熊本・慈恵病院や全国児童養護施設協議会からの抗議で、全スポンサーがCM見合わせという異例の事態になっている日本テレビ系列のドラマ『明日、ママがいない』。

同作の脚本監修に携わっているのは、人気脚本家の野島伸司氏だ。ヒットメーカーの野島氏だが、実は過去の野島作品も、放送当時、多くのクレームが発生していた。

ドラマ評論家の木村隆志氏が解説する。

「『高校教師』(1993年・平均視聴率21.9%)はPTAや教師団体から、『人間・失格』(1994年・平均視聴率19.2%)は太宰治の遺族からタイトルに関して、そしてPTAからもいじめの内容が陰惨すぎるとの理由でクレームが入りました。さらに『未成年』(1995年・平均視聴率20.0%)は、作中で罪を犯した登場人物が未成年であるにもかかわらず実名・顔写真入りで報道されるというシーンがクレームを受け、DVDでは差し替え。『聖者の行進』(19 98年・平均視聴率20.9%)は障害者団体からと、野島“タブー”作品には必ずクレームがつきまとっています」

では当時、今回の『明日ママ』のように大きな騒動に発展していたのだろうか? 同じくドラマ評論家の成馬零一氏が語る。

「当時のエンタメゴシップネタの情報源は週刊誌やテレビ誌で、それらはこぞって野島作品をバッシングしましたが、今回ほど広く世論を動かす大騒動にはならなかった印象があります」

今回、ここまで事を大きくなった理由のひとつに、ネットの普及がある。情報の波及効果、そしてレスポンスの速さは以前と比べ物にならないほど大きく、速くなっている。

ほかにも理由があると、前出の成馬氏が続ける。

「ほかに考えられるのは、テレビ局側も今より力が強かったので、毅然とした態度が取れたことでしょう。さらに、当時はまだDVD販売などが一般的でなく、アーカイブとしての副収入はそれほど見込まれていませんでした。なので、3ヵ月逃げ切ればなんとかなるという考えで“まじめに作っている”“最後まで見てほしい”という対応で押し切れていた。

しかし、現在はクレームによってDVD化が困難になると厄介ですから、対応は慎重です。実際に人気ドラマ『相棒』でもクレームが来てDVD収録が欠番になっている回もありますが、(『明日、ママがいない』のように)一話完結でない連続ドラマにおいては、欠番が出るとDVD化自体が危うくなるので、今回、養護施設協議会に番組責任者が直接面会に行くなどの対応をしたと考えられます」(成馬氏)

また、騒動の背景を別の視点から指摘するのは『テレビドラマを学問する』の著者で中央大学文学部・宇佐美毅教授だ。

「2003年にBPO(放送倫理・番組向上機構)が設立されてから、訴える機関がはっきりしたため、クレームを入れやすくなったという背景もあります。今回の『明日、ママがいない』の件で、慈恵病院が審理を求めたのもこのBPOでした」

つまり、今も昔もクレーム問題は変わらず起こっているが、取り巻く環境の変化が大きいということか。ただし、宇佐美教授はここまで問題が大きくなっている理由をこう付け加えた。

「過去の野島作品のクレーム事例と違って、よくなかったのは、“赤ちゃんポスト”という全国にひとつしかなく、完全に特定されるものをテーマとして扱ってしまったこと。そこは制作者サイドの取材の甘さと言わざるを得ません」

1月29日に放送された第3話の視聴率は15.0%。第1話、第2話より上昇しているのは、ドラマの内容か、話題性か。

(構成/田島太陽)

■週刊プレイボーイ7号「過去の野島伸司タブー作品の世論やクレームはいったいどうだったのか?」より