利上げについては現状、慎重な姿勢を示している日銀だが、市場では4月にはマイナス金利政策が解除されるとみる予想も根強い 利上げについては現状、慎重な姿勢を示している日銀だが、市場では4月にはマイナス金利政策が解除されるとみる予想も根強い
いま、40代よりも若い世代は「金利のある世界」を経験していないだろう。生まれた頃から銀行にお金を預けても利息はほぼほぼゼロで、住宅ローンの変動金利も1%に満たない超低金利しか経験していないはずだ。

その前提が今年は大きく崩れそうだ。われわれを取りまく日本の金利水準は、日銀の政策金利によって決定される。2023年まで10年間続いた黒田東彦前総裁時代の「異次元緩和」では政策金利もゼロ金利、マイナス金利だった。昨年就任した植田和男日銀総裁は慎重に前総裁の政策を継承してきたが、そろそろその方針を変える時期に来ているようだ。

2024年以降が「金利のある世界」に変わると予測される根拠はふたつある。

ひとつは「実質インフレの進行」だ。スーパーの食料品の値段が上がっているのには皆が気づいているだろう。これが名目インフレの進行だ。その際、賃金がそれに伴って上がればそれほど困ることはない。現状はというと、名目インフレよりも賃金の上昇が低い。つまり実質インフレが進行している。

この実質インフレを止める有力な手段が、金利を上げることだ。だから実質インフレが社会問題になっている以上、早晩日銀は金利を上げる決断をすると予測されるのだ。

昨年12月19日の金融政策決定会合後に記者会見に臨む日銀の植田和男総裁 昨年12月19日の金融政策決定会合後に記者会見に臨む日銀の植田和男総裁
もうひとつが「円安」だ。アフターコロナで世界中に急激なインフレが起きたため、アメリカやEUの中央銀行は金利を上げた。世界を見渡せば日本以外はほぼみんな上げた。その余波で、日本だけが金利が低いため、投資資金が海外に流出するようになった。金利差が円安を生んだわけだ。

日本は小麦も原油も海外から輸入する国だから、円安でさらに物価が高くなってしまった。この円安解消のためにも、日銀は利上げに踏み切ることが予測される。

さて、こういった事情で2024年からわれわれが「金利のある世界」を30年ぶりに経験するようになるとしたら、いったいどんな変化が起きるのだろうか? 若い世代にとってはまだ未体験な3つの変化を説明しよう。

■お金の価値が減少する

これまで30年続いたデフレ経済のルールは、「お金を持っていることが強い」というルールでもあった。これは預金も同じ意味だ。仕事でとにかくお金を稼ぎ、それを持っていることが大切な経済だったのだ。

というのも、デフレなので年々、いろいろな物やサービスの価格が下がっていく。今、お金を使わずに手元に残しておけば、来年、再来年はもっとたくさんの物が買えるようになる。お金の価値は年々上がっていくというのがデフレ経済の原則だ。

このルールがこれから大きく変わる。たとえば金利が上がって銀行の定期預金金利が2%になる未来を考えてみよう。

「そんな2%なんてありえない」

と驚くかもしれないが、1990年以前はそれが当たり前の世の中だった。

銀行に預けておくと2%利息がつくということは、手元にお金をもっていると一年後にはその価値が下がるのと同じ意味になる。だから、金利のある世界では多くの人がお金を銀行に預ける。それも普通預金ではなく、まとまった分は定期預金にあずけるようになる。

では、定期預金に預けておけば安心かというと、実はそうでないところがこの話のキモだ。預けた預金は銀行経由で、企業にもっと高い金利で貸し出される。企業はビジネスを行う際にその金利も賄(まかな)わなければならないから、まわりまわっていろいろな物やサービスの価格も高くなる。

