出渕裕総監督が『宇宙戦艦ヤマト2199』のこわだりや制作秘話を明かす!

1974年、不朽の名作となる『宇宙戦艦ヤマト』が誕生。太平洋戦争中の戦艦大和を宇宙船としてよみがえらせる大胆な発想、重厚な人間ドラマは衝撃を呼び、70年代の日本で大旋風を巻き起こした。

そのテレビシリーズ第1作をベースに、2012年より新たな制作陣で始動した『宇宙戦艦ヤマト2199』の待望の新作となる劇場版『星巡る方舟』12月6日より公開中(松竹系ほか、全国ロードショー公開中)。

目的地イスカンダルで〈コスモリバースシステム〉を入手したヤマトが、その帰路で新たな敵と遭遇、さらに異空間に迷い込むというストーリー。総監督を務める出渕裕(いづぶち・ゆたか)氏に聞いた。

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旧作の『宇宙戦艦ヤマト』テレビシリーズに出会ったのは高校1年、16歳のときでした。

小学校の頃から、第2次大戦中のドイツ軍の軍装や兵器、SFや日本の特撮映画が好きだったので、それらの要素が詰め込まれていたヤマトには衝撃を覚えました。特に、従来の宇宙船=ロケット型の固定概念を〈艦艇〉にスイッチさせた点、“波動砲”や“ショックカノン”といったネーミングにはシビれましたね。

高校時代、ヤマトの同人誌にも携わり、現在はこうして『宇宙戦艦ヤマト2199』の制作に参加しているわけですが、僕も含め、制作スタッフがこだわっているのはディテーリング。

旧作では、地球側の乗組員たちに階級が細かく設定されておらず肩章もなかったのですが、『2199』では作画上の“事故多発”を承知の上で徹底しました。

事故というのは、一例を挙げると、原画担当者が肩章に施される階級線を1本書き忘れて、「今の1コマ、1本足りなくないか? 階級が違っちゃうよ」みたいな。チェック箇所が激増して負担になるんですが。

戦争賛美ではないアンサーを出すべき

ほかにもまだあります。艦底の喫水線(水面に接する分界線)の目盛りや、艦体に表示している艦隊ナンバー、ひらがなでの艦名とか。いちいち3DCGモデルからレイアウトを出して、微に入り細に入り書き込んでいくんです。

それこそ膨大な作業だし、誰もそこまで見ないよっていう声も聞こえてきそうですが、僕はおろそかにしてはいけないと思ってます。「神は細部に宿る」という言葉じゃないですけど、こういう作業の積み重ねが映像の厚みにつながると考えているんです。

今回は劇場版に合わせてシリーズの3Dモデルをブラッシュアップしてもらったので、ヤマト本体はそのへんのディテールも加味されていますが、それでもアップになったときはやはりそういう作業は発生してきます。

今回の劇場版はテレビシリーズの制作中に製作委員会から話をいただきました。そのなかで劇場版を作るとしたら「語り部」となるキャラクターが必要と考え、第20話で技術科の桐生美影という新しいキャラクターを登場させて、このコを劇場版の語り部にしようと考えたんです。

さらに映画本編については、人と人とのつながり、というかパーソナルなドラマも意識しました。ここ最近の世の中って、他者に寛容じゃなくなってきているじゃないですか。すごくギスギスした空気。国と国のいがみ合い、ヘイトスピーチの問題とか。

こんな風潮に対して、戦艦という兵器が主役のヤマトだからこそ扱いに十分配慮して、戦争賛美ではない、ひとつのアンサーをきちんと出すべきではないかと考えました。作品はエンターテインメントですから決して大上段に構えて作るつもりはないですけど、作品を通して、何か感じ取ってもらえたらうれしいですね。

(取材・文/高橋史門 撮影/山上徳幸)

●出渕裕(いづぶち・ゆたか)1958年生まれ。『宇宙戦艦ヤマト2199』のテレビシリーズ、および新作映画『星巡る方舟』総監督を務める