突如、JR東日本がネット銀行事業に殴り込み! 特典への力の入れっぷりに注目が集まっている。なぜ銀行に参入を? この流れはほかの鉄道にも波及する? そして、どんな人が口座を開設すべき? 東日本在住じゃないアナタにとっても関係大アリですよ!
■株主優待並みの超オトク特典が目玉
5月9日に、JR東日本のネット銀行サービス「JRE BANK」がスタートする。鉄道が銀行サービスに参入した衝撃もさることながら、特典が太っ腹すぎると話題だ。どんなサービスなのか、ポイント情報サイト『ポイ探』運営者の菊地崇仁氏に聞いた。
「楽天銀行のサービスをJR東日本ブランドとして提供するもので、『はやぶさ支店』などの鉄道にちなんだ特別な支店が用意されています。振り込みや給与受け取り、口座振替などに利用することで、同社が提供する『JRE POINT』がたまるのが特徴です」
たまったJRE POINTは1ポイント=1円としてSuicaにチャージできるほか、駅ビルや鉄道サービスの支払いに利用可能である。
注目すべきはここからだ。
「JRE BANKは、預金額などに応じて特典を用意しています。その中で最も魅力的なのは運賃・料金4割引き券ですね。JR東日本の営業路線内で、片道の運賃と特急などの利用料金を4割も値引きしてくれるというものです」
実はこの特典は、JR東日本の株主優待券に相当する。
「同等の優待券を1枚受け取るためには、約90万円分の株を購入する必要があります。
一方、JRE BANKなら50万円以上を預け入れた上でビューカード(JR東日本グループのクレジットカード。Suicaのオートチャージにも対応している)の引き落とし口座に設定すれば年2枚、給与受取口座に設定すれば年4枚ももらえます」
さらに預金残高が300万円以上なら、ビューカード引き落とし設定で年4枚、給与受取口座指定で年6枚、そして両方達成すれば年10枚受け取れるという大盤振る舞いだ。
次に注目すべき特典は「グリーン車無料券」だろう。
「普通列車のグリーン車を無料で使える券で、モバイルSuicaに登録した上でJRE BANKの預金残高を50万円以上にしておけば最大で年間4枚もらえます」
ほかにも、JRE POINTを使ってランダムに選ばれた行き先までの往復新幹線に乗車できる「どこかにビューーン!」が2000ポイント引きになるクーポンや、JR東日本グループの店舗で割引やポイント還元を受けられる特典も。
また、預金額もしくは取引件数に応じてポイントの獲得倍率がアップしたり、提携ATMの手数料が無料になる回数が増えていく。JR東日本の本気度がうかがえるサービスなのだ。
では結論。JRE BANKは開設すべきだろうか?
「JR東日本ユーザーかつ50万円の預金をキープできるなら、入らないのは損なくらいです。
JR東日本圏内に住んでいない方でも、例えば運賃4割引き券は旅行のときに使うことができ、十分元を取れるおトク度です。この特典が気になるなら開設を検討していいと思います」
■鉄道系銀行は今後も増える?
特典の内容や条件は複雑だが、一貫しているのは、豪華にするためにJR東日本関連サービスのヘビーユーザーになる必要があることだ。「これは同社が、多くの人をJRE POINT経済圏に取り込むための布石なのでしょう」
共通ポイント経済圏に比べればやや目立たない存在だが、JR東日本ユーザー以外があえて利用するほどの価値はあるのか?
「JRE POINTのたまり方は非常にシンプルで、ビューカードからSuicaにオートチャージをするだけで還元率は1.5%。
ほかのポイントサービスは還元率1%がベースで、ポイントを上乗せするためには特定の店舗で利用するなどの条件があります。それに比べ、JRE POINTはわかりやすいしたまりやすい。実はとても優れたポイントサービスなんです。
しかもSuicaは今や全国の鉄道やコンビニ、自販機などで使えるし、タッチ決済の反応も早い。東日本以外の地域でも、JRE POINTをためる価値は十分にあります。
ちなみにビューカードを作る場合は、初年度年会費が無料で、年1回利用すれば次年度以降も無料になる『ビックカメラSuicaカード』がオススメです」
現在のポイントサービス業界は、PayPay(ソフトバンク)・d(ドコモ)・Ponta(au)・楽天といった携帯キャリアが争いを繰り広げている。JRE POINTはその対抗馬となるのだろうか。
「携帯キャリア系のサービスが強いのは、ユーザーが毎月携帯料金を支払っているだけで自動的にポイントがたまる仕組みを持っているからです。
でも実は、鉄道系ポイント経済圏でも同じことがいえます。ほとんどの人が鉄道を使うし、駅周辺の店舗を利用するので、そこでポイントがたまるようにすれば、簡単にユーザーを獲得できるんです。そうやって沿線ユーザーを囲い込めば、携帯キャリア系にも劣らない巨大なポイント経済圏が生まれます」
それにしても、なぜ今になってJR東日本は本気を出し始めたのか?
「従来はポイントサービスなどに力を入れなくても十分な収益を獲得できていましたからね。コロナ禍による収益低下を受けて、ようやく尻に火がついたのでしょう。
このような動きはJR東日本に限った話ではなく、すでに京王電鉄も住信SBI銀行と組んで『京王NEOBANK』を始めています。銀行に限らず、ポイントサービスも今後さまざまな鉄道会社が力を入れ、ユーザーの囲い込みを強化するでしょう」
今後のポイント業界では、携帯キャリアに鉄道会社も入り交じる熾烈な争いが始まるかもしれない。