坂口孝則Takanori SAKAGUCHI
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「韓国との経済連携」について。
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「なんだこのヤベえ音楽は」。私はヒットチャートを一日100曲くらい聴く。といっても、たいていは30秒くらいで次に飛ばすが、耳に残る曲がたまにあり、K-POPが非常に多い。先日もLE SSERAFIM(ル セラフイム)のデジタルシングル『Perfect Night』の洗練ぶりに驚き、全曲を聴き楽しんだ。
先日、私は韓国の経済通商諮問団の諮問会議委員に就任した。日韓の経済交流を支援する立場だ。私は会社員時代に韓国企業と取引もしていたし、友達もいる。いまは韓国のマンガを輸入して邦訳する会社の社長と仲良くしてもらっている。中年男性としては韓流ドラマを相当に見ているほうで、『ペントハウス』等のドロドロ系ドラマで盛り上がれる。
日本で韓国を悪く言うのは、もはや定番のコンテンツだ。ただ、韓国「人」を見下して喜ぶ人は、きっと韓国に友達がいないのだと思う。近い国を憎むのは常だが、双方の交流が進めば理解が深まるに違いない。
GDP成長率を比べると、この30年、韓国が多くの年で上回っている。年間の平均賃金もほぼ変わらない水準だ。日本人はいまだに韓国を下に見ている感があるが、韓国人は日本人が思うほど日本を特別視していない。国内市場だけでは食えないから、つねに外に向かう思想があり、日本はワン・オブ・ゼムだ。
現在の尹錫悦(ユンソンニヨル)政権は親日であるため、融和ムードが広がっている。これはむしろ日本側が歓迎するべきだろう。尹政権の残り3年間のあいだに経済連携を構築することが望まれる。
(1)半導体分野。日本は素材や製造技術、韓国は微細化の技術で連携できる。なんといっても日本と韓国、台湾、米国をあわせると世界の半導体生産の7割を占める。世界の趨勢(すうせい)を握っているといってもいい。実際、サムスンは日本に半導体の開発拠点を新設するとしている。両国の企業間連携に対する支援が望まれる。
(2)防衛産業(他国では軍需産業)。韓国はポーランドへ戦車や戦闘機を爆売りしている。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、NATO(北大西洋条約機構)の戦車供給国であるドイツやフランスに次ぐ第二のカードとして尹大統領自らアピールし、巨大な受注を勝ち取った。
経済安全保障の観点からも、韓国は民主主義国であるという信頼度があり、大統領は各国にトップセールスの攻勢をかけた。いうまでもなく日本には防衛装備移転三原則があるものの、輸出が制限されている防衛産業は弱体化し、撤退する企業も相次いでいる。慎重な議論は必要だが、防衛産業の維持のためにも韓国との連携の可能性を探るべきだろう。
また、韓国は原子力技術も積極的に輸出しており、たとえばUAE(アラブ首長国連邦)からは原子力発電所を受注するなど連携を深めている。こうした「なんでも売ってやろう」精神には大いに学ぶ点がある。
韓国は1997年に国家的な危機を迎えた。IMF(国際通貨基金)から緊急融資を受け、経済界では倒産と失業が相次いだ。そこから蘇(よみがえ)り、産業でも芸能でも、武器や原発も、ひたすら進出先や輸出先にカスタマイズして稼いだ。危機を経験していない世代はアーティストとして現地語で歌い、世界に羽ばたいている。今度は日本は韓国を使って世界に挑戦する気概が必要だろう。両国人口の合計は2億弱。このパワーは凄(すご)いよ。
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