1936年生まれ。52年、五代目 古今亭今輔に入門。古今亭今児を名乗る。61年、四代目桂米丸門下に移籍。桂歌丸に改名。66年、『笑点』初代大喜利メンバーに。68年、真打ち昇進。2004年、落語芸術協会会長就任。2006年『笑点』五代目司会者に。『笑点』は日テレ系、毎週日曜17時30分~放送。

子供の頃から、当たり前のようにお茶の間のテレビに映っていた『笑点』(日テレ系、毎週日曜17時30分~)。その歴史は48年にも及ぶが、今年10月5日の放送では23.3%もの高視聴率(関東地区ビデオリサーチ調べ)を記録した“現役”の人気番組である。

それだけ支持を集める理由はどこにあるのか。初代「大喜利」メンバーとして出演し続け、現在は司会を務める桂歌丸師匠に聞いた。

「家族全員で安心して見ていられるからですよ。少しぐらい色っぽいことも言いますけど、悲惨な事件や事故には触れない。決めたわけじゃないです。噺家(はなしか)っていうのは、そういうことをみんな心得てるわけです。マヌケな事件のことは言いますよ。ワーワー泣いて釈明したバカみてえなヤツは、とか(笑)」

歌丸師匠は1回目の放送から今まで、一時降板や病気療養などを除いてレギュラーを続けている唯一のお方だ。

「29歳の頃から『笑点』の座布団に座っていますが、『笑点』には『金曜夜席』という前身番組がありまして、約1年間放送されたんです。アタシはそんときから出てますんで、もうずーっと座ってますよ(笑)」

テレビで演芸ブームが起きた1960年代前半、各局で多くの演芸番組が放送されたが、『金曜夜席』は立川談志が企画を持ち込む形で始まった。番組の主な構成は演芸、インタビュー、大喜利の3パート。実際に寄席で楽しんでいる気分を味わえるように、番組セットはかつて人形町にあった寄席・末廣をイメージして作られた。

これらの基本要素は、時間帯を日曜日の夕方に移し、タイトルを『笑点』に変えてもそのまま受け継がれ、今に至っている(現在は放送時間が30分になったため、コーナーは演芸と大喜利の2パート)。

彼らの偉大な発明は、なんといっても「大喜利」コーナーだろう。『笑点』は、司会者がお題を出し、優劣がビジュアル的にわかるように座布団の高さで競い合うというテレビ的要素を盛り込んだ。

そして、回答の面白さに加えて楽しいのが、大喜利コーナーで繰り広げられる丁々発止。

「こっちが言葉を投げて、それを返す。それだけのことです。長いことやってると誰が何言うか、だいたいわかりますから」

そう、歌丸師匠は軽く言うが、プロデューサーの中村博行氏はこう語る。

「師匠は簡単におっしゃってますけど、それは皆さんのお笑いの反射神経がものすごく高いからできること。落語家の皆さんって、カメラが回ってないときでもずっと落語家なんですよ。ONとOFFがなく、普段から面白い方たちで、いつも驚かされています」

無理に変えると失敗しますから

そんなスタッフと出演者によるチームワークも『笑点』の魅力だ。

「皆さん本当に仲が良くて、1時間くらい前から楽屋にいる(笑)。そんな現場は『笑点』だけです」(中村氏)

その愛はこんなところにも表れている。今月19日の放送から番組に復帰する林家木久扇が、喉頭がんのため7月から休養していた際、毎回、木久扇の場所には重ねた座布団だけが置かれていた。歌丸師匠は、こう振り返る。

「代役を立てることなく、あそこに誰も座らせなかった。番組自体が親切ですよ。ああいうふうにすると、見てる人も『早く木久ちゃんよくなんないかな』って思いますよね。でも、ただ座布団積んどいたって面白くないから、アタシは木久ちゃんがいなくても、そっから座布団を取ったりもしましたけどね」

木久扇の休演中、新聞の『笑点』のテレビ欄には「木久扇師匠待ってます!」といったメッセージが書かれていた。中村氏はこの「木久扇師匠への皆からのお手紙」を“『笑点』イズム”だと言うが、歌丸師匠も、

「『笑点』がここまで続けてこられたのは『和』です。われわれもスタッフも、みんな仲がいいんです」

そして「これまで終わると思ったことが一度もない」と語る歌丸師匠だが、その未来像を聞いてみると…。

「一番の望みは、再来年の丸50周年記念を今のメンバー全員で迎えたいってことです。それには健康以外、何もない。よく言うんですよ、たぶん50周年が折り返し地点じゃないかって(笑)」

冒険、信頼、和、安心……学ぶことだらけの『笑点』。最後に歌丸師匠が長く愛される秘訣を教えてくれた。

「支えてくれる人の意見をよーく聞いて、それを察していいほうへ、いいほうへと舵(かじ)を取っていけばいいんです。でも、無理に変えることはないですよ。無理に変えると失敗しますから」

いつの時代も日曜の夕方、テレビを付ければそこに映る『笑点』。これからも変わらず、メンバーの姿がそこにあってほしいものだ。

(取材/モリタタダシ[Homesize])