かつて江戸っ子は「宵越しの金は持たない」とさっさとお金を使ってしまった。欲しい物があるのだったらさっさと買ってしまったほうがいいという時代がやってくるわけだ。

■住宅ローンの金利負担が大幅アップ

次に、一般の読者にとって金利がある世界になることで一番大きく変わるのが、住宅ローンに関する前提だ。いま、住宅ローンを借りている人の大半が、実は変動金利でローンを組んでいる。変動金利だから仮に金利が2%上がるようなことがおきたら、それにあわせて支払い金利も2%は増えるだろう。

住宅ローンは借入金額が大きい分、金利が上がると返済額が大きく増える。たとえば4000万円をローンで借りていれば、2%増えた金利分は年間で80万円になる。繰り返すが「2%も金利が上がるなんて経験したことがない」という読者の皆さんが大半だと思うのだが、これからそういう時代がやってくるという話をしている。

その意味でいま、住宅ローンを借りているひとたちも大変なのだが、本当の意味で大変なのはこれから住宅ローンを借りるひとたちだ。

金利上昇による住宅ローンの負担増大は、返済中の世帯にとっては死活問題だ 金利上昇による住宅ローンの負担増大は、返済中の世帯にとっては死活問題だ
社会人としてそろそろ真剣に住宅の購入を検討しようとする人がまず直面する問題は、「住宅価格がとてつもなく高くなっている」という事実だ。昨年3月に、首都圏の新築マンションの平均価格が1億円を超えたことが話題になった。

東京23区で一般のビジネスパーソンが住宅ローンを組んでマンションを買おうとしたら、選択肢としては中古マンションしかないだろう。それでも70㎡のファミリーマンションの購入に4000~7000万円は必要になるはずだ。

これまでのマイナス金利時代ならば、それくらいの住宅ローンの審査は一般のビジネスパーソンであれば無事通ったかもしれないが、これからは4000万円のローン金利が仮に年4%に上がったときにそれが払えるかどうか、もっと厳しく審査されるようになる。

「金利分が年間160万円に上昇したらとても払えない」

そういう人は、住宅ローンを借りること自体ができなくなる。そんな時代がやってくるのだ。

■格安サービスも消滅?

そして3つ目が、「ゾンビ企業の消滅」である。

われわれの生活にあまり関係ないように感じるかもしれないが、日本にはなぜかゾンビ企業がたくさん存在している。まったく儲かっていなくて、カツカツの売上でなんとか生き延びている企業たちだ。

コロナ禍でのいわゆるゼロゼロ融資という制度のおかげで、多くのゾンビ企業が生き延びてきた。こういった企業たちは金利が上がるともうお手上げだ。結果として廃業せざるをえなくなる。

それでわれわれの日常生活に何が起きるかというと、後から「あれがゾンビ企業だったのか」と思うサービスに結構助けられてきたことを知るということだ。

街角でずいぶん安く食事を食べさせてもらっていたチェーン店が閉店したり、それまでサービスで無償修理に来てくれていたのが無償でなくなったり、無料翌日配送が常識だと思っていたらそういったベネフィットが受けられなくなったり、そんなことがこれから起きるようになる。

多くのゾンビ企業はいわゆるB2Bという形で、何かの企業の下請けを引き受けていることも多い。ずいぶん安くやってもらえているなと思っていたら、そこがゾンビ企業の担当だったことに後から気づく。そんな経験をこれからわれわれは何度もするようになるのかもしれない。

これらは、今までゼロ金利の世界で暮らしてきた日本人からすれば、カタストロフィともいうべき変化である。しかし、国際的な常識からすれば、「金利のある世界」が当たり前なのだ。つまり我々に迫られているのは、普通の世界に順応していく心構えである。

鈴木貴博

鈴木貴博すずきたかひろ

経営戦略コンサルタント、百年コンサルティング株式会社代表。東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループなどを経て2003年に独立。未来予測を専門とするフューチャリストとしても活動。近著に『日本経済 復活の書 -2040年、世界一になる未来を予言する』(PHPビジネス新書)

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