2000年のグラビアデビュー以来、ずっと一緒にその歩みを追い続けてきた彼女が裸体を晒(さら)し、衝撃的な役を演じる主演映画『海を感じる時』が13日に公開。
原作は1978年に当時18歳の高校生、中沢けいが群像新人賞を受賞し発表されるやセンセーショナルな社会的事件となり、スキャンダラスな話題を呼んだベストセラー。日本を代表する脚本家のひとり、荒井晴彦が30年近く映画化を待望し続けるも実現をみなかった幻の作品だ。
高校生の恵美子は新聞部の先輩である洋に惹かれていたが、「キミが好きなわけじゃない、ただキスがしてみたいだけ」と思わせぶりな彼に翻弄(ほんろう)され、自ら体を委ね追い求めていく。大学生となり東京へ生活を移してからも刹那(せつな)的な関係は続き......。
すでに公開前から反響を呼んでいたが、その前評判以上に挑戦的すぎる作品、そして演技。なぜ今、この作品に出ることを決意し、ここまでまさに"体当たりの演技"ができたのか......。彼女を独占直撃した!
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―「週刊プレイボーイ」といえば、ずっと由衣ちゃんの成長を一緒に歩んできたぞ!くらいな自負があるもので(笑)。この主演映画の話はぜひ聞かねばと。
市川 そうですね。たぶん一番最初のグラビアが週プレさんですね。14歳だったと思います。
―14歳......感慨深いです。その当時から振り返って、今だからこういう作品ができたなという実感も?
市川 それはありますね。この映画は高校生の話ですけど、自分がその歳だったらできなかったと思うし。いろんなお仕事をして、プライベートでも経験を重ねてきた今だからこそやろうと思えた役というか。この恵美子も好きになれたし。
―プライベートでもっていうところが深い感じ(笑)。
市川 深くないです(笑)。あっさりです(笑)。
裸にならないと成立しないし意味がない
―でもほんと、公開前からすでに注目され話題になっていたわけですが。正直、作品を観て予想以上の衝撃というか、のっけから激しいなっていう......。
市川 そうですね。びっくりするって言われます(笑)。
―そう、びっくりした(笑)。冒頭からすぐふたりが裸で、洋役の池松(壮亮)君とのからみがはじまって。
市川 あの一番最初のラブシーンの撮影って、池松さんと会った初日だったんですよ。ほんとに初めましてって言ったすぐあとに裸になったみたいな感じで。でも、恵美子と洋の心の通ってない感じがなんかすごい出てて、良かったんじゃないかってふたりでも話してましたね。
―まさか初日とは......。確かにそこでぎこちなさ、距離感もうまく醸(かも)し出されて。
市川 でも、現場ではモニターとかチェックも一切なくて。自分で初めて試写で見た時は生々しいなってすごい思いました。
―そう、まさにその言葉が浮かんできて。生々しい!って。
市川 ふたりのそういう場を覗(のぞ)き見してるみたいで...なんか日本の今の映画にないラブシーンだなって思いましたね。
―初対面で緊張もあるだろうし、でも恥ずかしいとかではなく入り込めた?
市川 もう恥ずかしいとかはなかったですね。その空間に飛び込むっていうか。なんか、本当に裸にならないと成立しないし、この役をやる意味もないと思って。隠してどうこうって問題ではなかったので、それは出演を決める時に覚悟を決めました。
―脚本もそうだし、そもそも原作がそういう描写や内容を晒して共感を呼んだわけですしね。
市川 『海を感じる時』っていう、海に女の人の子宮を感じるみたいなことが書かれてあったりして。18歳が書いたとは思えない内容でしたね。
―当時の70年代、高校生がこんなことを!?って衝撃を与えて。その空気感を30年以上、温めたまま脚本もほとんど手直ししなかったとか。
市川 だから、そうやって30年間、映画化が実現しなかったところも、それが巡り巡って自分の元へ今このタイミングで話をもらえたというのもすごく縁を感じました。
彼女が生まれるのを作品が待っていた
―完成披露試写では、原作者の中沢さんが「池松さんと市川さんが生まれてくるのを待っていてくれてありがとう」とおっしゃって。最高の褒(ほ)め言葉だなと。
市川 すごい嬉しかったです。やっぱり中沢さんの感想が一番怖かったし。まぁ荒井さんも怖いんですけど(笑)。でも男性じゃないですか。やっぱり、私は女性が観てどう思うかっていうのがすごい気になってたし。ましてや原作の中沢さんですから。初めてお会いして、そう言っていただいた時に一番嬉しかったです。
―でもそれだけ作品の重みと人の思いが強い分、大変さも増したはずで。設定を現代に置き換えず、70年代の昭和の空気であるとか雰囲気を醸(かも)し出すのにもだいぶ気遣いが必要だったのでは?
