「たくさんの人が笑うネタをやるか、スベってもいいから尖ったネタをやるか。僕は後者だった」と語る田中光氏 「たくさんの人が笑うネタをやるか、スベってもいいから尖ったネタをやるか。僕は後者だった」と語る田中光氏

ツイッターで話題沸騰の1コママンガ『サラリーマン山崎シゲル』が単行本になった。破天荒サラリーマン山崎シゲルが、温厚な部長相手に繰り広げるシュールな日常に思わずクセになる人が続出中! 女優の二階堂ふみにリツイートされたことがきっかけで人気に火がついた話題作だ。

いったい、どんなギャグマンガ家が描いているのかと思ったら、なんと著者はお笑い芸人。時にピン芸人・タナカダファミリアとして活動する田中光氏にお話を伺った。

―芸歴13年とお聞きしました。

田中 高校を卒業して美大に入ったんですが、1回生のときに保育園からの幼なじみに誘われて、大阪吉本のNSCに入りました。baseよしもとという劇場で活動していたのですが、まったく売れなくて。30歳になる頃、相方が芸人を辞めると言い出して一緒に辞めたんですけど、ほかの芸人とトリオを結成してお笑いを続けたんです。

―そのタイミングで東京に進出されたんですね。

田中 どうせなら白黒つけようと思いまして。大阪にいるとなんとなく“売れた感”があるんです。特に吉本だと劇場に固定客がいるので、そこまで売れてなくても、ファンがついて売れた気がするんです。

―ピンではどのようなネタを?

田中 13年の芸歴の中で、特に力を入れてきたのが大喜利です。大喜利には自信がありますし、何より好きだったので、それを生かしたフリップ芸をやっています。『サラリーマン山崎シゲル』も大喜利だと思って描いています。

―大喜利が得意な田中さんならではの発想ですね。

田中 美大を出てそのままマンガを描いていたら、『サラリーマン 山崎シゲル』はできてなかったと思います。毎回「こんな部下はいやだ」っていうお題で大喜利をしながら絵を描いています。

 二階堂ふみにリツイートされたネタ 二階堂ふみにリツイートされたネタ

小学生の頃はマンガ家になりたかった

―『サラリーマン山崎シゲル』を始めたきっかけは?

田中 東京に来てからアメブロを始めたんですが、どうやらツイッターというものがあるらしいと知って絵を描くようになりました。最初は、役に立たない発明品を作っては図解していました(笑)。

そんなときに、もう少しジャンルを絞ってマンガを描いたほうがいいと助言をいただきまして。アイデアはいろいろ出ましたが、サラリーマンに落ち着きました。警察官だと『こち亀』に寄っちゃいそうだったんで。

―それで『山崎(やまざき)シゲル』はサラリーマンになったんですね。

田中 一応、「ヤマサキ」なんです、この人。僕自身も平気で「ヤマザキ」って言ってますけど(笑)。なんか変なこだわりを持ってそうかなと思いまして。下の名前は、どこにでもいそうなので「シゲル」にしました。これは「くるり」の岸田繁さんから取りました(笑)。

―もともとマンガを描きたいと思っていたんですか?

田中 小学生の頃はマンガ家になりたかったですね。和田ラヂヲさんとか、漫☆画太郎さんとか、昔のギャグマンガが大好きなんです。自分の世代ではないんですが、父親がマンガ好きで古いマンガが実家にたくさんあったんですよ。

―確かに田中さんの絵はどこか昔のギャグマンガっぽいですよね。

田中 そういうタッチが好きなんだと思います。ただ僕は美大出身なので、人や机などの細かいデッサンは意外としっかり描こうと意識しています。脚は意図的に「リアルに短い脚」にしています。

スベってもいいから人がやらない尖ったネタを

―今まで培ったものを凝縮したのがこのマンガだったんですね。

田中 芸歴10年目を過ぎたあたりから、自分にできないことをするのはやめようと思いました。それで勝負しても勝てない。今できることを伸ばしたほうが勝負できるんじゃないかと思ったんです。トリオのときにも、それでケンカをしました。

―どんなことで?

田中 たくさんの人が笑ってくれるネタをやるのか、スベってもいいから人がやらない尖(とが)ったネタをやるのか。僕は後者でした。自分たちがここにいることを見せつけてやろう、とにかくめちゃくちゃしよう、と自分は考えていました。交番の前でずっと漫才したらニュースになるんちゃう?とか本気で思っていました(笑)。

このまま正当にお笑いで勝負しても勝てないなと悟ってしまったんです。そこまで自分たちは面白くないなと。それだったら違うことをしようと思い、ピンになって自分の好きなものを描き始めたんです。

―尖りすぎてウケなかったこともあるんですか?

田中 最初はありましたね(笑)。もちろん自分的には好きじゃないなと思っていても、すごくウケたり、めっちゃ面白いと思っていてもあまりリツイートされなかったりするものもあります。

―面白さがリツイートでわかってしまうんですね。

田中 ある意味で芸人殺しですよね(笑)。お気に入りやリツイートの数で反響がわかるんですよ。

シュールのさじ加減

―どういうネタがウケるんですか?

田中 ちょっとだけ「うまい」要素があるとウケますね。ルンバのネタやお弁当のネタは、すごくウケました。地元の名産品がコレか!?っていうネタが僕は好きなんですけど、これは好き嫌いが分かれますね。

―シュールのさじ加減ですね。

田中 最近は、それもわかってきたのでお笑いの幅が広がりました。漫才やコントでは表現できなかったことを伝えられる絵という表現方法を見つけたので、やりたいことをやって笑いも取れています。

今後は、マンガを描きつつ、お笑いもやっていきたいです。フリップを80枚くらい使う、ほぼアニメーションみたいなネタもあるんです。「絵」を軸に、自分にしかできないおもろいものを作っていけたらと思っています。

 ルンバのネタ ルンバのネタ

 お弁当のネタ お弁当のネタ

 地元の名産品ネタ 地元の名産品ネタ

●田中光(たなか・ひかる) 1982年生まれ。京都府出身。京都精華大学芸術学部版画学科を中退しお笑いの世界へ。幼なじみとゼミナールキッチンというコンビを結成し、大阪吉本で10年活動。活動の場を東京に移し、アボカドランドリというトリオを結成、現在はピン芸人・タナカダファミリアとして活動中。ツイッターのフォロワーは17万人超。集英社『グランドジャンプ』にて『サラリーマン山崎シゲル』が連載中

■『サラリーマン山崎シゲル』 ポニーキャニオン 1200円+税 “破天荒すぎる”サラリーマン山崎シゲルと“器の大きすぎる”部長のやりとりを描いた日常系シュール1コママンガ。サラリーマン経験のない著者が「こんな部下はいやだ」という大喜利的発想で作り上げた独自の世界観に、読んだら必ず人に薦めたくなること必至。ジワジワきます