直近5年で3.6倍に! そのトレンドは米中対立、ロシア・ウクライナ戦争、AIブームでさらに加速...... 直近5年で3.6倍に! そのトレンドは米中対立、ロシア・ウクライナ戦争、AIブームでさらに加速......

新NISAが2年目を迎えたが、ここ1年、株式の調子が振るわない。一方で調子がいいのが貴金属だ。真っ先に浮かぶのが金だが、今アツいのは銀らしい! そもそも銀の魅力って何? 金とどう違う? なぜ値上がりしてる? どうやって買うの? 知られざる銀投資の世界に迫る!

■貴金属だけにカタい投資先!

昨年開始となった新NISA口座を利用した、個人投資家の年間投資額は12.8兆円に上り、一昨年の旧NISAと比べて3.7倍に達した。投資ブームは年が変わっても続いているが、実は投資を取り巻く環境はがらりと変わってきている。

まずは金利上昇。1月24日、日銀が政策金利を0.5%に引き上げた。加えて景気やビジネスへの影響が大きい長期金利(10年国債金利)はすでに1.33%を超え、約14年ぶりの水準となっている。

企業の資金調達や事業投資のハードルは着実に上がっているのだ。この流れを早くから敏感に感じ取り、日経平均は昨年2月以来、横ばいを続けている。頼みの米国株も昨秋のトランプ大統領当選以来、停滞中だ。

そんな中、ひそかに高値を更新し、プロの注目を集めている投資商品がある。それが銀(シルバー)だ。

「コロナ相場の大底から約5年間で、日本円建てのシルバー価格は約3.6倍になっています。日経平均は昨年に史上最高値の4万2426円をつけて話題になりましたが、それでも同期間の上昇率は約2.5倍に過ぎません」

こうシルバーの勢いを強調するのは、貴金属アナリストの池水雄一氏。総合商社から外資系金融に転じ、40年にわたって貴金属取引を続けているスペシャリストだ。同氏によれば、シルバー投資には株式と異なる特有の魅力があるという。

「資産運用の王道が株なのは確かです。企業が生み出した利益が配当や株価上昇となって投資家に還元される、その長期的な力は疑う余地がない。

一方、貴金属の価格が長期的に上がってきた点は株と同じですが、シルバーがせっせと働いて利益を生み出すわけではありません。その貴重さと有用さに投資価値があり、シルバーを持っていれば通貨の価値が暴落しても安心だという『守る力』が魅力です」

■ゴールドじゃなくてなぜシルバー?

つまり、最近は株式の「攻める力」より、シルバーの「守る力」がより強みを発揮した相場だったということだ。その背景はなんだろうか。

「2020年がターニングポイントでした。シルバーは歴史的にゴールドと価格が連動しているのですが、コロナ禍で安全資産として注目が高まったのです。

このようにゴールドは経済ショックや国家間の政治的対立、戦争などが起きた際の避難先として買われる傾向があり、これがシルバーの上昇をも引き起こしているのです」

ロシア・ウクライナ戦争や中東での紛争が起こると、ゴールド価格は一気に上昇。さらに、米国を中心とする世界秩序に異を唱える中国やロシアの中央銀行も、ゴールドをコツコツ買っていたのだ。

この先、仮に米国との対立が先鋭化して米ドルでの貿易決済ができなくなったとしても、ゴールドの価値によって裏づけられた通貨であればどこでも通用する。

ゴールドはその布石として買われ、それにつられてシルバー価格も上がってきたわけだ。しかし、そうであるならゴールドを買えばいいのでは?

「ゴールドにはない、シルバー固有の魅力があるんです。それが、年々高まるシルバーの工業用の需要です」

ゴールドの工業用途は需要の一部に過ぎない。宝飾品の用途、あるいはメダルや延べ棒として保管される形が9割以上を占める。

これに対してシルバーは工業用の材料としての需要が約50%に上る。半導体の材料なのでAIブームが追い風となるほか、近年では太陽光発電での引き合いが強い。

「ソーラーパネルの材料としての需要が年々増加しています。昨年、世界的な気温上昇が意識されたこともあり、脱炭素の動きは今後も加速するでしょう。重要な再生可能エネルギーとして、この分野でのシルバー需要は青天井で伸びていくはず。

そして、シルバー価格の上昇にさらに拍車をかける要因がもうひとつあります。それは伸びる需要に対してシルバーの供給量が増えない、すなわち需要超過が続いていくことです」

