坂口孝則Takanori SAKAGUCHI
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「プライベートブランド」について。
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セブン&アイのプライベートブランド(PB)、セブンプレミアムの累計売上金額が15兆円を突破した。おそるべき金額だ。販売を開始した2007年から現在までの期間に、日本国民一人当たり15万円を費やしたことになる。年間約1万円だ。ほぼ国民的な消費といっていい。
日本には年間売上10億円にいたらない上場企業が多いが、セブンプレミアムは年間売上10億円以上の商品が300を超える。セブンはPBで300社の上場企業を創出したに等しい。
一般的にコンビニエンスストアに置かれる商品点数は3000~4000だ。いっぽうセブンプレミアムの商品点数は3400以上。つまり、コンビニはもはや独自商品=PBの上位商品(セブンプレミアムはラグジュアリーPB)だけで棚を埋め尽くすレベルに達した。累計販売15兆円突破は、PBが席巻する時代の記念碑的なニュースといっていいだろう。
コンビニエンスストアの発祥については、そもそも何をもってコンビニとするかで諸説あるが、日本でのセブン-イレブン初号店開店の1974年を嚆矢(こうし)とすれば50年がたった。伝説によると、初号店ではじめて売れたのはサングラスだったようだ。そのときからコンビニは一貫して消費者のニーズに寄り添ってきた。
さらにナショナルブランドでは飽き足らず、PB商品を拡大させた。これは大げさにいえば、メーカーが主導権を持って商品を開発していた時代から、消費者と接する小売業が商品の主導権を積極的に握りだした時代のはじまりといえる。
もちろんセブンだけがPBを販売しているわけではない。ほかにも消費者はコンビニチェーンや小売各社のPB商品を購入しているはずだ。かつて、ダイエーなどの小売店はメーカー支配に反旗を翻し、価格決定権を持とうとした。その後、小売店はお客の声を聞き、拾い上げ、さらに新商品の開発に活かした。
ドン・キホーテなどはメーカーがマーケティングリサーチで無視していたようなマイルドヤンキーの嗜好(しこう)をすくい上げながらPB商品を作り、圧倒的な人気を得た。今や同社のPB「情熱価格」はプライベートブランドではなく、ピープルブランドと自称している。私たちのブランドではなく、みんなのブランド。この名称に日本小売店の真髄があるように思われる。インバウンドで来日した外国人のなかには「日本食レストランでもっとも美味しいのは、日本のコンビニ」と断言する人すらいる。
なお、2023年度にセブンプレミアムでもっとも売上が高かったのは「蒙古タンメン中本 辛旨味噌」だという。トライしていない人は絶対に食べるべし。ちょうどいい辛味と、ジャストなサイズ感が心地良い。また、私は数年前からアイスの「金のあずき最中」を推している。
またメーカー側としても、PBは宣伝広告費がいらず、しかも大量の生産が見込まれるので、低コストで高品質の商品を作れる。個人的な話だが、私の事務所は某コンビニチェーン本社の近くに立地している。近所のカフェでは、どうやら商談帰りらしき取引先関係者の会話が聞こえてくる。「無理難題を言われた」らしいが、それだけ双方で真剣に商品開発をしているのだろう。どことは言わないが、取引先も七(セブン)転び八起きで頑張れ。
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