■この話は“塩漬け”になるんだろうなと思ってました
『ゴジラ』に『トランスフォーマー』の最新作など、今夏は“日本発”の作品が次々とハリウッド映画として公開される。なかでも異色の存在が、現在公開中の『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(以下、『オール・ユー…』)だ。
内容は、謎の敵「ギタイ」と人類の戦いを描いたSFアクション。ただし、主人公は死ぬたびに前日に戻って戦いを繰り返さなければならないという“特異体質”の持ち主。
トム・クルーズ演じる主人公は、映画が始まって数分で、ギタイの攻撃により惨殺! 生き返ったと思ったら、軍用車で轢(れき)殺! 特訓中、ヒロインにより射殺! と、作中で死ぬこと計158回。そのたびに知恵と技術を身につけ、戦いを脱出する術(すべ)を探っていく。
では、本作の何が“異色”なのか。それは、原作の小説がいわゆるライトノベル(以下、ラノベ)であることだ。
一冊のラノベがこれほどの大作映画に化けるなんて……誰もが驚く展開だが、最も驚いているのは原作者の桜坂洋氏に違いない。同氏は、映画化のオファーを受けた当時のことを、苦笑を交じえながらこう振り返る。
桜坂 あれは2009年、ちょうど原作の英語版が出版される直前でした。ゲラ(出版前の試し刷り)を読んだハリウッドのプロデューサーから、出版社に映画化の相談がきたそうです。僕はOKを出しましたが、内心、たぶんお金が集まらずに“塩漬け”になるんだろうな、くらいに思っていました。そういうパターンが多いことは、僕も知っていましたから。うちの妻なんて、映画が実際に完成するまで、まるで信じていませんでしたよ! だから、僕は家の中では、『企画がポシャる前に、喜んどかなきゃ!』と、わざとぬか喜びをしたりしていたんですけど(笑)。
――原作では、20代の初年兵という設定だった主人公。映画では、戦場に決して出ようとしない広報官として登場する。そんな臆病な男が、上司に逆らったためにいきなり戦地に飛ばされ……。
桜坂 この主人公の設定こそ、映画を世界的ヒット作にするべくハリウッドが出した“最適解”。あのトム・クルーズがすぐ死んじゃうっていうところが面白いですよね。映画を観るとわかるんですが、絶対にトムも楽しんで死んでますよ(笑)。だけど、そんなヘタレな男が、死ぬたびに強くなって『ミッション:インポッシブル』の主人公みたいなカッコいいヤツになる! そして最終的に勝つ! これは誰が観たって痛快ですよ。
――実は、桜坂氏は2012年にロンドンを訪れ、撮影を見学している。そのときは、広大なロケ地を数十人の兵士が走り回る白兵戦の撮影が行なわれていたという。その時の感想は?
桜坂 当時はまだ、本当に映画化されるのか半信半疑(笑)。でも、国立競技場より大きいセットの中で、戦闘用のジャケットを着た役者たちが座っている光景を見て……『すごい! 本物の戦場みたいだ! この映画はイケる!』と思っちゃいました。ただの休憩中だったんですけどね(笑)。
自ら戦闘スーツを身につけ撮影に参加…も?
■オタクのこだわりが詰まった戦闘用ジャケット
――映画の中で「エクソスーツ」と呼ばれている、近未来の戦闘用ジャケット。これはCGではなく、工場で製作され、最終的に重量34kgの武骨なスーツに仕上がったという。
桜坂 このスーツは、ものすごいこだわりの詰まった1/1フィギュアのようなもの。これを作るために、セットの隣に工場が作られていたんですよ。デザインを担当したスタッフともお話ししたんですが、日本のオタクと同じ人種でした(笑)。好きなフィギュア作りを極めたら、ハリウッドのトップに上り詰めちゃった、っていう感じ。
――そんなハリウッドのクリエイターたちに、原作の『オール・ユー…』の世界観はハマっていたとか?
桜坂 かつてのサイバーパンクと呼ばれたSFジャンルの作品には、人間の頭にコードをつないで電脳化する、というような描写がありました。だけど、それはちょっと未来を先取りしすぎた想像だと思う。僕の小説では、もうちょっと現代の技術力に近い、現実的なガジェットが登場します。その“半歩先”な感じが、向こうのスタッフにウケたんだと思います。
――ちなみに、撮影中に監督から呼び出された桜坂氏は、その場でスーツを身に着け、撮影に参加。しかも、その現場は監督自身がカメラを回していた!
桜坂 30回くらいテイクを重ねたんですけどね、完成した映画には使われていませんでした(笑)。たとえ原作者でも、『俺の作品の質を下げるような演技は使わねぇ』ってことでしょうか(笑)。
現在、桜坂氏は10年ぶりに『オール・ユー…』の続編を執筆中。その続編もすぐに映画化……も、あり得るかもしれない!?
映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』大ヒット公開中! http://youtu.be/zuYexT62V_M (取材・文/にし中賢治、撮影/高橋定敬)