重厚なストーリー、個性的なキャラ、尖った戦闘システム…"語りたくなる"RPG、それが『サガ』だ。12月25日に発売25周年を迎えたRPGの伝道シリーズは、熱いファンが多いことでも知られる。
そこで、今こそ 『サガ』愛を語れ!というワケで、熱すぎるファンのひとりであるノンフィクション作家・安田峰俊が、生みの親であるスクウェア・エニックスのエグゼクティブプロデューサー・河津秋敏氏を直撃!
■創造神・河津秋敏に「サガ愛」をぶつける
ごった煮の世界観も、クセが強いバトルや成長システム(※1)も、不完全にも見えるフリーシナリオもすべての“源泉”は「河津秋敏の頭の中」にある。その中身をもっと知りたいーー僕は河津氏本人に疑問をぶつけた。
※1 『サガ』シリーズにはRPGでは一般的な「経験値」「レベル」という概念がない(一部除く)。例えば『ロマサガ』シリーズは、戦闘での行動によって腕力や体力などの各ステータスが個別に伸びていくシステムを採用している
―子供の頃はボードゲーム制作がお好きだったとか?
河津 はい。カレンダーの裏に線を引いて、厚紙を切ってコマを作って…。作ることに満足して、実際に遊んだのは数回もなかった(笑)。あと、軍事モノが好きで、マス目の上に空母や飛行機を配置したウオーゲームみたいなのも作っていました。
―『ロマサガ3』のマスコンバット(※2)の「原点」ですね。では、歴史への関心は?
河津 小学生時代には家にあった「日本の歴史全集」みたいな本をよく読んでいました。あと、「年表語呂合わせ」みたいな参考書もお気に入りで。パラパラっとめくったページの年号や事件を知るのが楽しかったですね。
※2 『ロマサガ3』のミニゲームで、大軍同士の戦いを指揮する戦争シミュレーション。タイミングよく陣形や攻撃、防御などの戦術を変更しながら敵軍を打倒するのが目的だ。本編そっちのけでハマった人が少なくない
―その経験が、後に『ロマサガ2』や『サガフロ2』といった「歴史」をテーマにした作品を生んだ?
河津 そうですね。あと、地図も好きですよ。いまだに何時間眺めても飽きなくて、妻に怒られるくらい(笑)。想像するのが好きなんです。
地図の中には、この縮尺では描かれないけれど、もっとたくさんの町や村があって、いろんな人が暮らしている。歴史の年表も「○○があった」という1行の記述の裏で、たくさんの人が亡くなったり笑ったりしている。ゲームを作る際も、そんなスケール感を意識しています。
特徴的な『サガ』のシステム
―近年はFFをはじめリアルなグラフィックのRPGも多いですが、『サガ』のキャラはずっとデフォルメ調。なぜですか?
河津 リアル路線はお金をかけたほうに軍配が上がるので、FFと同じ土俵では勝負しないという現実的な理由もあります。ただ、キャラの絵や背景のリアリティよりも、プレイヤーがゲームに触れて考えることーー体験の説得力みたいな部分のリアリティを、より重視しています。
僕にとってRPGの原点は、大学時代にプレイしたテーブルトークRPG(※3)。あれは全部頭の中でイメージして遊ぶんです。なので自分が作るゲームでも、プレイヤーの想像力に委ねる要素を持つ作品を作っていきたいという思いがあります。
※3 数人が集まり、会話しながら進める卓上ゲーム。参加者は「ゲームマスター」(GM)と「プレイヤー」(PL)に分かれ、GMが設定したシナリオを、個別の役割を与えられたPLが演じる(ロールプレイ)ことでゲームが進行する。あらかじめルールを設定して紙や鉛筆、サイコロなどの道具を用いて遊ぶのが一般的
―『サガ』は成長システムも特徴的です。
河津 積み重ねで必ず一定の状態に到達するような、誰がやっても同じ結果になることは避けたい。「ほかの人はこの結果だけど、俺がやればたぶん違う」と思ってもらえるよう意識しています。
―特にバトルでの閃(ひらめ)きや連携は運の要素が強いです。
河津 昔、パチンコが好きだったことや、親父が釣り好きでよく連れていかれたことが関係しているのかも(笑)。ダラーっと釣り糸を垂らしていて、突然、「きたー!」となる感覚。漫然とプレイしていたのに、いきなり「よーし!」と身を乗り出す感じ。ああいう体験を僕はすごくいいことだと思っていて、盛り込んでいきたいと考えました。
―失礼な質問ですが、バグの多さや「不親切さ」など、粗削りな部分が多い理由は?
