帝国データバンクによれば、今年1-9月の飲食店倒産ペースは過去最多。ポストコロナの時代、インフレや円安もあいまって業界は以前とまったくちがう様相を呈している 帝国データバンクによれば、今年1-9月の飲食店倒産ペースは過去最多。ポストコロナの時代、インフレや円安もあいまって業界は以前とまったくちがう様相を呈している
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「飲食店経営」について。

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「策士だなあ!」。インフレ傾向にあったこの10月。吉野家が1週間限定で牛丼を100円値下げした。さっそく、すき家や松屋といった競合他店も追随。

私のオフィス近くの吉野家は満席だった。残念ながら本誌発売時には今回のキャンペーンは終了しているが、節約志向がまだまだ根強いなか、飲食店の低価格戦略がふたたび目立つようになってきた。

そのいっぽうで、飲食店の倒産が相次いでいる。帝国データバンク調べでは過去最多ペースで、2024年1-9月期で650件。前年同期比で約17%増加している。二次会需要が完全に復活していないなか、材料や人件費の高騰、人手不足などが悪影響を与えた。

また「ゼロゼロ倒産」とでもいうべき背景もある。コロナ禍で2020年に保証なし・利息なしの融資がはじまったが、多くは元本の返済時期がきても返済できる見込みがない。銀行にとっても信用保証協会が100%の保証をしてくれるケースが多く、借り主をよみがえらせる動機がない。

さらに、借入金の返済期限延長を銀行に依頼し続け、何度か決算を見せるうちに粉飾がバレてしまい、そこで資金繰りが行き詰まる「コンプラ倒産」も目立っている。

環境の変化もある。昨今ではスーパーマーケットのプライベートブランド(PB)食品の進化がすさまじい。

イオンのトップバリュは低価格商品で攻めてくる。まいばすけっとは大半をトップバリュ商品で占める店舗をオープンした。ラインナップは牛乳、肉、卵にまでいたる。PB肉って。いったい対象範囲はどこまで広がるのか。また、ライフもオートミールのPBを展開している。

家で作ったほうが安いしうまいと思ったら、外食から足が遠のく。さらにもちろんコンビニエンスストアもあるし、最近ではドラッグストアまで独自商品を販売している。要するに、外食産業同士の対決だけではなくなっているということだ。

とても凡庸な結論だが、マスを相手にする大資本の飲食チェーンであれば、価格競争力を向上させて勝負するのもいい。

いまだにたった数十円の値上げでとたんに売上が落ちたり、少しの値下げで集客できたりするという話をよく聞く。より企業努力を重ね、商品価値と低価格の両立を図っていくということだ。

ただし、小規模な飲食店は価格競争に巻き込まれないようにしなければならない。もっといえば、ファンを増やして「多少の値上げなんて気にせずに来てくれる」状況を作るしかない。「価格なんて気にしない」層やインバウンドの客をつかむことが重要だろう。

ところで、先ほど吉野家を策士と書いた。牛丼値下げのニュースが流れた際、「デフレから脱却しようとしているのにおかしい」との意見があったが、ほんとうにそうか。むしろ狡猾(こうかつ)な戦略ではないのか。

吉野家で一日に牛丼が50万杯売れるとする(あくまで仮定だ)。100円引きならば1日5000万円。7日間で3億5000万円。

けっして安くはないが、この値下げキャンペーンはメディアをジャックし、ほぼすべてのニュース番組が取り上げた。店舗に新規客を誘導するのにも成功した。ひさびさの客には新商品もPRした。おそるべし。これは値下げではなく"特盛り"の広報戦略だ。

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坂口孝則

坂口孝則Takanori SAKAGUCHI

調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!

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