プロ野球歴代選手の「NPB80周年ベストナイン」の発表を記念して、本誌が独自に「野球マンガの最強ベストナイン」を選出。過去2回に渡り「水島マンガ編」「プロ野球マンガ編」とお届けしたが、最後は「中学・高校野球マンガ編」!
今回も、熱く語ってくれたのは、野球マンガをこよなく愛する専門家たち、以下4人だ。
・横浜ベイスターズの通訳兼広報を経た後、新庄剛志選手の通訳としてMLBのワールドシリーズも経験。今年10月に『ゆるすぽ』を立ち上げ編集長に就任した小島克典氏。 ・新進気鋭の野球マンガ評論家のツクイヨシヒサ氏。 ・『このマンガがすごい!』メインライターの粟生こずえ氏。 ・野球関連本やスポーツマンガの書評、コラムなどを執筆しているオグマナオト氏。
それでは、激戦となった選出の模様を見てみよう。まずは野手から!
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ツクイヨシヒサ(以下、ツクイ) 実は野球マンガ的にはプロより中・高のほうが人材は豊富です。
粟生こずえ(以下、粟生) そこはさすが甲子園の国ですよ。『ドカベン』も基本、高校野球ですしね。
小島克典(以下、小島) 僕も『キャプテン』には影響されたなぁ。新庄さんもあの歌に励まされて頑張ったって言ってたもん。
ツクイ では野手からいきましょう。まずファーストはやはり大砲ぞろいですね。『クロスゲーム』東雄平(あずま・ゆうへい)、『タッチ』大熊、『H』志水仁。『ラストイニング』豊田翔に丹波(たんば)とかね。
オグマナオト(以下、オグマ) 飛び道具も豊富です。『わたるがぴゅん!』の〝ガッパイ〟こと宮城正。ミスフルの猿野天国(さるのあまくに)。
ツクイ うーん、ガッパイはDHで、ファーストは正統派で非の打ちどころがない東ですね。
小島 セカンドは丸井(『キャプテン』)…いや、それならイガラシなのかな。
粟生 丸井、ここでも負けるか。
小島 僕は丸井キャプテン好きですよ。ミスした選手にブチ切れて蹴っ飛ばす。“和”をもって勝利に向かう日本野球界に一石を投じた奇跡の存在ですよ。
花形のサードは誰が適任?
オグマ ほかに『H2』柳守道(やなぎもりみち)、「山下たろー」須永、『ダイヤのAエース』小湊春市(こみなとはるいち)などもいますが、丸井に免じてイガラシで。その流れでサードも谷口と思いきや、魅力的なキャラがいっぱい!
小島 MLBでもサードやファースト、センターは基本的に白人のものって不文律がある。新庄さんがジャイアンツでセンターを守った時もいろいろあったもん。
ツクイ サードはやはり花形ですよ。『タッチ』新田(にった)明男、『H2 』橘英雄(たちばなひでお)とか、あだち作品はサードの好敵手がいい。
オグマ ほかにも『ダイヤのA』の轟雷市(とどろきらいち)、『ジャストミート』麻見省吾、「山下たろー」辰巳(たつみ)亮介、『おおきく振りかぶって』の田島悠一郎もいますね。
ツクイ 田島は一発がない。新田は練習量も微妙だしバイク乗るだろ。甲子園でエラーして、夏の甲子園がかかった大事な場面でも結局三振。俺が須見工の選手なら「ちょっと新田どうなのよ…」となるよな。
オグマ ツクイさん、新田と何かあったの?(笑)。サードは小柄でもすさまじいハングリー精神と長打力の轟ですかね。
ツクイ ショートは『ラストイニング』の新発田(しばた)祐司ですよ。三拍子そろった上にキャプテンシーも素晴らしい。デレク・ジーターみたいな選手ですよ。
粟生 え? 『おれはキャプテン』のデレック井慈田(いじた)ですか?
オグマ 違います! 僕は『砂の栄冠』の七嶋(ななしま)裕之。彼は2年までショートです。逆に2年からショートに行ったのは『甲子園へ行こう!』宅見駿介(たくみしゅんすけ)。あと『クロスゲーム』千田圭一郎、『H2』佐川周二なども有能。
粟生 私は『つっぱしり元太郎』の轟元太郎を推します。最初は代走専門だったのに、自慢の“突っ走り力”で活躍して1番ショートに定着。盟友のエース“メガネ”がダンプにはねられて義足で試合に出るんです。元太郎が突っ走ってホームに突入するラストシーンは必見!
小島 なんだよ、元太郎熱いな! これ決定だよ!
粟生 吉森みき男先生の作品は『しまっていこうぜ!』や『アリンコ球団』『どっこいライナーズ』とかもいいですよ。
小島 タイトルが秀逸すぎだろ。
ツクイ 外野で確実なのは『ジャストミート』の坂本天馬。
オグマ まったく同意です。天馬はライトのファウルフライもキャッチャーフライも捕ります。あとは『ROOKIES』の赤星奨志(あかぼししょうじ)は全ポジションを守るユーティリティ。もともとメジャー志望でエースを安仁屋(あにや)へ譲ってからはライトでした。
外野3選手が出揃う!
