友清 哲ともきよさとし
ルポライター、編集者。1974年生まれ、神奈川県横浜市出身。編集プロダクションを経て、1999年よりフリーライターとして独立。2001年から「このミステリーがすごい!」の編集に携わり、エンターテインメントの評論活動を行なう。17年には父親をテーマにしたアンソロジー『I Love Father』に参加し、小説家デビュー。『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』など著書多数。
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「結果にコミットする」のフレーズで脚光を浴びたRIZAP。最近は月額わずか2980円で24時間利用できるコンビニジム「chocoZAP」がヒット中だ。ところが、8月14日に発表した第1四半期の業績は28億円の大赤字。この数字が意味するものは? 瀬戸 健社長に直撃インタビューした!
※店舗により24時間営業でない場合もあります。また、24時間利用できるのはトレーニングマシンに限ります。
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――まず率直に、今年第1四半期(4~6月期)のマイナス28億円という業績についてどう受け止めていますか?
瀬戸 これは実は想定内なんですよ。赤字の原因は品質向上や顧客満足度向上に向けた投資にあって、前期比でいえばむしろ増収増益を達成しています。現状、退会率は改善傾向にありますし、chocoZAPに関していえば出店拡大によっておよそ3割のコストカットを実現しました。
――そのchocoZAP、最近は街中でかなり目につくようになりました。
瀬戸 8月半ばの時点で、店舗数は1597軒に達し、会員数は127万人を突破しています。5月にはすべての都道府県への出店を実現しましたし、引き続き拡張路線を続けていくつもりです。
――chocoZAP事業のスタートが2021年10月であることを考えると、とてつもない成長スピードです。それにしても、さすがにちょっとつくりすぎでは?
瀬戸 いえ、そんなことはないです。RIZAPで培ったノウハウを生かして、世界初の〝コンビニジム〟というコンセプトを打ち出したわけですが、このサービスはユーザーにとって家からどれだけ近いかがカギになります。
実際に「通いたいけど家の近くにない」「仕事帰りに寄りたい」といったご意見をいただいていて、それらにお応えした結果がこの数字なんですよ。
――そもそもchocoZAP事業を思いついたきっかけは?
瀬戸 コロナ禍です。感染拡大後、フィットネスジムは真っ先に3密の代表のように扱われ、休業を余儀なくされました。
そこで、これまでRIZAPで蓄積してきた膨大なデータやノウハウを生かして、どうにかこの窮地を乗り越えられないかと考えた末に思いついたのが、ITを活用して幅広いニーズに対応するというアイデアでした。
例えばコロナ禍で広まったオンラインレッスンなどは、24時間いつでもトレーニングできますし、指導の品質も一定に保てます。これをリアルの場で体現できないかという発想で生まれたのがchocoZAPです。
――19年3月期に193億円という巨額の赤字を計上したことを踏まえると、大逆転ですね。
瀬戸 そうですね(笑)。でも実は、それだけの損失を出したことで不採算店舗の閉鎖など事業整理に踏み切る決断ができ、そのおかげでコロナ禍の最中に2期連続で黒字になっているんですよ。chocoZAPに一気に投資しようと決断したのも、そうした結果を踏まえてのことです。
――chocoZAPといえば、24時間いつでもトレーニングできる上にエステや脱毛、ホワイトニング、ランドリー、カラオケといったサービスが利用できて、月額2980円(税別)という価格設定は目を引きます(対応サービスは店舗により異なる)。でもこれ、さすがに安すぎませんか!?
瀬戸 これこそがまさにテストマーケティングの成果なんですよ。この価格なら絶対に人が集まるし、事業としても成立するというラインを探り当てたわけです。あと、ぶっちゃけ「これで入会しないのはおかしい!」と胸を張って言いたいという思いも大きかったですね(笑)。
――一方で、物価はどんどん上がっています。この価格を維持するのは大変では?
