テレビ東京の深夜番組『ゴッドタン』の人気コーナー「キス我慢選手権」の映画化第2弾『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE2 サイキック・ラブ』が、10月17日に封切られた。今回も主演の劇団ひとりによるアドリブ劇が見ものだが、それを裏で支える放送作家がいる。番組初期からブレーンとして携わっているオークラ氏だ。映画の舞台裏から『ゴッドタン』の制作秘話まで、たっぷり語ってもらった!
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■劇団ひとりのアドリブを予測してシナリオを作成
―昨年6月28日公開の前作では『ゴッドタン』の佐久間宣行プロデューサーと共同で脚本を担当。そして、今作では構成を務めています。早々に第2弾が決まりましたが、プレッシャーはありました?
オークラ いえ、特には(笑)。変に肩に力を入れて作ると、空回りして失敗するというのが“映画あるある”としてあるじゃないですか。そもそも映画化とはいっても、テレビで作ってきた「キス我慢」の延長のようなもの。いい映画にしようというより、ファンが喜んでくれればいいなという気持ちのほうが強かったですね。ただ、佐久間さんをはじめとしたスタッフたちが、急に映画人っぽい振る舞いになっていたのが気になりましたけど(笑)。
―副題の「サイキック・ラブ」にもあるとおり、今回は超能力がテーマのひとつ。テレビ版の頃から「劇団ひとりは全編アドリブ芝居をする」というルールがありますよね。ってことは、超能力という設定もひとりさんには…。
オークラ もちろん、まったく伝わっていません。ただ、ほかの出演者はストーリーを知っていますし、ちゃんとセリフも用意しています。その中で「超能力」という言葉が出てくるので、劇団ひとりはそれを聞いたときに初めて「そういう設定なのか」ってわかったと思います(笑)。
―今回はなぜ超能力を!?
オークラ テレビ版の「キス我慢」のときからそうなんですが、会議の中で最近見た映画の話がよく出てきたりするんですよ。例えば、佐久間さんがある映画からアイデアを得て、「こういう設定、面白くない?」って言うと、僕らもイイ感じでミーハーだから、すぐにその映画を見て感化されたり(笑)。今回、超能力を採用したのもそうした流れだったんじゃないかな。確か、映画『クロニクル』を見た後だったような…。
―そうだったんですね(笑)。先ほど、ほかの出演者には決まったセリフがあると言っていましたが、ひとりさんのアドリブひとつでまったく違う展開になりそうですが。
オークラ だからシナリオの段階で、ある程度、劇団ひとりの発言や動きを予測して構成しているんです。
―まるでプロファイリングをしているみたいです。
オークラ 劇団ひとりは古き良き80年代の映画が好きなんですよね。甘酸っぱい青春時代の若者が言いそうな言葉や、正統派ヒーローのセリフ、『男はつらいよ』の寅さんのような哀愁漂う男の立ち居振る舞いなどが頭の中にたくさんインプットされていて、そうした雰囲気のフレーズがアドリブでポンポン出てくる。「このシーンなら、きっとこう言うはずだ」と考えて、ストーリーを展開していくんですが、やっぱり外れることも多くて…。
―撮影中が一番ハラハラしそうです(笑)。それにしても、あのクライマックスは予想外でした。
オークラ 劇団ひとりは「キス我慢」において、常に“最終的に自分が一番美しいと思うキスをする”ということを考えていますからね。僕らも予想外でしたよ(笑)。ただ、実はこれはもともとの「キス我慢」のコンセプトからはズレているんです。
女性がキスしようと迫ってきて、それを芸人たちが恥ずかしがる様を面白がるというものだったんですが、テレビ版の収録中に劇団ひとりが変えてしまった。けど、それが最高に面白くて。僕らも悪ノリして「キス我慢」のシナリオをドラマチックにしていったら、次第に規模が大きくなっていき、いつの間にか映画にまでなっていたという感じなんです(笑)。
『ゴッドタン』の名物企画は雑談から生まれる?
■『ゴッドタン』は女性を神秘化する傾向にある
―『ゴッドタン』は2005年にスタートして、「キス我慢選手権」をはじめ、名物コーナーが次から次へと誕生しています。どのようにして企画を決めているんですか?
オークラ 週に2回くらい会議があって、そこで企画を固めていくんですが、その大半が雑談。みんなでワイワイ話していきながら、「こんなことをやったら面白いんじゃないか」って決めていくことが多いかな。もちろん、叩き台になる企画書もあるんですが、話しているうちにまったく違う内容になっていることも(笑)。
―雑談の中から実際どんな企画が?
