日本でもすっかり有名になった「MAGAキャップ」の多くは中国製らしい、というアメリカンジョークのようなホントの話(トランプ氏本人が装着しているキャップの産地は確認できておりません) 日本でもすっかり有名になった「MAGAキャップ」の多くは中国製らしい、というアメリカンジョークのようなホントの話(トランプ氏本人が装着しているキャップの産地は確認できておりません)
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「トランプ復権」について。

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「Make America Great Again」。不謹慎だが(?)、爆笑してしまった。これは「MAGA」と略される、トランプ前米国大統領の有名なフレーズだ。なぜ笑ったか。米国のアマゾン・ドット・コムでこのフレーズを検索すると、多くの帽子(キャップ)が出てくる。そこでトップ商品を確認してみると、多くが中国製なのだ。

トランプ前大統領は製造業の復権を狙って、米国への生産回帰を叫んだ。しかし、もっとも象徴的なフレーズを載せた帽子の生産拠点は中国。これほどの皮肉があるだろうか。レビュー欄にも「中国製じゃねえかよ」と米国人らの感想が並ぶ。

しかし、この皮肉は米国の矛盾を象徴しているかのようだ。もっともリベラルな思想が発展するいっぽうで、保守派の揺り返しでトランプ人気が過熱している。そのトランプ氏が中国へ製造業の雇用が流れていると批判するいっぽうで、グローバルサプライチェーンで両国は分かちがたくつながっている。

米国経済の好調を牽引(けんいん)するのはGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)に代表される非製造業者にほかならない。さらに、米国ファーストを語り世界からの米軍撤退を示唆するいっぽうで、軍事産業で巨益を得ている現実もある。

2016年にトランプ氏が大統領に当選したとき、日本でもほとんどのインテリは予想できていなかった。私は当時出演していた情報番組で正直に「インテリの敗北」と述べた。ただ今回は再選を予想する声も多い。本稿執筆時点までに2州の予備選で連勝し、共和党候補に選出されるのは確実と見られている。

「もしトラ」は「もしトランプ氏が大統領に当選したら」の意味だが、「もしタイガースが連続でアレしたら」の意味も上乗せされ、2024年の流行語大賞にノミネートされると私は予想する。ともあれ私が関心をもつのは、ビジネス上の影響だ。

私が毎日話している日本の企業人たちは、環境・温暖化防止関連のビジネスには逆風が吹くと直感的に考えているようだ。トランプ氏の思想もさることながら、世界全体の雰囲気を考えてのことだ。実際、私はサプライチェーンのCO2削減関連の講義を行なっているのだが、参加者が少なくなったとの実感がある(笑)。

また深刻なのは、ウクライナ支援の引き揚げと、台湾の「ディール化」ではないだろうか。ウクライナから手を引けば世界の秩序は変わるかもしれない。そして米国の対中国における取引材料に使われると、台湾が危機に陥るかもしれない。

ところで、対中国貿易戦争を仕掛けたのはトランプ政権だが、もっと厳しい措置を講じたのはバイデン政権だ。先端の半導体を米国から中国に輸出できないようにした。実利を考えると、私はバイデン政権のほうが日本の株価には好影響を与えると考えている。ディールの材料ではなく、マジで西側諸国が脱中国を目指すと、世界から「代替案としての日本」への投資が加速する。経済安全保障の観点からも積極的に日本企業に期待する動きがあるだろう。新NISAもはじまり、株価が上昇すれば日本企業株を買った国民も潤う。

トランプ氏には、ウクライナと台湾を他国とのディールに使うような「MAGAいもの」にならないことを祈りたいね。

坂口孝則

坂口孝則Takanori SAKAGUCHI

調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!

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