小山田裕哉おやまだ・ゆうや
1984年生まれ、岩手県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映画業界、イベント業などを経て、フリーランスのライターとして執筆活動を始める。ビジネス・カルチャー・広告・書籍構成など、さまざまな媒体で執筆・編集活動を行っている。著書に「売らずに売る技術 高級ブランドに学ぶ安売りせずに売る秘密」(集英社)。季刊誌「tattva」(BOOTLEG)編集部員。
「働き方改革」という言葉はすっかり定着したものの、週休は2日制が圧倒的に多い日本。しかし、近年は週休3日制を導入する職場も増えており、東京都庁も導入を発表!
そこで、週休3日で働いている人、同制度を導入した企業・自治体、そして人事コンサルタントに取材し、週休3日制の実態について緊急調査を行なった!
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12月3日、東京都の小池百合子知事が都議会の所信表明演説で、来年度からの週休3日制の導入を発表した。都庁の職員を対象に、土日以外も追加で休日を取得できるようにフレックスタイム制の運用を変更するという。
近年、東京都に限らず、全国の自治体で週休3日制の導入が進みつつある。茨城県や千葉県の県庁などで導入済みのほか、各地の市区町村でも試験的な導入が続々と始まっている。
また、ファーストリテイリング、ZOZO、LINEヤフーなど、先進的な働き方を積極的に取り入れてきた企業では、すでに週休3日制の本格的運用が始まっており、JR西日本のような伝統的な企業のイメージが強い組織でも来年度からの導入が決まった。
なぜ、このタイミングで週休3日制に注目が集まっているのか。組織人事のコンサルティングを専門とする人材研究所の安藤 健氏が解説する。
「自治体でも企業でも、背景にあるのは空前の採用難です。すでにさまざまな業界で人手不足は問題になっていますが、日本は少子高齢化ということもあり、今後は労働人口の減少がさらに加速していきます。
しかも、多様な働き方を求める労働者も増え続けており、それに応えられる組織でないと人が集めづらかったり、従業員の定着率が下がったりするという事情がまずあります。
加えて週休3日制の導入には、育児や介護で従来どおりの働き方を断念せざるをえないミドル世代の退職を防ぐ意図もあります。ミドル世代は組織の要となっているケースが多いですが、実は今、優秀な人の採用が最も難しい層でもあります。どこも人手不足のため、引く手あまたになっているからです。
ただでさえ新規も中途も採用が難しい中で、せっかく獲得した人材に退職されてしまうくらいならば、人事制度を個々人が求める柔軟な働き方に対応できるように変えよう。これが週休3日制の導入が進んでいる理由です」
しかし、日本企業における週休3日制は、ごく一部に過ぎないと安藤氏は指摘する。
「週休3日制の導入率は日本企業全体の約5%に過ぎません。では、なぜ都庁のような注目度の高い組織が率先して導入し始めているのか。それは週休3日制を日本の新たな働き方として普及させたいからです。そこには今、人手不足に対処しておかないと、日本経済に大きな悪影響を及ぼすという危機感があります」
つまり、首都から各地の市区町村へと週休3日制を広げようというわけだ。
「これは民間企業でも同様です。実際、すでに導入しているのは各業界のリーディングカンパニーといえる組織ばかりです。その意味で週休3日制は、まさにこれからの働き方のスタンダードになるかどうかという段階にあります」
今回、週刊プレイボーイが2959人の正社員を対象に行なったアンケートでも、「週休3日制を利用している」と答えたのは全体の4.9%(145人)と、安藤氏の指摘を裏づけている。
では、すでに週休3日制で働いている人たちは、この新しい働き方をどう感じているのか。詳しい回答を得られた100人の声を見ていこう。
そもそも「週休3日制」とはどのような制度か。
「読んで字のごとく、1週間の休日が3日となる働き方のことですが、組織によって全従業員に適用される『完全週休3日制』と、希望者のみが追加の休日を取得する『選択的週休3日制』のふたつのパターンがあります」(安藤氏)
アンケートでは約6割の人が「選択的週休3日制」、3割が「完全週休3日制」と回答しており、現時点では「選択的」が主流のようだ。安藤氏は語る。
「企業や自治体の大半は『選択的』です。というのも、完全週休3日制は日本的組織では導入が難しいからです」
どういうことか?
