4月17日時点で1ドル=154円台まで円安は進行。これは1990年以来、なんと34年ぶりの円安水準だ 4月17日時点で1ドル=154円台まで円安は進行。これは1990年以来、なんと34年ぶりの円安水準だ
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「企業の戦略」について。

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「なんで日本の会社は脱中国を宣言しないんですか?」。以前、『そこまで言って委員会NP』(読売テレビ)に出演していたとき共演者から質問された。「販売先として魅力的なのは間違いないから、そんなことを言ったら株価が大暴落するからでしょう」と述べた。

会社は株主のものだから脱中国を目指すのも、中国市場には売らないのも自由。ただ現実には、売上の何割かを失うことはできないと各企業の経営陣が判断しているだけのことだ。

ところで、このところ立て続けに恐怖を感じた。

一つ目。先日、関西企業の調達部が取引先(サプライヤー)を集めて、「経済安全保障上、できるだけ某国だけではなく、他国ルートも確保してほしい」と要請した。この話は業界紙にも載った。このところ取引先に丁寧に調達戦略を伝え理解を得るやり方が流行している。現在は人手不足だけでなく、外注先もなかなか確保できない。「買ってやる」の態度は通用しない。

しかし後日、その関西企業の営業部が調達部にクレームを入れた。調達部が発した要請の内容が漏れ、某国で営業をする際に支障が出たからだった。某国の関係者が業界紙まで読んでいたのか、取引先が悪意をもって誰かに伝えたのかはわからない。ただ、企業の特定部門がメッセージを発するときは広報戦略も重要になると示唆するエピソードだ。

これまでは調達は調達を、営業は営業を考えていればよかった。しかし経済安全保障の声が高まるなか、今後は全方位に細心の注意を払う必要がある。私は企業に「高度な二枚舌が必要だ」と言っている。あるいは「二枚舌2.0」。他人を欺くための二枚舌から、生存をかけた二枚舌へ。マーケットとしての中国は保持し、同時並行で代替先を確立する。

そして、二つ目の恐怖。私は定期的に海外からモノを調達するノウハウを伝授するセミナーを開催している。セミナーを開始した2012年ごろ、1ドルは79円だった。今見ると卒倒しそうになる。このころセミナールームは満員になった。そりゃそうだ。調達地を変更するだけで大幅なコスト削減が見込める。

それが、先月はたったの二人だった! もちろん急速な円安が進んでいるためだ。本稿執筆時点では1ドルが154円台。当時のレートのほぼ半分だ。これは円が弱くなったというより、他通貨に比べてドルの一人勝ち状況だが、諸外国の物価がどんどん高くなっているなか、通貨安まで重なり、海外からの調達は魅力と輝きを失っている。資源類は外国に依存せねばならないが、それ以外は国内回帰で安定的な調達源を確保する動きが加速している。

利益をすべて円換算すれば、円安ゆえに好業績が続く企業も多いだろう。ただ中小企業は外貨を稼ぐ機会が少ない。また、大企業も調達側は痛手を受ける。各社ともコスト増加を予算に計上し、国内、あるいは比較的為替が安定している韓国メーカーから新規取引先を探す動きもある。

ところで「二枚舌」は、もともと爬虫(はちゅう)類が舌の表面積を増加させ生存能力を高めるための進化だったようだ。心の中であっかんべーとしても、表面では友好と協調を語る。ああ、これって欧米の政治家がやってることじゃん。円安時の施策は、世界標準(グローバルスタンダード)の二枚舌で決まりだ。

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坂口孝則

坂口孝則Takanori SAKAGUCHI

調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!

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