかる。こうして、冒頭で紹介したとおり赤字企業が大量にできあがる。ならば配当金を損金に算入できるようにすべきだ。雑多な費用を強引に経費計上するよりも、配当金をドカンともらったほうが消費につながる。

また、ビジネスで取引先の与信調査を行うとき、現状では最終利益がほとんどないと本業が危ないのか、節税しているのか判別しづらく、不安だ。しかし配当金の支払いのせいとわかれば、儲かっていて倒産の可能性はないと判断でき、安心だ。

(2)起業時の複数年決算。起業していきなり売上があがったものの、翌年は不調だと、税金を払わねばならず、現金がカツカツで経営ができない。その不安を払拭する活性化案として、起業時のみでいいので2、3年の合計売上と経費から利益を計算し、課税することにできないか(詐欺に使われぬようなルールは必要だが)。

また可能なら、税務会計上の利益ではなく、キャッシュフロー≒実際の現金の増加に応じて課税するようにすればなおいい。さらにいえば、減価償却を一括で費用化させてほしい。減価償却とは設備等の導入時に費用を複数年にわたって分割するルールだが、単年の費用が小さく見えるゆえに、なぜか利益が出ている(=課税できる)ように見えてしまう。

(3)個人での納税=源泉徴収の廃止。以下は対企業ではなく、対個人の提案。ふるさと納税が始まる前、会社員は自宅からもっとも近い税務署の場所も知らなかったのではないか。かつて諸外国でスプレッドシートのソフトが求められたのは、個人が納税の計算をするからだ。いっぽう日本では源泉徴収でいつの間にか所得税や社会保険料が差し引かれる。源泉徴収がなくなれば、税と社会保障に敏感になり、大げさにいえば社会の仕組みと、個人金融資産の防衛についても考えざるをえない。効果は絶大だろうが、廃止は難しいかなあ。

(4)学習費用による控除枠の増加。日本は社会人になったら勉強しない国として知られる。だから基礎控除に加える形で、スクール費だとか、教材費だとかをいままで以上に大胆に認め、社会人に学習機会を広く与える(これも詐欺に使われぬようルールは必要だ)。少子高齢化と生産性低下の日本では、生産人口への教育しか国力を上げる方法がないのは明白だろう。週刊プレイボーイもビジネス系の連載があるから、教材費と認められればもっと売上が......。

坂口孝則

坂口孝則Takanori SAKAGUCHI

調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!

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