「外資系企業のように従業員の仕事の範囲が明確な〝ジョブ型雇用〟の組織では、もともと成果さえ出していれば働き方は自由という風土があります。だから、組織全体で週休3日制を導入しやすい。その代わり、成果を出さなければ降格や解雇となります。
しかし、日本的な〝メンバーシップ型雇用〟では、会社都合で部署異動が頻繁に起こるように、業務さえこなしてくれればいいという雇用形態ではありません。
そのため、純粋に成果だけを人事評価の対象にはできない。裏を返せば、それは給与を下げたり、クビを切ったりする明確な理由を明示しにくいということでもあります。これが日本型組織の特徴であり、柔軟な働き方を導入しにくかった原因でもありました。
ただ、近年の深刻な人手不足により、日本型組織にも多様な働き方が求められるようになりました。しかし、従業員一律で働き方を変えるのは難しい。だから、より柔軟に働きたい希望者のみを対象とする『選択的週休3日制』が中心になっているわけです」
では、なぜ週休3日制を選択したのか。「プライベートの充実のため」という回答が半数以上を占め、次に「病気療養」が約2割という結果に。意外にも「育児」や「介護」を理由に挙げた人はどちらも1割前後だった。
プライベートが充実して給与が変わらなければなんともうらやましい限りだが、実態としては「給与が変わらない」という人が約半数である一方、「減った」人が約3割もいることは見逃せない。
さらに、「週休3日制になって困っていること」を聞いてみると、それぞれ約3割の人が「給与が減った」「1日当たりの労働時間が増えた」「仕事の成果を上げづらくなった」など、なんらかの課題を抱えていると答えた。
実際、週休3日制に「満足している」のは1割強であり、半数が「どちらかといえば満足」、残りの約4割は「不満あり」と回答している。これらの声を踏まえると、週休3日制を「休みが増えてうれしい制度」とは一概に評価できないようだ。
ならば、企業や自治体側の意見はどうか。IT業界大手のLINEヤフーは、2017年4月から選択的週休3日制を導入してきた。広報担当者が語る。
「当時、従業員の平均年齢が約36歳となり、介護などを理由に退職せざるをえないケースが出てきていました。そのため、家族のサポートをしながらでも安心して働ける環境づくりを目的に、育児・介護を抱えている社員の働き方の選択肢を増やす『えらべる勤務制度』というワークスタイルの提供を開始しました。
対象は、小学生以下の同居する子を養育する従業員、および家族の介護をしている従業員です。申請者は土日の休みに加え、1週当たり1日の無給休暇を取得できます。増えた休日は、学校行事への参加、学習・受験のサポート、療養リハビリ、介護負担の分散などに活用されています」
従業員の評価も上々だ。
「社内からは『育児のコミュニティに参加して自分の世界が広がった』『子供の夏休みなどに合わせてフレキシブルに取得できるのがうれしい』などの声が上がっています。
また、『この制度のおかげで退職せずに済んだ』『育児や介護との両立が可能になり、心身にゆとりが持てるようになった』といった意見もあり、離職の抑制やパフォーマンス発揮につながっていると考えています」
一方、週休3日制を試してみたことで、かえって導入の難しさを実感したという事例もある。23年の8月から9月にかけ、選択的週休3日制を試験的に導入した群馬県の前橋市だ。市役所広報担当者が次のように振り返る。
「実際に体験した希望者からはおおむね好反応だったものの、現状では組織全体での活用は見送るという結論になりました。
というのも、事務作業が中心の部署はいいのですが、市民の窓口対応が主の課では、従来と同じサービスの提供が困難になります。つまり、組織内で週休3日制を実施できる課とできない課があると明確になったのです」
しかし、東京都など自治体の導入例は増えているが?
「都庁や県庁は市区町村の役所とは違い、窓口業務が中心の組織ではありません。市区町村の役所は市民に対する行政サービスの窓口としての役割が大きく、『週休3日制なので平日も窓口を閉じます』とはなかなか言えません。
民間企業もそうだと思いますが、週休3日制はどのポジションでも職員の業務形態が似ている組織、例えばデスクワーク中心の組織なら導入しやすいはずです。市区町村の役所にはサービス業のような業務内容の職員もいれば、事務中心の職員もいます。部署によって業務形態が大きく異なるのです。
そのため、同じ組織で働いているのに、業務都合で週休3日を取得できない職員が出てしまう。このまま週休3日制を導入したら、職場間で不公平感が生じてしまいます。実際、『自分の部署では取得できない』という不満の声は試験導入時から少なからず出ていました」
そのため、前橋市では現在、週休3日制の代わりに、「窓口対応のオンライン化を進めるなど、デジタルを活用することで業務効率化を図り、少ない人員でもスムーズに行政サービスが提供できる体制づくりを目指している」という。週休3日制の導入が、あらゆる組織で人手不足の解消につながるわけではないようだ。
前出の安藤氏もうなずく。
「週休3日制は簡単に導入できるものではありません。『休みが増えた代わりに業績が下がった』となっては本末転倒だからです。少ない労働時間で導入前以上の成果を上げることが前提であり、そのためには業務効率化を図ってムダをなくし、従業員1人当たりの生産性を上げておく必要があります。週休3日制の導入は、その後でなければ効果は出ないでしょう」
労働者にとっても週休3日制の導入は、メリットばかりではないという。
「むしろ、働き方を個々人が柔軟に選べるようになるからこそ、自分自身のキャリアをしっかりマネジメントできる人材になることが求められていると認識すべきです。『選択的』ということは、『働き方の選択肢は用意するから、その選択の責任は自分で取ってくださいね』ということです。
人事制度の改革は、労働者にとっても常にトレードオフです。何かを得たら、何かを失います。平日の休みが増える代わりに、労働者にも生産性の向上が要求されます。週休3日制の導入は従業員の福利厚生を充実させるためではないのです。
休みをプライベートの充実ではなく、自己成長に活用しないと組織の要求に応えられなくなる可能性も大いにありえるでしょう。
成果主義が中心である欧米の企業では当たり前の働き方ですが、日本でどこまで通用するか。週休3日制が日本で本格的に定着するのは、その結果が出てからでしょう」
週休3日制の普及は、より厳しく労働の成果が求められる時代の幕開けを告げているのかもしれない。
1984年生まれ、岩手県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映画業界、イベント業などを経て、フリーランスのライターとして執筆活動を始める。ビジネス・カルチャー・広告・書籍構成など、さまざまな媒体で執筆・編集活動を行っている。著書に「売らずに売る技術 高級ブランドに学ぶ安売りせずに売る秘密」(集英社)。季刊誌「tattva」(BOOTLEG)編集部員。