『THE NEXT GENERATION -パトレイバー-』として実写版映画が4月5日から上映開始、新しい歴史が紡がれ始めることとなった『機動警察パトレイバー』シリーズ! 完全新作実写版『パトレイバー』シリーズの総監督として陣頭指揮する鬼才、押井守氏に直撃取材を敢行!
■巨大ロボット不要論から始まった!
――まずは直球勝負! なんで今、実写版を手掛けたんでしょうか?
押井 劇場版アニメの2作目(1993年公開の『機動警察パトレイバー2 the Movie』)を終えた段階で、次に僕がやるなら実写版しかないなと思ってたから、実写でやりませんかとオーダーが来たときに迷いはなかったね。
でもその代わり、いくつかの条件を出したんだよ。特車二課の面々を三代目にして世代交代した後の現在を舞台にするということとか、実物大のレイバーを作るということとか。実物大はプロデューサーなんかからは「どうしても作らなきゃいけないの!?」って泣き言聞かされたけど、「実機作らないなら監督やらないよ」って(笑)。
――では、完成した実物大を見た瞬間の感動もひとしお?
押井 98式(AV-98 イングラム)の全高約8mというのは、リアルに動き出しそうと予感させるギリギリのサイズだと思っていたんだけど、予想どおりの迫力がありましたよ。ただ、デザインはほぼ、ぶっちゃん(メカデザイン担当の出渕裕[いずぶちゆたか]氏)のアニメ版を踏襲しているけどね。僕自身は98式が嫌いだったから全部作り直そうかとも考えたけど、面影を残したほうが従来のファンは喜ぶだろうし。
――98式、嫌いだったんですか!?
押井 好きかどうかと聞かれたら、絶対好きじゃない。もちろんあのロボットがあったから、こんなに長く続いた人気シリーズになったんだとも思うけどね。だけど、僕には何がいいのかさっぱり。
――否定的な言葉がポンポンと!
押井 だってね、もう25年以上前になるわけですけど、そもそもこのパトレイバーという作品のスタート地点は、“二足歩行の巨大ロボットが活躍するなんてあり得ない”っていうのを裏テーマみたいにしてたんだから。
――ええっ! まさかのレイバー不要論? でも、マンガ版やテレビアニメ版ではパトレイバーが大立ち回りして大活躍でしたよ?
押井 だから僕が携わってないとこでいつの間にかそうなってたんだよ。でも本当は、最初からレイバーは“使えないもの”で、事件現場に持っていくのも渋滞に引っかかって大変だし、現場でもリボルバーなんて役に立たないしってところから話を始めたんだけど……気づいたら普通のロボットヒーローになっちゃってたからさ。
――つまり、パトレイバーはロボットヒーローもののアンチテーゼとして生まれた作品だったと!
押井 だから今回の実写版は本当の意味での原点回帰なんだよ。二足歩行の巨大ロボットなんて、それぐらい使えないものなんだ、誰がこんなもん作ったんだ、ってところから話を始めようぜって。
――そういえばエピソード0でも整備班・班長、シバシゲオがレイバーのダメさを語っていました。
押井 だってロボットって無人であるべきなのに、人が乗ったら意味ないだろ!って(笑)。本当は顔も足も必要ないんだけどさ。でも日本人はデカいロボットに人が乗って戦うってのが好きだからね。そんなミステイクを警視庁が大まじめにやってしまったというのが劇中の背景にある物語なんだよ。ここから始めないとリアルは一切出てこないと思ったから。
――けど、けど……、ロボットが嫌いな男のコなんていませんよ!
押井 本当言うと僕も好きなんだよ(笑)。二足歩行ロボットが得物をぶら下げてガチャガチャ歩くなんて男ならみんな好きでしょ。
ドタバタとシリアスの振り幅が見どころ
■ドタバタとシリアスの振り幅が見どころ
――ちなみにグリフォン(マンガ版やアニメ版に登場した漆黒のライバル機)は今回の実写版シリーズでも出ますよね! ね?