河津 自分の性格や段取りの悪さに起因する部分もあるので、粗削りなのは褒(ほ)められたことじゃないです。ただ、完成度を高めるために尖った部分を削ることはしたくない。ユーザーに迷惑をかけた面があるのは承知しているんですが、尖った部分がないゲームは、おそらく記憶に残っていかないと思うんです。
「世界の危機」を救うなら、ノコノコ帰ってくるな(笑)
―ドライなセリフ回しも印象的です。『ロマサガ3』の「私が町長です」はファンの間で語り草になっています。
河津 なんで、あのセリフがウケるのかな?(笑) 確かにユーザーが戸惑うのもわかりますが、ゴチャゴチャ言い訳するのもしっくりこないよなと。あそこはやはり「私が町長です」と開き直らせるしかないんです。
実は部下から「なぜお礼のアイテムやお金をくれないんですか」「バグなんですか」とはよく聞かれるんですが、いつも「あれでいいんだ」のひと言で済ませています。
―「せんせい」や「ぞう」みたいなド直球な名前のキャラも「あれでいいんだ」と?
河津 いいんです(笑)。もともと「ぞう」は別の名前をつける予定でしたが、なかなか決まりませんでした。とりあえずテスト用に「ぞう」って書いていたのが、最終的に「もう『ぞう』でいいや」となったんですが、出来上がったゲームを見れば、この名前が一番しっくりきます。
―ラストダンジョンから出られないのはなぜなんですか?
河津 「世界の危機」を救うために出ていって、何もせずノコノコ帰ってくるな、というメッセージです(笑)。一応、事前に警告はしていますしね。
―では、今後の話ですが、旧作をスマホ向けに配信する予定はありますか?
河津 タッチ操作に対応できるなら、やっても構わないです。少なくともハードの性能面は、全然問題ないはずですから。
シリーズの続編や移植・リメイクは!
―本当ですか!? 個人的な願望だと、『ロマサガ3』の「東の世界(※4)」の北部を旅したり、サガフロの生命科学研究所(※5)の没イベントを体験したりしたいんです。追加してください!
河津 そうですね。追加要素は入れるべきだと考えています。リメイクにせよ、移植にせよ、過去に遊んだ人にもう一度手に取ってもらうには商品として魅力が必要ですし。生命科学研究所の没イベントもデータは残っているので、できるはずですよ。
※4 マップが表示されるのに、行くことはできない謎の土地 ※5 イベントが発生しないのに、入ることはできる謎の施設
―最後に、シリーズの正式な続編を制作されるご予定は?
河津 新作をゲーム機向けのゲームとして準備しています。新しいメディアーーといっていいと思うのですが、そういうものに向けても『サガ』らしい尖った部分のあるゲームを作っていけたらなと思っています。
* * *
僕らが青春をささげた、愛すべき『サガ』シリーズ。新作の内容や、将来の移植・リメイクで追加される新要素は不明だが、『サガ』は今後も新たな感動を与え続けてくれる。この一点だけは、絶対に間違いがない。
●河津秋敏(かわづ・あきとし) 1962年生まれ、熊本県出身。株式会社スクウェア・エニックス エグゼクティブプロデューサー。『時空の覇者 Sa・Ga3[完結編]』を除くすべてのシリーズに関わったサガの“創造神”
■取材・文 安田峰俊(やすだ・みねとし) 1982年生まれ、滋賀県出身。ノンフィクション作家。多摩大学非常勤講師。著作に『中国人の本音』『和僑』『知中論』など。専門は中国関連のはずだが、強い“サガ愛”ゆえに本特集のライターに立候補! 最もハマったゲームは『ロマサガ3』で、好きなキャラはタチアナ(『ロマサガ3』)とデイアナ(『サガフロ2』)
■週刊プレイボーイ52号(12月17日発売)「熱すぎる『SaGa』愛を語れ!」より(本誌では、さらに安田峰俊が“サガの軌跡”をコアな裏側まで熱筆!)