市川 でもそこを無理なくやれてたような感じはすごくしていて。何よりも本の中で言葉なんかがすごく丁寧だったり、その時代をすごく感じたんですよ。そこに助けられたのが大きくて。
―原作や脚本の台詞、描写の中に昭和の空気が閉じ込められていて。それが自然と演技に伝わった?
市川 そうですね。なんとかだわ、とかいう台詞だったり。服装もそうですし。
―そうそう、細かいところでいえば下着とか。白いシミーズなんて懐かしいというか、由衣ちゃんが着てるなんて新鮮というか(笑)。
市川 幼稚園の頃は着せられてましたよ。白いシミーズ、コットンの(笑)。
―おおっ、今これを読んでる人は思わず想像しちゃってます(笑)。
市川 当たり前のように着てましたよ。だから懐かしいなと思って。
―そういうところから自然とその時代に入れたのもあったんだね。
市川 あと、意外に私も池松さんも昭和顔だねって言われたりして。だから、なんか違和感なかったですね。
ズルいダメンズ...だけど惹かれる理由が
―確かに、時代の流行り関係なく普遍的な顔というのはあるかも。では、この時代の高校生を演じてみて、精神的なも部分も自然と受け入れられた?
市川 それは、なんか今って高校生だからキラキラしようとかよくあるじゃないですか。日本の映画でもすごい爽やかでキラキラしててみたいなのが多いと思うんですけど。ここに出てくるふたりって、大人じゃないんだけど自立していて、自分の考えがあって。でも、そこにキラキラ感はないですよね。
―このふたりだからというのもあるでしょうが。ただ今の時代でも、こういう男に惹かれたり振り回されたり、今どきの世代が見ても共感する気はします。
市川 普遍的なものですよね。でも、なんかこのふたりは正直でいいなと思って。恵美子の立場からしたら、その時はすごく苦しいんですけど。自分の気持ちに正直なところがいいと思えたし。洋も正直すぎて、男のそういう正直はズルいなとも思いますけど(笑)。
―オレはこうだからって突き放して、後はオマエ次第みたいな(笑)。
市川 すごいズルいなって思うんですけど。逆にそれができてしまう時代だったのか、そのまま心も体もぶつかりあうみたいな。そこは今の時代、なかなかできないかなと。ある意味、羨(うらや)ましいですよね。
―逆に、今の方が気持ちを押し殺したり探り合ったり?
市川 いろんな駆け引きを(笑)。そうじゃなくてぶつかり合うのはいさぎいいなって思いましたね。
―まぁ当時もあんなふたりがそんなにいたのかどうか。洋に「体の関係だけ」って言われても恵美子は惹かれるわけだけど、実際、ああいう男って最悪では?
市川 台本読んだ時は最悪だなって思いましたね、やっぱり(笑)。自分勝手で。だから演じるにあたって、その洋に依存してしまう理由を私の中で見つけたくて。でもそれはなんかあっさり池松さんと芝居してて、演じる洋が魅力的で。そこに理由を見つけられたんですよ。
―理屈じゃないというか。惹かれちゃったんだからみたいな。
市川 洋がすごく素敵だったんで。なんか、それもずるいなって思いましたね(笑)。ああいう男性がもてるなって。
―アーティスティックな雰囲気とか人間失格的なだるさもあって。
市川 ダメンズだと思うんですけど(笑)。でも惹かれる女性はいるわけで。放っておけないとか、自分だけがわかってあげられるみたいな。そういう母性みたいなのは結構女性なら誰でも持ってるんじゃないかな。
主題歌を聞いて戦いながら泣いていた
―でもそれで結局、恵美子もずっと寂しさを抱えて傷つき続けて。洋の言葉のひとひとひとつで繰り返し、決して名前で呼ばれず"あんた"扱いとか、会うとすぐに「もう帰れば。帰ったほうがいいんじゃない?」とか。
市川 そうですね。傷ついて積み重ねというか。だから私も毎日泣いてましたね、撮影中。
―自分自身も心の中で重ね合わせて泣いてた...!