瀬戸 それはおっしゃるとおりです。円安もありますし。それに、こうしたフィットネスは不要不急のものですから、人々の生活が苦しくなれば真っ先に削る対象になるでしょう。しかし、chocoZAPには日々の生活の中で得られる幸福感という、無形の価値があると信じているんです。
――なるほど。
瀬戸 例えば今、自宅に洗濯乾燥機をお持ちではない人が、全国で約5000万人以上いるというデータがあります。それだけの人たちが、洗濯物を干していて急に雨が降ったら、慌てて取り込まなければならない生活をしているわけで、これは自分の時間やゆとりを犠牲にしているともいえます。
その点、われわれの場合、ランドリーはもちろん、何を使うにしても追加料金が一切かからないですから、自分を犠牲にせず思う存分使ってくださいと声を大にして言いたいです。
――しかし、中にはトレーニングではなく、エステやホワイトニングを目的に通う人もいるのでは?
瀬戸 chocoZAPの発想はシェアリングエコノミーの考え方に近いので、それでも別に構わないんですよ。仮に、ひとつの店舗で3人しか使っていない大型マシンがあったとすると、コスト効率としてはかなり悪いものになりますが、24時間がかりで多くの人に使ってもらえれば、コストもそれだけ分散されます。
そこにITを使い、混雑状況が確認できるようにしてさらなる分散を促し、効率化を図るということをやっています。
――こうしてお聞きしていると、まだまだchocoZAP事業には大きな伸びしろがありそうですね。
瀬戸 ええ。そもそもchocoZAPはコロナ禍がなければ生まれていない事業ですから、ピンチとチャンスは表裏一体なのだと実感しますね。
――でも、193億円の赤字を出したときはさすがにこたえたんじゃないですか?
瀬戸 確かに苦しいときもありましたが、結局、覚悟の問題なのだと思います。あの時期は息子と何げなくテレビを見ていたら、唐突に私の謝罪会見の様子が流れることがしばしばありました。
だからといって目を背けたり、息子にニュースを見せないようにしたりするのではなく、この現実としっかり向き合いながら、絶対に自分で状況を変えてやるんだと強く思っていました。
――経営から降りたり、会社を売却したりといったネガティブな考えは?
瀬戸 まったくなかったです。
――そのときにはすでに逆転の手が頭にあったから?
瀬戸 いや、そうでもないです。具体的な策は持ってなかったんですが、それならそれで、アイデアをひねり出すまで寝ないで頑張ってやる、と。人間、そこまで覚悟を固めていると自信が出てくるものなんですよ。
――えぇ~。
瀬戸 これは実はダイエットに似ていて、いきなり2ヵ月で10㎏痩せろと言われても、普通の人はまず無理だと思うでしょう。でも極端な話、10㎏痩せるまで食べなければこれは必ず実現できるんです。
問題はプロセスで、ちゃんとしたノウハウを提示して一歩ずつ進められることが理解できるから、PIZAPの会員さまは10㎏落とせるんです。
chocoZAPも、事業整理の結果が見えている中でテストを始め、確信を高めていくプロセスがあったからこそ、ここまで成長させられているのだと思います。
――瀬戸社長はいわば〝歩くRIZAP〟のような人ですね。そうしたメンタルの強さは生来のものですか?
瀬戸 どうなんでしょうね? 日本は平和な国なので、もし事業がうまくいかなかったとしても命を取られるわけではない。だったら覚悟を決めて最大限やり切るしかないと思っています。
――ズバリ、chocoZAP事業はこの先どこまで伸びるでしょうか?
瀬戸 実際問題として、興味はあるけど近所にないから入会していないという層はまだまだ非常に多いです。
また、こうしたフィットネスは、月に1度といった頻度ではなくて、やるならもっと習慣的かつ継続的に利用するものですから、そうしたニーズを引き続き掘り起こすことは可能だと思っています。コンビニなどは1万以上という規模で存在しているわけですから、目指すべきはそこでしょう。
――1万店は壮大な目標です。
瀬戸 うちの場合、店舗ごとにどのマシンがどれだけ利用されているかが、すべて細かく数値化されています。だから、まだまだ細かいニーズにお応えできますし、chocoZAPでトレーニングにハマり、RIZAPへ移るという流れも生まれています。
今後そうしたグループ内のシナジーを強化していくことで、さらなる業績向上は実現できると思っています。
ルポライター、編集者。1974年生まれ、神奈川県横浜市出身。編集プロダクションを経て、1999年よりフリーライターとして独立。2001年から「このミステリーがすごい!」の編集に携わり、エンターテインメントの評論活動を行なう。17年には父親をテーマにしたアンソロジー『I Love Father』に参加し、小説家デビュー。『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』など著書多数。
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