日野秀規ひの・ひでき
フリーライター、個人投資ジャーナリスト。社会経済やトレンドについて、20年にわたる出版編集経験を活かし幅広く執筆活動を行なっている。専門は投資信託や ETF を利用した個人の資産形成。
X【@kujiraya_fp】
日経平均は連日最高値を更新。その好調の裏で、地味ながら魅力を高めている投資先がある。その名もREIT(リート)。またの名を不動産投資信託。なんか難しそ~。そう思って敬遠するのはもったいない。堅実に不労所得を稼ぎ続けてくれる商品なんだって!
年始から国内外で株の勢いが止まらない。日経平均は史上最高値の更新が目前。そして新NISAでは、近年絶好調の米国株を中心とする世界株式ファンドへ資金が猛然と流れ込んでいる。
そんな株ブームの傍らで、ひそかに好機が到来している金融商品がある。国内の賃貸不動産に分散投資する「J-REIT(リート)」だ。不動産の賃貸ビジネスを専門とする会社(厳密には投資法人)の株式にあたるもので、58法人のJ-REITを株と同じように証券会社で買うことができる。
REIT(不動産投資信託)は米国をはじめ世界中で普及しており、2001年に日本で導入された際にJ-REITという通称が採用された。
このJ-REITが、専門家いわく「やや不合理な割安」になっており、買い時が来ているという。なんでも利回り4~5%、つまり100万円投資すれば1年で4万~5万円の分配金が得られるのに加え、長い目で見れば価格も上昇していくと予想されているのだ。
まずはJ-REITとは何か?という点から、元J-REITファンドマネジャーで投資教育者の梶井広行(ひろゆき)氏に解説してもらった。
「J-REITは不動産賃貸が専業で、不動産会社とは違います。不動産会社は例えば六本木ヒルズのような複合施設を開発したり、住宅地を開発して販売したりします。一方、J-REITは『スポンサー』と呼ばれる設立母体の支援を受けて、購入物件の家賃収入で運営されます」
J-REITのスポンサーには不動産会社や総合商社、鉄道会社、投資ファンド、金融機関などがある。これらが強力な後ろ盾となっているJ-REITは、立地や設備、入居企業などさまざまな面で非常にクオリティが高い賃貸物件を抱えているのだ。
「高品質な物件を管理しているということは、家賃収入のブレが小さいことを意味します。その上、J-REITの家賃は固定契約の物件も多く、賃料の更新はあっても2年や5年に1回なので、一般企業の業績のように毎年激しく上下するものではありません。
さらにJ-REITは利益の9割以上を投資家に分配することで、法人税を免除されています。これによって投資家の権利が強力に守られていることも大きなメリットです。
株の場合は業績の急変で配当が減ることもありえますから、保有するだけで得られる配当の安定性はJ-REITのほうがはるかに上だといえるでしょう」(梶井氏)
J-REITは安いものでは4万円台から購入でき、1銘柄で数十の賃貸物件に分散投資をした効果が得られる。高利回り商品であるJ-REITは、分配金に税金がかからない新NISAで買うのにもうってつけだといえる。
龍谷大学経済学部教授で、株式市場と不動産投資の両方に精通する竹中正治(まさはる)氏によると、いまJ-REITに2012年以来の買い時が訪れているという。
ひとつの判断基準は、分配金利回りだ。10年間の推移を示した図表1を見ていただければわかるが、2021年からジリジリと上昇を続け、高騰した20年春の水準付近に肉薄している。
「もうひとつの基準は、J-REIT価格の割安度を示す指標『NAV(ナブ)倍率』です。J-REITの市場価格をひと口当たりの純資産(時価評価額)で割った数値で、1倍を切れば割安です。J-REIT全体のNAV倍率は1月時点で0.88倍と、これは12年ぶりの低さ。過去平均の1.1倍に照らしても割安で、つまりお買い得なのは明らかです」(竹中氏)
投資においては何を買うにしても、割安で買えれば価格が下がるリスクは小さくなり、上がる可能性は高くなるものだと竹中氏は強調する。
ここで気になるのは、なぜJ-REITが割安に放置されているのかということ。株が盛況でJ-REITがさえないのはなぜ?
「それは、株式投資家とJ-REITの投資家がそれぞれの見方で投資を行なっており、どちらもやや一面的な見方をしているからではと思います。
いま世間を騒がせている『金利の上昇予想』と『物価上昇』はともに投資資産の価格に大きな影響を与えますが、株式投資家は株価上昇によるプラスの影響だけに傾き、J-REITの投資家は金利上昇というマイナス面だけを見ているようです」(竹中氏)
投資家の間では、一昨年から続いている物価上昇を受けて、近々日本銀行が金融緩和をやめて金利を上げるという見解が強い。ここで株式投資家は、物価上昇が企業の売り上げや利益率をアップさせ業績が向上するという期待で株を買っているのだという。一方、J-REITの投資家は金利上昇によって魅力が上がる債券に乗り換えるために、J-REITを売っている。
賃料収入も物価上昇につれて上がるため、長期的にはREITの魅力も同様に増すはずだが、このことは見落とされていると竹中氏は言う。
「株もJ-REITも、投資家はプロ目線で合理的な判断をしているはずなのに、合理性からやや乖離(かいり)した価格になっているようです。であれば、われわれ個人投資家はそれに乗じて割安な水準で拾うに越したことはありません」(竹中氏)
最後に、J-REITの銘柄選びについて再度梶井氏にお出ましいただこう。
「利回りを狙った長期投資で大事なのは4点。分配金利回り、時価総額、業種、そしてスポンサーです。J-REIT専門の情報サイトである『JAPAN-REIT.com』を活用しましょう。
J-REITの分配金利回りは全体の平均で4.5%ほどですが、まずはこれを上回る銘柄の中から絞り込みます。また、時価総額が小さい銘柄は安定性に欠けるので、500億円以下の銘柄は除外しましょう。
J-REITは保有する不動産の業種によって分類されています。現状の割安度とこの先の安定性を勘案すると、オフィス型、商業型、総合型の3業種が有望です。最後に、スポンサーのチェックも欠かせません。
自前で不動産開発を行なう力のある不動産会社や総合商社、不動産専業の運用会社などがスポンサーについている銘柄であれば、この先も物件の仕入れや人的交流などで優位に立つことができるはずです。インフレ対策として、10~20年の長期目線で分配金を狙って積み立て投資をしてみてください」
梶井氏のポイントを基に、編集部がピックアップした銘柄を表にまとめたので参考にしてほしい。相場の有名な格言に「人の行く裏に道あり花の山」がある。株高の裏でひっそり割安になっているJ-REITへの投資はまさに花の山だ。
*データは2024年2月14日時点のもの
フリーライター、個人投資ジャーナリスト。社会経済やトレンドについて、20年にわたる出版編集経験を活かし幅広く執筆活動を行なっている。専門は投資信託や ETF を利用した個人の資産形成。
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