大阪を代表する激安の雄、スーパー玉出 大阪を代表する激安の雄、スーパー玉出
政府や経済学者は「賃上げと値上げの好循環で経済復活だ!」と言うが、現実問題としてまだまだ多くの人の懐事情は厳しい。そして30年続いたデフレで花開いた日本独自の「激安ビジネス」も、物価高という逆風に立ち向かっている。各業態の現場でその苦境と奮闘をガッツリ取材してきました! 【激安ビジネスの仁義なきサバイバルバトル】第二弾は激安スーパー編!

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■訳あり品の高騰、キットカットの乱

帝国データバンクによると、昨年1年間で値上げされた家庭用の飲食料品は累計3万2396品目。3万品を超えたのは過去30年で初めてだ。この流れは止まらず、今年4月も計2806品目の価格が上昇。原油高や円安を背景に、精肉、青果、加工食品などで値上げラッシュが続く。

そんな中、東京都内を中心に7店舗を展開するディスカウントスーパー「ABS卸(おろし)売センター(ゑびすや商店)」の足立区内の店舗を訪れてみると、店内は物価高などどこ吹く風。大手スーパーでは100g当たり120円前後が相場の鶏もも肉が98円、醤油450mlが68円、ミネラルウオーター500mlが41円......。

都内中心にディスカウントスーパー7店舗を展開するゑびすや商店は物価高に負けじと奮闘。飲食料だけでなく衣料品やスマホケース、アダルトDVDまで販売 都内中心にディスカウントスーパー7店舗を展開するゑびすや商店は物価高に負けじと奮闘。飲食料だけでなく衣料品やスマホケース、アダルトDVDまで販売
運営会社・ゑびすやの唐鎌(からかま)孝行社長はこう言う。

「大手スーパーの値入れ率は25~30%程度、ある大手ディスカウントスーパーでは16.5%といわれますが、われわれは15%に照準を合わせ、薄利だからこそ数で勝負する。まあ、この商売は厳しい、厳しいと言っているくらいがちょうどいいんですが、それでも今の厳しさは想像を超えていますけどね(苦笑)」

同社が取り扱う飲食料品は、メーカーや卸から正規ルートで仕入れる定番品と、大手スーパーなどから定期的にモノが出る"訳あり品"の2種に大別されるという。

「定番品は各ジャンルの2番手以下の中小メーカー、場合によっては地方の無名メーカーから調達します。大手メーカーほどには宣伝広告費などが乗らない分、いい条件で仕入れることが可能です。

ただ、従来1L98円で販売していたあるメーカーの醤油は、今や仕入れ値が139円。売価168円だった砂糖も仕入れ値が2割ほど上がりました。毎日の料理に欠かせない砂糖や醤油や油などは値上げすると『高い!』というイメージがつきやすいのですが......醤油は168円、砂糖は198円に引き上げざるをえませんでした」

東京都足立区に本社を構えるゑびすや商店は現最高顧問、唐鎌秀貢氏(左)が1965年に創業。06年に長男の孝行氏(右)が社長を引き継いだ 東京都足立区に本社を構えるゑびすや商店は現最高顧問、唐鎌秀貢氏(左)が1965年に創業。06年に長男の孝行氏(右)が社長を引き継いだ
では、"訳あり品"とは?

「小売業界には"3分の1ルール"という商慣習があり、各スーパーは製造日から賞味期限日までの期間が残り3分の1を切った商品を売り場から外し、卸会社に返品します。これが"訳あり品"として出回ったところをまとめ買いすることで、仕入れ値を抑えているんです」

だが、"訳あり市場"にも値上げの波は押し寄せている。大手食品卸社員が説明する。

「スーパーの棚から撤去された商品は、基本的に正規価格の半値で出回る。だから、例えば最初の店頭価格が100円から150円になれば、処分品の価格も連動して50円から75円に値上がりする。ドン・キホーテやジェーソンなど、ディスカウント業態の店はこれに苦しんでいます」