ツクイ 『最強!都立あおい坂高校』のレフト狛光爾(こまこうじ)は、主人公のグループでひとりだけ強豪校に行った。ライバルとして完璧な選手なんだよなぁ。
粟生 高校生初のプロ選手『クロカン』の坂本拓也もいます。
オグマ 本来は4番ピッチャーだけどね。坂本がOKなら上杉達也もライトで使いたい(笑)。
ツクイ あとは『ラストイニング』の大宮剛士(たけし)。いや、驚異の身体能力のタロー・フェルナンデスかな。ポッポが最後ブラジルに行ったのも結局、彼の存在が大きかったんだろうし。
オグマ あとは『H2』の木根(きね)竜太郎、『ナイン』の新見克也、『ダイヤのA』の伊佐敷(いさしき)純。『クロスゲーム』の三島敬太郎、『ラストイニング』の津久見(つくみ)とかね。
ツクイ 『わたるがぴゅん!』トリッキーズなんてのも。
小島 僕は『キャプテン』の島田だな。フェンスに激突しすぎて脳震盪(しんとう)を起こしても、さらにフェンスに突っ込むというね。
オグマ ライトのスタメンを奪って「ライトなんてカッコ悪い」と言い放った近藤を殴ってますよね。あれは日本中の右翼手が喝采を送りましたよ。
粟生 昔は『ライパチくん』の山川ケン太に代表されるようにライトは軽視されていましたからね。で、どうしましょうか?
ツクイ レフト狛光爾、センター坂本天馬、ライトはタロー・フェルナンデス。投手の外野起用は近藤の失言で認めません!
粟生 では、続いてバッテリーを決めましょう。これはもう『バツ&テリー』で一気に解決。
オグマ しない、しないよ!(笑)
小島 じゃあ、『Dreams』からキャッチャーハンコ・ルー。ピッチャーは久里(くり)武志や首里城(しゅりじょう)きらりと魔球の宝庫だしね。あと与那覇(よなは)わたるのハブボールも藤井がブログに書いてたね。
オグマ でも久里がいいなら、『地獄甲子園』野球十兵衛、『逆境ナイン』不屈闘志(ふくつとうし)もOK?
粟生 それなら『幕張』の塩田鉄人(てつひと)と奈良重雄も入れたいです。
ツクイ 数字的に抜けているのは『緑山高校』の二階堂定春。27連続奪三振を皮切りに、球速も気がつけば180キロ超え。打てば全部ホームランで最後はプロレスラーにも勝つバケモノ。
小島 やっぱり…ちゃんとした選手を選考しましょうか。
残すはバッテリーと監督
オグマ キャッチャーは『MAJOR(メジャー)』とし君をプロ編で選んだので『ダイヤのA』御幸一也かな。ほかに『タッチ』松平孝太郎、『H2』野田敦、『クロスゲーム』赤石修、『ラストイニング』佐倉秀一、『おれはキャプテン』霧隠主将(きりがくれかずまさ)などなど。
ツクイ やっぱり『名門!第三野球部』の海堂タケシさんだって。主将として頼りになる存在感。キャッチャーとしての能力も高く4番としての長打力も。何より強靱なメンタルがいい。
小島 そもそも海堂さんが監督を殴って第三野球部にこなかったらこの話自体ないもんね(笑)。
ツクイ では一番難しいピッチャー。個人的には『やったろうじゃん!!』の江崎直人なんだけど、王道でいくなら『タッチ』の上杉達也。そこに変化球を覚えたのが『H2』の国見比呂(ひろ)と考えれば、比呂かな。達也の時点で全国制覇してますからね。
小島 国見も優勝投手に?
オグマ 結果は“夏色”です。えー、あとは『ダイヤのA』沢村栄純(えいじゅん)、『ジャストミート』橘二三矢(たちばなふみや)とか…候補が多すぎる。野球マンガの数だけエースがいるわけですからね。僕は『MAJOR』の眉村健かなぁ。高校時点では(茂野)吾郎よりも完成度が高いですよ。
粟生 じゃあ、私は『我ら九人の甲子園』の小林誠一郎くんですね。試合前日に好きなコに会いたくて、ヒッチハイクで東京まで行くと、彼女がベランダに半裸の男といるのを目撃。これ、“先っぽ”までの未遂ですがショックで一睡もできないまま甲子園に戻ってノーヒットノーランを達成。最後は力尽きてマウンドに倒れるという…。
小島 壮絶だ。なんて高校野球らしくない逸話だろう。俺は『キャプテン』の近藤推しだけど、小林くんでいい気がしてきた。
粟生 彼、最終的に優勝してメジャーリーガーになるんですよ。
ツクイ 能力的にも十分だ。小林くんでいいよね、もう(笑)。
オグマ 最後に監督は? 名言の宝庫といえば『ROOKIES』川藤(かわとう)幸一ですね。
粟生 『クロカン』の黒木竜次、巨乳のモモカンとかね。
小島 巨乳が監督? 決定だな。
ツクイ 『ダイヤのA』片岡鉄心監督も人情的で素晴らしいですが、僕は『タッチ』の柏葉英二郎監督ですね。決勝戦の的確な指示、そしてサングラスを取っただけでランナーに指示を送れる、あの信頼関係たるや!
小島 巨乳は捨て難いですが、ここはやっぱり柏葉監督の貫禄に期待しましょう!
(取材・文 村瀬秀信)