海外でも広く読まれている大ヒット漫画『進撃の巨人』(作:諫山創、講談社)。特にアジア圏での人気は絶大だ。
巨人と人間との戦いを描いた息詰まるストーリー、キャラクターたちの繊細な心理描写。国境を越えて支持される理由は、純粋に漫画として「面白いから」にほかならない。
それに加え、多くのアジア諸国では、ストーリーから政治的なメッセージを読み取ったり、自分たちの社会を作中世界に投影することにより、さらに熱心なファンを生み出しているという。
※参考記事「『進撃の巨人』が香港で支持される“意外な”理由」 http://wpb.shueisha.co.jp/2014/05/27/30661/
たとえば韓国では、どう読まれているのか?
「『進撃』は韓国でも大人気。あまりのヒットで『進撃の○○』という流行語ができたほどです。○○の中に、いろいろな言葉を入れるんですよ。『進撃の○○家』と書かれた食堂のビラとか(笑)」
そう話すのは、韓国・漢陽大学校の演劇映画科で学ぶユンさん(21歳)だ。『進撃』の単行本は、韓国でも40万部以上を売り上げている。
「『壁』が象徴するのは、韓国社会そのものかも。上下関係が厳しすぎる儒教的な人間関係のプレッシャー、政界と財閥の癒着、経済格差の拡大、徴兵制……。韓国の若者の閉塞(へいそく)感はとても大きいんです。この社会から脱出して、『壁』の外の自由な世界で生きたいという気持ちが、『進撃』のキャラクターたちに通じるような気がします」
韓国の若者たちは、抑圧的な社会のイメージを『進撃』の世界に投影しているようだ。
『進撃』は、日本人の右傾化心理を反映している?
また、韓国の世論には、『進撃の巨人』の内容を、
・壁=日米安保、専守防衛政策 ・壁の外に出たがる主人公=再軍備を望む日本人
という図式に置き換え、日本人の右傾化心理の反映であると考える解釈が存在する。
ヒロインの名前「ミカサ」が旧帝国海軍の戦艦三笠(みかさ)を連想させることも、こうした見方を後押ししている。
また、作中の老将軍・ピクシス司令のモデルが、日露戦争で戦った旧帝国陸軍の秋山好古(よしふる)陸軍大将であると韓国『メディア・トゥデイ』が報じると、秋山大将は日清戦争にも従軍していることから、この騒ぎは中国にも飛び火した。
ちょっとうがちすぎではとも思えるが、実は中国のネット世論や、台湾の親中派メディア『中天ニュース』などでも同様の指摘がなされている。これは、東アジア圏ではなかなかポピュラーな見方なのだ。
安全を犠牲にしても「壁」の外に出て、自由を手にするために「巨人」と戦う――投影するものは違えど、アジア各地の若い世代は『進撃の巨人』の、このテーゼに自身の境遇を重ね合わせ、発奮の材料にしているのだ。
(取材/安田峰俊、取材協力/姜誠)