上場している出版社はKADOKAWAや学研ホールディングスなどわずか。講談社や小学館、集英社など、ほとんどは上場していない 上場している出版社はKADOKAWAや学研ホールディングスなどわずか。講談社や小学館、集英社など、ほとんどは上場していない

『週刊プレイボーイ』で連載中の「坂本慎太郎の街歩き投資ラボ」。株式評論家の坂本慎太郎とともに街を歩き、投資先選びのヒントを探してみよう。金のなる木はあなたのすぐ近くに生えている!

今週の研究対象 
タイパ文芸
(スターツ出版)

書店には投資のタネが転がっている。今若年層の間で流行しているのが、30秒で感動できる「タイパ文芸」だ。このジャンルを開拓する出版社の戦略に迫った!

助手 書店巡りですごい本を見つけましたよ。

坂本 感心だね。編集者や書店員が「これから注目を浴びそう」と判断した情報が本になって集まっているのが書店。新刊本や平積みの売れ筋本を観察すると投資のヒントになるんです。どんな本を見つけました?

助手 平積みされてた『すべての恋が終わるとしても』です。帯にも「35万部突破」とあって売れ筋なんですけど、中身が衝撃的でした。

坂本 面白かったってこと?

助手 体裁に驚きまして。小説の短編集なんですが、1編が2ページ完結。しかも200字くらいなんです。明確なオチがあるわけでもないし、ポエムみたいな読み味でした。

坂本 ああ、「タイパ文芸」っていうジャンルの本ですよ。若者の活字離れが叫ばれて久しいけど、さらに最近はYouTubeのショート動画やTikTokのような短時間で消費できるコンテンツが人気ですよね。つまり「活字」で、しかも「消費に時間がかかる」普通の本は若者に売れない。そこをなんとかクリアしようと生まれたのが、スターツ出版のタイパ文芸なんです。

助手 スターツ出版? スターツっていうと、不動産の開発や管理を手がけてる上場企業がありますよね。なんか関係があるんですか?

坂本 まさに同社の上場子会社がスターツ出版で、もともと地域情報誌を発行する会社だったんです。スターツが街を開発し、スターツ出版がその街の情報誌を作れば、地域が活性化して街の価値も上がる。

助手 それなら親和性がありますね。

坂本 その後は、街やお店情報の蓄積を生かして女性向け情報誌『OZマガジン』と、Webの『OZモール』を軸に成長してきました。店舗情報を掲載して、お店から送客手数料をもらうビジネスモデルです。

助手 リクルートの『ホットペッパー』とかと似たビジネスですね。

坂本 そう。リクルート出身の現社長が伸ばした事業なんですが、コロナで外出需要が消失して送客系のビジネスがピンチに。そこで起死回生を図って若年層向けのコンテンツ作りに注力したところ、それが大当たりで業績が急上昇したんです。『鬼の花嫁』とか『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』って聞いたことない?

助手 前者は最近聞くマンガだし、後者は昨年映画化されて大ヒットしましたね! にしても、なんで短期間にヒット作品を出せたんですか?

坂本 作家を発掘する仕組みを持ってるんですよ。同社は小説投稿サイトを対象読者別に3つも持っています。投稿作品のうち反応が良かった小説を電子と紙で出版し、さらに反応が良ければコミック化して電子書籍で販売。その売り上げを見て紙のコミックにします。ユーザーの反応を見ながら、徐々に制作費がかかる媒体に展開していくわけです。ヒット作なら映画化のオファーが来て、映画から原作本を買う流れもできる。

助手 ひとつの作品で徹底的に稼ぎ切る姿勢がすごいですね。

坂本 そう。加えて、同社は年代や性別でターゲットを細分化していくつものレーベルを持っているんですが、いずれかのレーベルでヒット作が出ると、別のレーベルで表紙や判型を変えて展開するんです。同じ作品でも、大人向けレーベルなら高い単価で売れるからね。

助手 投資先として頼もしいなぁ。

坂本 ええ。今後もヒット作で長く稼げるはず。長期投資で面白いよ。

今週の実験結果 
次のヒット作が出れば株価にも跳ね返ってくるはず。面白い投資先です

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坂本慎太郎

坂本慎太郎さかもと・しんたろう

こころトレード研究所所長。ハンドルネームは「Bコミ」。日系の証券会社でディーラー、大手生命保険会社で株式、債券のファンドマネジャー、株式のストラテジストを7年間経験。ラジオNIKKEIや日経CNBCなどの投資番組へのレギュラー出演多数。著書に『プロ投資家が教える副収入1000万円の最短コース』(BEST TIMES books)など
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