政府や経済学者は「賃上げと値上げの好循環で経済復活だ!」と言うが、現実問題としてまだまだ多くの人の懐事情は厳しい。そして30年続いたデフレで花開いた日本独自の「激安ビジネス」も、物価高という逆風に立ち向かっている。
各業態の現場でその苦境と奮闘をガッツリ取材してきました! 【激安ビジネスの仁義なきサバイバルバトル】第一弾は100円ショップ編!
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■100円ショップのガジェットの進化
物価高騰が続く中、"100均"こと100円ショップの売り場では、100円ではない商品の割合が高まっている。
『東洋経済オンライン』2023年12月10日配信記事「『あの商品が消えた』、空前の円安で100均に異変」によると、現在は200~1000円程度の高単価品の構成比が、業界最大手のダイソーで1割強、業界3位のキャンドゥで15%程度に達しているという。
とりわけ、"脱100円"の動きが加速しているのが、バケツや収納ボックスといったプラスチック製品だ。
ダイソーの公式通販サイトを確認すると、4月9日時点で「ふた付きBOX」16品目のうち、100円は7品、200~400円が9品。食品保存用の密封容器も9品中6品が200~500円と、いずれも半分以上が"脱100円"商品だった。
100円ショップ向けの収納ボックスなどを製造するメーカーの担当者はこう話す。
「円安と原油高騰が原因で、弊社が取り扱うプラスチック素材(ポリプロピレン)の納入価格は2021年から今年4月までに12回も値上げされ、20年ほど前と比べると2倍以上になりました」
だが、「売価100円を維持したい」という小売り側の意向が強く、メーカーは製造コストを卸(おろし)値に転嫁しづらい状況が続いた。そのため同社は「収納ボックスの高さを2cm低くする」などのダウンサイズに踏み切り、それでも採算が取れなくなった調理用ボウルや食パンケースなど一部の品は製造を中止したという。
こうしたメーカーの苦境は卸会社にも波及している。
「この1、2年で、100円ショップを主要取引先にする卸業者の倒産が目に見えて増えた。プラスチックの仕入れ値は下がる気配がなく、小売り側が値上げしてくれないと、メーカーも卸もますます苦しくなります。もっと"脱100円化"を進めてほしい」
100円ショップが近年、売り上げを伸ばしているガジェット(電子機器)類にも異変が。半導体設計会社に勤める電子回路の設計エンジニアで、『「100円ショップ」のガジェットを分解してみる!』(工学社)の著者でもある山崎雅夫氏が解説する。
「100円ショップのガジェットの大半は中国製で、円安と人件費高騰のあおりを受け、もはや100円の品を見つけるほうが難しい。ダイソーとキャンドゥで300~1000円の高単価品が主流になる一方、100円均一価格を貫く(業界2位の)セリアでは、ガジェット類がほぼ姿を消しています」
ただし、単に価格が上がったわけではなく、ガジェット類の品質は確かに向上しているとも山崎氏は指摘する。
「例えば、ダイソーが販売するブルートゥースの完全ワイヤレスイヤホン『TWS001』(1000円)は、よくその価格で作れたなと思えるクオリティです。ノイズキャンセル機能はありませんが、取得に100万円以上かかる『技適マーク』もきちんと取得しており、ただ音を聴くだけならこれで十分です。
また、最近の100円ショップのガジェットは"ワンチップ化"が進んでいます。アップルの『AirPods』には10個ほどのICチップが搭載されているのに対し、先述の『TWS001』を含め、100円ショップの品は多くが1個だけ。機能を絞っているとはいえ、再生から充電、ブルートゥース通信までをチップひとつで完結させている点に技術力の高さを感じます」
そのICチップは大半が中国製だ。100円ショップのガジェットは、急速に成長する中国のハイテク部品産業に支えられている面も多い。
「100円ショップのすごみのひとつは、『パソコン用のファンガードがバーベキュー用の焼き網に生まれ変わる』といった生産共通化をもたらす商品企画力です。その点、ガジェットに関しては、中国で部品の共通化が進んでいることが大きい。例えば、ダイソーの『人感センサー付きLED電球』(500円)に搭載されるセンサーコントローラーを少し改造し、USBコネクタをつけ、外装を変えて発売されたのが『人感センサーケーブル』(300円)です。照明器具に接続すると人の動きを感知して自動点灯させる便利グッズで、見事にヒット商品となりました」