過去43年で最大というエンゲル係数の上昇は、サラリーマンのランチに暗い影を落としている 過去43年で最大というエンゲル係数の上昇は、サラリーマンのランチに暗い影を落としている
総務省の家計調査によると、家計の消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」は昨年28.3%となり、1981年以来最高の水準を記録した。エンゲル係数が高い国ほど貧困の度合いが強いとみなされるが、日本は主要先進国で最高となっている。食品価格の高騰に所得の上昇が追いついていないことが一番の原因とみられている。

そんななか、サラリーマンのランチ事情にも暗い影が差し込んでいる。いままで800円程度で食べられたオフィス街の昼定食が、いまは1000円からがデフォルトに。かといって、自炊の弁当は部下を持つ身だと所帯じみた雰囲気を醸し、社内での立場が軽んじられるリスクも生じる。

■愛妻弁当が「煮物ばっか」

都心部に勤める、メーカーの課長クラスのAさん(42)がぼやく。

「30代のころは社内の視線なんて気にせずに自由に振る舞えて、愛妻弁当を何の気兼ねなく食べてランチ代を浮かせていたんですけどね。ただ、2年前にいまの職位になって、部下を5人程度抱える立場になると、彼らの視線が気になって仕方ないんです。

昼休みに職場で前日の晩飯をつめこんだ弁当を食べていると、我が家の食卓をのぞかれているようでして。実際、部下たちが『いつも、煮物食ってねぇか』『茶色いもんばっかだな』と陰でバカにしていると、同期が知らせてきたこともあります。

彼らは独身ばかりで給与の大半が可処分所得なので、ランチにも平気な顔で2000円近くかけます。こっちは住宅ローンに子供の学資ローンとカネがかかって仕方ないので、豪勢な昼飯など夢のまた夢。

部下はいいものを食っているのに、上司がさもしい弁当を食べていては威厳を保てないので、昨年から職場では弁当を食べるのをやめました」(Aさん)

職場では愛妻弁当を食べなくなったAさん。とはいえ、自腹を切って外食するほどの金銭的余裕は乏しい。そこで、天気のいい日は職場近くの公園で、荒天の日は近場のイートインができるコンビニで、弁当を食べるようになったという。

「最初のうちは、コンビニで自宅から持ち寄った弁当を食べるのは気が引けましたけれど、背に腹は代えられませんからね。冬は屋外で飯を食うとみじめな気分になりますし。

別のスーパーで格安で売っていたカップみそ汁に、コンビニのカップラーメン用の熱湯を注いで弁当のお供にするのも今では全く気にならなくなりました。一応、ペットボトルのお茶だけは買ってますけどね」(Aさん)

保険会社勤務のBさん(50)も、ランチ代を削るのに必死だ。

「子どもが独立して弁当は不要になったので、2年前から妻が私のために弁当を作ってくれなくなりました。それで、毎日のように職場の近くの立ち食いそば屋でしのいでいたんですが、上司が『中間管理職なのに立ち食いそばばっかり通っていると、若手が希望をなくす。もう少し、高いところで食えよ』と小言を垂れてきましてね。

『そんな要求をしてくるなら給料を上げろよ』と腹も立ちますが、出世コースから外れているので昇給の見込みはありません。だから最近は、健康管理と称して会社まで電動自転車で通勤して行動範囲を広げ、同僚と顔を合わせなくて済む職場から2~3キロ離れたエリアの立ち食いそば屋を日替わりで巡ることにしました。どうせ味はどこも同じようなもんだし、同僚の目をかわせるので気楽です」(Bさん)

■株主優待を駆使して節約

リクルートが昨年にまとめた、働く人のランチ代に関する調査結果では、予算の全体平均は452円だった。2年連続で過去最高を更新したものの、内訳では「自炊、または家族等が作った食事」の人が全体の31.1%で最多。コロナ禍以降のリモートワークの浸透が影響している。

また、「自分、または家族等が作った弁当」は19.2%で、物価高騰の波に自炊で抗おうとしている現実が浮かぶ。結局、平均額を押し上げているのは平均支出額1368円の「出前、デリバリー」や、同1243円の「外食店内での食事」だ。ランチをフーデリや外食で済ませるのは、もはや贅沢な散財ともいえる。

節約サラリーマンの強い味方だった立ち食いそばだが、近年は値上げも相次ぐ。そんななか、かき揚げが無料になる株式優待券に注目が集まっている(写真はイメージです) 節約サラリーマンの強い味方だった立ち食いそばだが、近年は値上げも相次ぐ。そんななか、かき揚げが無料になる株式優待券に注目が集まっている(写真はイメージです)
そうした中、ランチの高額化にささやかな財テクで対抗しているのが、証券会社社員のCさん(47)だ。

「株を持っているすかいらーくやマクドナルド、吉野家は株主優待で食事券をくれますので重宝しています。昨年の10月に上場して話題になった東京メトロの株も買いましたが、資産性もさることながら、立ち食いそばのかきあげ無料券が魅力でした。

株以外にも、ガストやデニーズといった主だったファミレスなんかで使えるジェフグルメカードは、金券ショップで500円分を465円で売っている。これを使えば、5万円使ったら3500円浮きますからね。給料は上がらないのに、物価はコロナ前に比べて1~2割上がっていますから、こういった手段を講じないと支出額は増えていく一方です」(Cさん)

インフレ時代のサラリーマンたちは、束の間の昼食時間ですらも知恵と体力を使ってもがいているのだ。