40℃以上の気温を記録した地点も多数。しかも残暑も厳しくなる見通しだといわれている(写真は埼玉県熊谷市) 40℃以上の気温を記録した地点も多数。しかも残暑も厳しくなる見通しだといわれている(写真は埼玉県熊谷市)
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「超猛暑ビジネス」について。

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「暑すぎてプールは中止です」。小学生の息子はけっきょく夏休みに学校のプールを楽しむことはなかった。暑いからプールに行くんじゃないの?と40代の私は思うが、「暑さ指数」が31℃を超えると、プール内での脱水による熱中症が懸念されるという。

だから友達との約束はなくなり、代替の集合場所は『フォートナイト』。猛暑がスキン(ゲーム内のコスチューム)の課金に向かわせた!

2011年の東日本大震災のとき、電力各社は消費者に節電を呼びかけた。自社の商品=電気を使わないでください、と宣伝したマーケティング史上に残る出来事だった。

エアコン利用は控えられ、制汗剤や冷感グッズ、かき氷が売れるなど、想像しなかったヒットを生み出した。

今年は原稿執筆時点では節電こそ要請されていないが、きわめて暑い夏だ。一般的に暑い夏は消費が進む。しかし暑"すぎる"夏は人びとが閉じこもり、消費は減退する。電気代が増え、野菜も高騰する。私がいつも言うジョークだが「猛暑が消費を凍らせる」わけだ。

それでも消費を伸ばしたものは何か。現場からのレポートをお届けする。

まず興味深かったのはアイスの動向。一般的に猛暑だと濃い味は敬遠される。外ではさらっとした薄味がいい。ただ、このところ暑すぎて家で消費されるケースが増えたため、アイスクリームやアイスミルクなども好調だ。

また余談だが、メーカーの方いわく、海外からの問い合わせが増えているらしい。理由は、訪日時に異常な種類のアイスを"発見"し、味も良かったから。なるほど、足元に輸出ネタってあるんだね。

エアコンはもちろん鉄板。家電量販店に行くと節電効果をうたうPOPをたくさん見る。設置は順番待ち。ハンディファンや首かけファンは気温が35℃を超えると逆に熱風を送るだけの不快装置になるから、冷却プレート付きが人気になった。

また、屋外作業者向けにファン付きウェアが大きく伸びている。ソニーの「レオン ポケット」やワークマンの「ペルチェベスト」は身体の瞬間冷却で大ヒットした。

おなじくペット用のクールマットが売れている。子供向けの冷感グッズもそうだが、地面に近いほど反射熱が強い。散歩のとき、飼い主や親の体感よりはるかに灼熱(しゃくねつ)地獄だ。この分野はこれからも伸びるだろう。

ところで、この1、2年の特徴なのだが、伝統的な企業でもカジュアルな服装に大きく舵(かじ)を切っている。経団連企業、かつ社外と触れ合う部署でもポロシャツ、またはTシャツに麻ジャケットなんて場合も。そこで速乾、冷却効果があるビジネスTシャツが売れに売れている。

新型コロナウイルスの再拡大もあって、大企業を中心にふたたび在宅勤務が拡大しており、自宅とオフィスの境目が融解しているかもしれない。「ビジネス」と「Tシャツ」の組み合わせは、かつては「良い子」と「デスメタル」の組み合わせくらい違和感があったものの、もはや普通だ。そういえば数年前と比べ、男性の日傘も平凡な風景になった。

数年後には経団連企業が商談に半ズボンとサンダルで現れても驚かない。私のようなスーツ着用者はコスプレイヤーと呼ばれ、熱中症プレイと揶揄(やゆ)される。週プレでは薄着の女性が年じゅう表紙だというのに。

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坂口孝則

坂口孝則Takanori SAKAGUCHI

調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!

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