さらに、電気代の値上げも苦境に追い打ちをかけている。唐鎌社長はこう言う。

「スーパーの冷凍庫や冷蔵庫は店休日も含めて24時間フル稼働です。特に弊社は冷凍食品が多く、冷凍庫がズラリと並ぶ。しかも、省エネ性能が低い旧式のものがほとんどです。全店合計の電気代が22年は年間5000万円でしたが、昨年は8300万円まで膨れ上がりました。省エネ型の冷凍庫に入れ替えるか否か、まだ決めかねています」

ところで、業界では菓子類にも異変が起きている。食品や日用品などの価格や内容量に関するデータを収集するサイト『値上げ備忘録』を運営する岩佐正行氏が解説する。

「08年のリーマン・ショック以降は、価格を据え置いて内容量を減らす"ステルス値上げ"が主流でした。ところが、もはや"減量"が限界に達した商品が増え、ここ数年はダイレクトな値上げが目立つ。例えばカルビーのポテトチップスは、19年6月まで60g・120円だった食べ切りサイズが、昨年6月には同量で160円になりました」

なお、カルビーは今年6月の納品分から、ポテトチップスなどの内容量を変えずに価格をさらに上げると発表。ネスレ日本も、主力のキットカット大袋品の希望小売価格を、3月出荷分から内容量を1枚増やして540円から685円に大幅値上げしている。

前出の大手食品卸社員がこう明かす。

「チョコ菓子は円安とカカオ豆の不作の影響で全般的に値が上がっていますが、売れ筋のキットカット大袋は各スーパーで特売の対象となりやすく、店の利幅がほとんどない198円で売られることが多かった。ネスレ日本は以前からこの安売りを嫌っており、どう頑張っても特売に踏み切れない水準まで価格を上げたわけです。業界では"キットカットの乱"と呼ばれています」

■ネオンは消えても目玉は死守する玉出

大阪を代表する激安チェーン「スーパー玉出」も、あの手この手で物価高に立ち向かっている。22年末時点では38店舗を展開していたが、昨年、大阪市外を中心に大幅に閉店し、現在は26店舗だ。運営会社・フライフィッシュの工藤文子取締役はこう話す。

「創業地である大阪市西成区周辺に店舗を集約して物流の効率化を図り、収益を改善することが目的でした」

玉出といえば店内をド派手に彩るネオンライトだが、最近は店舗によっては電気代節約のために一部消灯。また、毎月「1」がつく日に1000円以上の買い物をすると、特定の対象商品を1円で購入できる名物イベント"1円セール"も、「以前は10品目程度が対象になっていましたが、今は毎回1、2品」(工藤氏)と、こちらも縮小傾向だ。

ただし、この物価高にあっても激安価格を死守している商品ジャンルがふたつある。

ひとつは玉出の目玉である総菜・弁当類。サバの味噌煮118円、オムソバ278円、5貫入りマグロ寿司328円など、インパクトは健在だ。

「これまでは各店で店内調理していましたが、生野区にある店の一部を改装して総菜・弁当のセントラルキッチンを新設。製造拠点を集約し、自社便で各店に配送することで製造コストが下がり、店頭価格を維持できています」

大阪市西成区のあいりん地区にあるスーパー玉出・天下茶屋店では、激安のカップ酒が目玉商品のひとつ。店の前でおっちゃんたちがうれしそうに飲んでいる 大阪市西成区のあいりん地区にあるスーパー玉出・天下茶屋店では、激安のカップ酒が目玉商品のひとつ。店の前でおっちゃんたちがうれしそうに飲んでいる
もうひとつが、カップ酒だ。西成区の労働者の町、通称"あいりん地区"にある天下茶屋店に行くと、コンビニや大手スーパーより2割程度安いカップ酒がズラリ。特に大関の「のものも」(180ml)は、"天下茶屋店だけの特別価格"として99円で販売されていた。

店の前でカップ酒を飲んでいた男性はこう話す。

「ココで酒と弁当を買うても500円以下。玉出はわしらにとっての"オアシス"や」

近隣の酒屋店主は「ありえない値づけ。メーカーとの間に特別な関係があるのでしょう」と指摘するが......。

「メーカーの担当者から、『天下茶屋店は「のものも」が日本一売れる店』と聞かされていますが、それ以上のことは企業秘密です」(工藤氏)