押井 う~ん、そのようなものが全然、出ないわけではないけど……。まぁ実物大の98式を目の前で見ちゃった瞬間から、レイバーがアニメシリーズのようにカッコよく動きまわって、殴り合って格闘するなんて話、やっぱりできっこないよなって結論に達してるからね。僕だけじゃなく、誰もが実物大を見たらわかると思うけど、こんなデカいロボット同士がバンバン動いて戦うなんて、現実的じゃないって気づくはずだよ。
――つまり、実物大レイバー2機の製作費の数千万円、ひいてはシリーズ総製作費の22億円という巨額は、そのリアルを突きつけるためにブッ込んだんですね!
押井 アニメではデザイン上の嘘をいっぱいついていたけど、やっぱり実機を作ってみると「嘘つけないぞ、コレ!!」って思ったんだよ(笑)。あちこちディテールをリファインしてプロポーションもイジらないと、8mのプラモデルにしか見えないから。それに実機のレイバーがあると、このロボットを整備する人間はどれぐらい必要なのかとか、じゃあその整備班を支える食事は出前とコンビニで成立するのかとか。そのあたりの日常性も追求してるからね。“非日常が日常化している世界”だからこそ、その日常のベースをきちんと描かないと説得力やおもしろさは生まれない。メシを食うシーンを随所に入れてるけど、それは日常に絶対欠かせないものだから。
――レイバーを無用の長物と思っていても、やっぱ『パトレイバー』という作品への愛はパないっす!
押井 「二度とやるもんか!」と何度も思った作品だから、愛憎半ばかな。最初は生活に困ってしょうがなくやった作品だし、こんなに長く続くと思っていなかったから。けど、考えたらパトレイバーが一番食わせてもらった作品になると思うよ。僕が手掛けた作品でたぶんスポンサーを一番儲けさせた作品でもあるし(笑)。まあ、今回の実写シリーズは今までの日本のドラマの枠には入らない作品で、特撮モノなんかとも明らかに違う。そもそも子供向けに作ってないし、だからこそかなり生々しいし、大人が観ておもしろいと思うものが作れたと自負してますよ。
――第1章は特車二課の日常をコミカルに描かれていたのが意外でした! 押井監督作品といえば、かなり難解でシリアスな作風のイメージを持っていたので。
押井 そう思う方が多いだろうなと思ってはいました。だけどそもそも僕の監督デビューはドタバタのコメディだったし、僕自身そういうのを作るのは好きだからね。
いろんな意味でやっちまったな、って感じ(笑)
――では今回の実写版はすべてお気楽に観られる軽いテイストで?
押井 いや、そういうわけではないんだよ。イベント上映していく全7章は、人間模様で見せるコミカルなシーンあり、レイバーのアクションシーンありでエンターテインメント性を追求していて、気楽に楽しめる作風。ただ、来年公開予定の長編劇場版はそこまでの作風を裏切って、タイトで重たいテーマを扱う。こっちはかなりハードな作品に仕上げるつもり。
――ギャップがすごそうです!
押井 パトレイバーという作品のよさは、日常のドタバタを楽しく描くこともできるし、現実の日本でも起こり得るクーデターのようなシリアスなテーマも扱えるというところだから。振り幅の広さも、今回の実写シリーズの特徴だね。
――では最後に、あらためて手応えを教えてください!
押井 作業量とか製作費とかむちゃしすぎたなと思うし、いろんな意味でやっちまったな、って感じ(笑)。でも作品としてイケてるのは間違いないですよ。
(取材・文/昌谷大介、牛嶋健[A4studio] 撮影/高橋定敬)
●押井守(おしいまもる) 『THE NEXT GENERATION -パトレイバー-』では総監督・監督・脚本を担当。劇場版アニメ『うる星やつら オンリー・ユー』や、『GHOST INTHE SHELL/攻殻機動隊』『イノセンス』など国内外に刺激を与えた作品で監督を務めてきた鬼才
■『THE NEXTGENERATION-パトレイバー-』 ついに劇場上映された実写版パトレイバー。日本映画界の鬼才、押井守氏が総監督を務めるこの作品は12話全7章を順次劇場上映、2015年には長編劇場版を公開予定! ○シリーズ第1章…4月5日(土)より新宿ピカデリーほか全国順次上映中 ○長編版…2015年GW、新宿ピカデリーほか全国公開
(C)2014「THE NEXT GENERATION -PATLABOR-」製作委員会