オークラ 例えば、「キモンスターズ・チャンプ」。バナナマン・日村(勇紀)さんたちがひたすら気持ち悪いビジュアルになってアイドルを追いかけるというものなんですが、「気持ち悪いヤツに追いかけられたら足が速くなるんじゃない?」っていう話から生まれました。
―実際、速くなっていました(笑)。オークラさんにとって一番手応えがあった企画は?
オークラ 芸人が本気で歌を作って披露する「マジ歌選手権」ですね。この企画は雑談からではなかったんですが、僕が携わっているラジオ番組に泉谷しげるさんがゲストにいらしたことがあって、収録中に生で歌ってくれたんですよ。泉谷さんは昔からファンだったんですけど、歌を聴いているときに入っちゃったんです、変なスイッチが。
―スイッチ!?
オークラ 泉谷さんが歌っている最中にギターの弦が切れて、顔に当たったんですよ。それを見た瞬間、笑いそうになってしまって……(笑)。そのとき、これは『ゴッドタン』の企画になるんじゃないかって思ったんです。劇団ひとりや日村さん、東京03の角ちゃん(角田晃広[かくたあきひろ])がギターを弾けるのも知っていましたし、芸人がマジで歌を作ったら面白いだろうなって。
―「キス我慢選手権」が映画化されたように、「マジ歌選手権」は渋谷公会堂でライブを開くほど人気を博しました。
オークラ 僕は『キス我慢』は劇場を使った参加型イベントだと思っていますし、「マジ歌」も同様。視聴者も楽しめる場を提供できるのが、『ゴッドタン』の良さなんですよね。
主演の劇団ひとりと、ヒロイン役を務めたセクシー女優の上原亜衣(上)。おぎやはぎとバナナマンが別室で劇団ひとりのアドリブ劇を見る、モニタリングシステムは映画でも採用。彼らのツッコミがストーリーを盛り上げる!(下)
『ゴッドタン』は童貞男子の妄想が全開?
―話は少し変わりますが、『ゴッドタン』に出演するゲストは素人の女のコだったり、言動がぶっ飛んでいるアイドルだったり、クセの強い人が多くないですか?
オークラ それがこだわりといってもいいかもしれません。ほかの番組には出られないようなポンコツな人を、あえてブッキングしたりしていますから。どんなにダメな人でも見方を変えれば笑いになるんです。すぐに怒る人なら、何をしたら怒るのか番組でイジっていくと面白い企画になったりする。要は視点の問題だと思うんですよね。
―確かに意外な人気者が生まれていますよね。「マジギライ1/5」にレギュラー出演している、足立区のキャバ嬢あいなとか。ちなみに、彼女はキャバクラでスカウトしたんですか?
オークラ いや、オーディションに来てくれたんです。僕も含めてスタッフは女遊びを一切しないのでキャバクラなんて行きません! 『ゴッドタン』は童貞男子が集まって妄想しながら作っているような番組ですから(笑)。
―番組初期の企画「アイドルにおっぱいを見せてもらおう」なんて、まさに童貞の妄想全開ですよね。
オークラ テレビ番組って、結構、作り手の特色が出るんです。同じ企画でも、モテ男や武闘派のスタッフが作ると、番組の雰囲気がだいぶ変わってくる。『ゴッドタン』は童貞色が強いから、やたら女性に神秘的なものを求める傾向にあります(笑)。
―制作者の考え方や趣味によって、番組のテイストも変わってくるものなんですね。
オークラ そういう意味では、テレビ業界も変革期に入っていると思います。僕らよりも上の世代の作り手は、どちらかというとイジメっ子タイプで、クラスの人気者ばかり。一方で、僕らの世代はオタク的な思考の持ち主が多くて。「クラスで目立っていなかったけど、そんなオレらでもテレビ番組を作っていいんだ」っていう作り手がテレビ業界にどっと流れ込んできている。良くも悪くもひねくれているところがあって、それが番組作りにも反映されているんですよね。あ、この話をしていて思ったんですけど、ちょっといやだなぁ……。
―何がですか?
オークラ 週プレって、だいたいテレビ番組の会議の席に置いてあるんですよ。先輩たちにこのインタビュー記事を見られたら、「なに調子こいているんだ」って絶対に言われると思うんですよね。いやだなぁ……。
(取材・文/高篠友一 撮影/本田雄士)
●オークラ 1973年生まれ、群馬県出身。元お笑い芸人で、かつて「細雪(ささめゆき)」というコンビを組んでいた。バナナマンと仲が良く、「3人目のバナナマン」といわれることも。『お願い!ランキング』『とんねるずのみなさんのおかげでした』などにも携わっている