現状、その横行を止める決定打が存在しない「チケットの不正転売」。今年、山下達郎が採用した対策を例にしながら、今後ありうべき手立てについて考えてみた。

ネットオークションにおいて、後を絶たない問題として指摘されるコンサートチケットの不正転売。この1、2年、ももいろクローバーZやB’zをはじめ、事態を重く見たアーティストが相次いで本格的な対策に着手し、動向に注目が集まっている。

そして今年の全国ツアーから大がかりな対策に乗り出したのが山下達郎だ。今年のツアーに観客として参加した、ファン歴約20年のメディア関係者A氏が語る。

「達郎さんには“テレビには出ない、本は書かない、アリーナではライブをしない”という三原則があります。音響や客席との一体感を重視する彼がライブを行なうのは2000人規模のホールに限定され、おのずとチケットは争奪戦になる。そこにつけ込んだ業者がチケットを買い占め、高値で転売するという状況が常態化していました」

そんな転売業者への憤りを露(あらわ)にし、本当に観たい人が観られる環境を整えるべきだと語ってきた山下氏。どんな対策を講じたのか? 前出のA氏が語る。

「チケットには購入者の氏名が印字され、入場時に照合が可能な免許証やパスポート、住民票など公的な身分証の提示が求められました。チケットのみでは入場できないので転売はなくなるように思えたんですが……」

ところがー。A氏が見たライブでの山下氏本人のMCを再現してくれた。

「今回の対策で転売は抑止できると考えていましたが、悪知恵を働かせるヤツはいるもんですねぇ。転売業者はチケットと住民票をセットで高額出品したり、1万円くらい上乗せして身分証を貸与したりしてるらしい。こっちが頭をひねって考えても、必ず抜け道はあるもんです。いたちごっこですよ」

サザン全国ツアーの“強硬策”

そして、力強い口調でこう続けたという。

「皆さん、絶対に転売業者からチケットを買わないでください。来年のツアーではまた別の対策を考えなければなぁと」

そんな徹底抗戦の構えに、音楽関係者のB氏は理解を示す。

「2000人キャパのホール会場で、達郎さんのような転売対策をとった場合、十数万から数十万円の人件費がかかります。ここ数年でCDの売り上げが暴落し、主な収入源をライブ興行に移行しつつある音楽業界にあって、1本の公演にそれだけの人件費を割くのは正直、痛手です。それを達郎さんクラスの影響力を持った人が行なうのはとても意味がある。しかし……」

B氏はこう続ける。

「写真認証もないような転売対策では不十分だと思います」

そして、一定の抑止効果が見られた例として、サザンオールスターズが昨年8月から9月にかけて開催した全国ツアーで講じた転売対策を挙げる。

「当日は写真付き身分証による本人確認が行なわれたのですが、事前に(同行者を含めた)チケット購入者の情報を登録することが求められ、登録者以外の入場は認めないという、ある意味“強硬策”でした」

しかし、本人確認に時間を要するため、炎天下で入場を待つ間に熱中症にかかってしまう観客も見受けられ、反発の声も上がったという。

果たして、転売対策に“決定打”などあるのだろうか?

「現状、難しいと言わざるを得ず、悩ましいのですが、サザンのような“強硬策”の精度を上げながら、アーティスト本人が『転売チケットは買うな』という発信を続けることで、ファンの意識改革を促していくほかないように思います」(前出・B氏)

■週刊プレイボーイ44号(10月20発売)「8P特集! 秋のバトル祭り」より(本誌では、安倍首相vs北朝鮮、居酒屋チェーンvsファミレス、日産、三菱vs欧州勢vs米テスラなど、熱きバトルをクローズアップ!)