市川 うん、ああいう感覚は結構初めてかもしれないですね。
―そうやって自分のことのように痛みを毎日感じて。ラストの彼女の台詞まで腑(ふ)に落ちた?
市川 そうです。正解はわからないですけど、自分の中では。だから、最初に試写で見た時はもうエンドロールというか、最後の海のシーンでも泣いちゃって。初めて自分が出た作品で泣いたんですけど。もう自分でもなんの涙だったかわからなくて。
―やりとげた開放感だったり?
市川 ホッとしたんだろうなってのはあって。でも、この映画に出てほんとに良かったなと思えました。
―この作品に巡りあえて、ここまで挑戦したことが間違いじゃなかったと。
市川 だから、たとえ全然話題にならなかったとしても後悔は一切なしみたいな感じでしたし。この作品に対してそう思えたからこそ、嬉しさとかホッとした涙だったんですよね、きっと。
―じゃあ完成披露試写からあれだけの人が観に来て、その壇上に立てて披露できる、それもまた喜びの涙だった?
市川 そうですね。それでエンディングに流れる『泣くかもしれない』を聞いちゃったので。また泣いてしまいましたね。、あの歌がすごく好きで、撮影前から主題歌になるって聞いてたので、撮影中迷ったりとか集中したい時にも携帯で聞いたりして。それを聞きながら戦ってたなっていう自分を思い出して(笑)。泣いてしまいました。
―ほんと、この曲もすごく素晴らしいなと。この作品のために作られた曲ではなく、昔の曲なんだよね。まるでこのために、恵美子の心を表現するために生まれた曲かってくらい......。
市川 ほんと恵美子の気持ちじゃないかってくらい、歌詞も入ってきますよね。ずっと映画の中では音楽がないじゃないですか。それで最後にあれが流れるっていうのがすごく心を捕らえられて。泣いちゃいましたね。ほんと恥ずかしかったです。
"前貼り先生"と冗談で息抜きしつつ?
―なんか、この作品では泣きっぱなしだね(笑)。
市川 ほんとに(笑)。だから、観た人でいろんな感想もあると思うし賛否両論あるとは思うんですけど。私自身はほんとに出会えて良かったなって思えるし、何よりこの作品が好きですね。
―なんか、しんみりしみじみ......なまま終わってもいいんですが、最後にこれはチェックしとかないとと。完成披露でカミングアウトしていて面白かったのが、そんなシビアな撮影中、池松君のことを"前貼(まえば)り先生"って呼んでたとか!?
市川 あはは(笑)......呼んでましたね。もうその初日から。一番最初のラブシーンの時に前貼りしなきゃいけなくて、私は初めてだったんですけど、池松さんは最近そういう作品が続いてたみたいで。貼って出てくるのがすごい早いから(笑)。メイクさんと「先生みたいだね」って言って。
―それがすっかり定着しちゃったと(笑)。池松君や周りもOKで?
市川 なんかそういうので結構楽しく冗談言いながらやってたんで。そんなに芝居の話はしなかったですね。
―それこそ撮影以外であの世界にどっぷり浸かってたらしんどかっただろうし。オンとオフみたいに抜くところはないとね。
市川 そうですね。個人的にすごい孤独を抱えているふたりだったんで、なんか話し合ってどうこうでもなかったですし。それでぶつかりあう感じが私はすごく楽しかった。
―ぶつかりあうといえば、母親役の中村久美さんとも。あの会話もまさに昭和というか、厳格でありながら根っこが女みたいな母親が「みだら」とか「乳繰り合う」とか言って。
市川 インパクトありましたよね。あの喧嘩のシーンも私、すごい好きなんです!
―そういうひとつひとつのシーンや台詞、細部までもが印象深く、記憶に残る作品。由衣ちゃん自身が一番好きになったという『海を感じる時』、見逃せないです!
■市川由衣 YUI ICHIKAWA 1986年2月10日生まれ。東京都出身。 2000年にグラビア&女優デビュー。ドラマやCM、舞台、ラジオ、PVと各方面で人気となり活躍中。 映画『TOKYO TRIBE』(公開中)にも出演
■『海を感じる時』(テアトル新宿にて絶賛公開中)
(取材・文/週プレNEWS編集部 撮影/首藤幹夫)