広く見られる結晶シリコン系太陽光パネルに銀は必須。受光面側のフィンガー電極という細い電極に銀ペーストが使われている 広く見られる結晶シリコン系太陽光パネルに銀は必須。受光面側のフィンガー電極という細い電極に銀ペーストが使われている

鉱山から採掘するシルバーの生産量は過去10年、毎年約2万6000tでほぼ変化がなく、今後も増える見込みがない。

シルバーの生産量のうち、半分以上がゴールドなどのほかの金属を採掘する際の副産物として取り出されるため、銀単体を狙って採掘を増やすことが非常に難しいのだ。

これまでに生産され、利用されたシルバーのリサイクルを含めても年間の生産量はほぼ一定というのだから、シルバーがいかに貴重な存在であるかがわかるだろう。

「その結果、かれこれもう5年も供給不足の状態が続いています。シルバーの用途の中でも特に伸び盛りであるソーラーパネルでの需要を見ると、2015年には約1850tでした。

これが昨年には約7200tと、約3.9倍に増加しています。年率16%増という勢いが9年続いている計算です。

これを背景に、シルバーは2019年の時点ですでに約2700tの供給不足となっていましたが、昨年には約8200tもの大幅な不足となりました。この先もさらに需要超過・供給不足が続くと予想されています」

銀そのものを狙って採掘することは難しく、供給不足が続く。メキシコ、ペルー、中国が世界の銀生産量の半分を占める 銀そのものを狙って採掘することは難しく、供給不足が続く。メキシコ、ペルー、中国が世界の銀生産量の半分を占める

世界にはこれほどまでにシルバーが足りないのだから、どう考えてもシルバー価格は今後も上がるしかないと池水氏は力を込める。

「ゴールドはシルバーのような供給不足ではありません。つまり、伸びしろがかなり大きいという点はゴールドにはない、シルバーならではの魅力なのです。

むしろこれだけの供給不足が続いてきたのに、この5年でゴールドと同じくらいしか価格が上がってこなかったこと自体がちょっとおかしい。これからはシルバーの時代でしょう」

■オススメは積み立て投資!

では、シルバーはどう買うのがいいのか。池水氏は、投資初心者には積み立て投資がオススメだと語る。

「相場の動向を気にしながらシルバーの投資タイミングを考えるのは難しい。シルバー価格は長期的に上昇していくお膳立てができていますから、できる範囲でコツコツ積み立てていくのが無難でしょう」

シルバーへの投資はふたつの方法で行なうことができる。ひとつは貴金属の売買を取り扱う会社で購入する方法だ。シルバーの積み立て投資は、金属の採掘・加工・流通を手がける三菱マテリアルに口座を開くと、月々3000円から行なえる。

また、楽天、SBI、マネックスの大手ネット証券3社に口座を持っている人は、月々1000円から積み立て投資が可能だ。SBI証券などでは手続きを踏めば地金として引き出すこともできる。

もうひとつの買い方が、シルバー価格に連動するETF(上場投資信託)への投資だ。具体的には「純銀上場信託(現物国内保管型)」を購入すれば、同じ投資効果を得られる。

売買は1株単位で現状では約1万5000円からの投資となるが、NISA口座で購入すれば投資利益に税金がかからないので、慣れている人にはむしろこちらのほうがオススメ。

「株式や投資信託に投資している人は、シルバーを筆頭にゴールドやプラチナも合わせた貴金属というくくりで、運用資産の10%を目指して積み立てていくとよいでしょう。

貴金属は株式と値動きのパターンがまったく異なり、むしろ株がダメなときほど光り輝くことが多いもの。運用資産における貴金属の割合を決めておくことで、相対的に株が高いときには貴金属を多く、貴金属が高いときには株を多く買うことになります。

結果、どちらも高値づかみを防ぐことができ、長期的な運用効率がアップするんです」

最後に、今後のシルバー価格を左右するファクターを見ていこう。まずは世界の紛争の動向だ。ロシア・ウクライナ戦争と、イスラエルと周辺国の紛争が共に終息するようなことがあれば、一時的にシルバーは売り局面に入る可能性があるという。ただしここで慌てて売るべからず、と池水氏。

「シルバーは歴史的高値を更新し続けていますから、一時の下落は長い目で見れば、またとない買い時となります。勇気を持って買い増しましょう。

あともうひとつ、シルバー価格に大きな影響を持つのがFRBの金融政策です。歴史的に、利下げ局面ではシルバー価格は上昇方向に動いてきました。現在小休止中の利下げが再開されるまでに、できる範囲で仕込んでおくとよいでしょう」

いぶし銀というには魅力的すぎる、シルバーの上昇力に期待してみては?