政府や経済学者は「賃上げと値上げの好循環で経済復活だ!」と言うが、現実問題としてまだまだ多くの人の懐事情は厳しい。そして30年続いたデフレで花開いた日本独自の「激安ビジネス」も、物価高という逆風に立ち向かっている。各業態の現場でその苦境と奮闘をガッツリ取材してきました! 【激安ビジネスの仁義なきサバイバルバトル】第四弾は居酒屋チェーン編!
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訪れたのは、JR大阪環状線の天満(てんま)駅前に広がる飲み屋街。昨年2月、ここに"たぶん日本一安いです"との看板を掲げる激安居酒屋「中トロと豚足」がオープンした。目玉は、平日のみ1円(!)で提供される日本酒(熱燗or冷酒1合)だ。
運営会社・GAIAホールディングの土岡つよし会長は、「6時間ほどかけて20合飲んで、20円払ってベロベロで帰らはる常連さんもいてはります」と笑う。ちなみに日本酒だけでなく、花らっきょ9円、しいたけ煮9円、おでん盛り合わせ99円と、フードも駄菓子並みに安い。
同社は、「中トロと豚足」をオープンして以降、天満駅周辺に激安業態9店舗を出店。そのひとつ「壱円堂」でも、朝引き鶏(ささみ)刺し身と焼酎ハイボールを1円で提供している。さらに、「5月1日にはハマチの握りを1貫1円で出す"1円寿司屋"をオープンします」(土岡氏)とのこと。大値上げ時代に抗(あらが)う......どころか、真正面から殴り合うような1円価格は、いかにして実現しているのか?
「もう、なんでしょ、『1円で売る!』。その心意気だけやとボクは思いますけどね。ただ、それぞれ店単体で赤字じゃないんですよ。『中トロと豚足』でも、1円が客寄せパンダになってお客さんがたくさん来てくれはりますし、刺し身盛り合わせ(1999円)とかベーコンステーキ(499円)とか、それなりの値段がつく料理も頼んでくれる。客単価にしたら1800円くらい。月の売り上げは3000万円、利益は150万円。そんなに悪い数字やないでしょ?」
記者はしいたけ煮、花らっきょ、おでん盛り合わせを1円日本酒のつまみにして食したが、どちらも味が染みて美味。お会計は130円......!
「天満駅周辺では、うちのせいで潰れはったお店がけっこう多いです。たぶん30店舗くらい......。やっぱり、お客さん取ってしまったんでね。でも、僕はうちに来て、喜んだり感動してくれはるお客さんの顔を見るんが幸せなんです」