前身は財閥解体で1950年に誕生した日鐵汽船。何度かの合併を経て、2010年に現社名に。社名のNSは日鉄海運と新和海運の頭文字 前身は財閥解体で1950年に誕生した日鐵汽船。何度かの合併を経て、2010年に現社名に。社名のNSは日鉄海運と新和海運の頭文字

『週刊プレイボーイ』で連載中の「坂本慎太郎の街歩き投資ラボ」。株式評論家の坂本慎太郎とともに街を歩き、投資先選びのヒントを探してみよう。金のなる木はあなたのすぐ近くに生えている!

今週の研究対象 
トランプ関税の90日間停止(NSユナイテッド海運)

トランプ米大統領の関税措置が世界を震撼させている。今後関税率が上がるのなら、今のうちに輸出を済ませておこうと考える企業もあるかもしれない。その恩恵を受けられる海運会社は?

助手 アメリカの関税って結局どうなるんですかね? 日本に「相互関税」として24%もの関税をかけると発表したのが4月3日。発表を受けて株式市場が大暴落に見舞われたのを気にしたのか、9日の関税発動直後にトランプ大統領は90日間の相互関税一部停止措置を発表しました。その間に各国は関税交渉に入ったわけですけど、今のところ、どの国も目立った成果を出してなさそうです。

坂本 トランプ大統領のことだから、交渉の成果を予想してもあまり意味がない。まぁ、とりあえずは見守るほかないね。確かなことは、90日間は関税が10%で済むってこと。投資家としては、この期間に儲けられる企業を探すほうが割に合うよ。

助手 たった90日の停止措置が追い風になる企業なんてありますか? 

坂本 税率アップ前に、駆け込みで輸出する需要は確実にある。だから海運業に追い風が吹くとみています。

助手 海外への輸送なら空運もありますよね。なぜ海運に絞るんです?

坂本 空運は運賃が高い上に搭載量が少ないから、運べる物が限られています。駆け込み需要で増える輸送量はそれほど大きくない可能性がある。一方、海運業は業界の構造的に、突発的需要に対応して儲けることができる企業がわかりやすいんです。

助手 へえー。海運業の中でも儲けやすい企業と、そうでもない企業に分かれるんですか。

坂本 そう。儲けられそうなのが業界4位のNSユナイテッド海運。一方で、それほど恩恵がなさそうなのは日本郵船や商船三井、川崎汽船などの大手だね。

助手 なんで業界大手のほうが恩恵がないんですか? 大手ならたくさんの船を所有しているだろうから、駆け込み需要で大儲けってことになりそうですけど。

坂本 いや。最近の海運大手は荷主企業と長期契約を結んで、期間中は決められた運賃で輸送することが多いんです。契約期間は少なくとも6ヵ月で、3年ってケースもある。多くの船を持っていても、特定の企業のために押さえられているから突発的な需要に対応しづらいわけ。

助手 せっかくのビジネスチャンスなのに! なんでそんな融通が利かないんですか?

坂本 業績の波を抑えようと工夫した結果なんです。物流は景気が良いときに需要が増えますが、景気悪化で一気に萎みます。一方、船は発注から完成までに3~5年はかかる。だから好景気時に船を発注しても、完成時には景気後退に陥っていることも多い。ただでさえ需要が落ち込んで運賃が低下した頃に、新船が増えて需給がさらに悪化して業界全体が苦しくなるのがお決まりだったんです。長期契約なら運賃の変動を抑えつつ、需要予測もしやすくなるから業績変動の低減に役立つ。

助手 NSユナイテッド海運も事情は同じじゃないんですか?

坂本 もちろん同社も長期契約は多いけど、大手を追う立場だから。積極的に顧客を獲得するために、お試し的な意味合いで1航海ごとのスポット契約にも力を入れてるんです。それにスポットに適したバラ積み船が主力で、対応のための余力もあるはずです。実際、2023年度にもスポット契約で業績を上積みした実績がある。関税停止の90日間は同社の第1四半期とちょうど重なります。駆け込み需要を狙った投資なので、第1四半期の決算発表で好決算が確認されたら売り抜けるといった短期の勝負がいいでしょう。

今週の実験結果 
高騰する可能性はありますが、買うとしても短期で売り抜けるといいでしょう!

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坂本慎太郎

坂本慎太郎さかもと・しんたろう

こころトレード研究所所長。ハンドルネームは「Bコミ」。日系の証券会社でディーラー、大手生命保険会社で株式、債券のファンドマネジャー、株式のストラテジストを7年間経験。ラジオNIKKEIや日経CNBCなどの投資番組へのレギュラー出演多数。著書に『プロ投資家が教える副収入1000万円の最短コース』(BEST TIMES books)など
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