『捨てがたき人々』――なんとも意味深なタイトルだ。原作はジョージ秋山の漫画で、映画化となり昨年6月に公開されると各方面で反響を呼び、高い評価を受けた。
舞台は長崎・五島列島。島に舞い戻ってきた、いわくありげな狸穴(まみあな)勇介(大森南朋)は気怠(けだる)そうに日常を厭世的に過ごすが、ただ、女にだけは舐めるような下卑た視線を送り、島の人からは胡散(うさん)臭がられるのみ。
そんななか唯一、純朴な心で接したのは狸穴が通う弁当屋で働く顔に痣(あざ)を持つ若い女――三輪ひとみ演じる岡辺京子だ。ギラつく性だけに生きる実感を求める男と、それに向き合い翻弄(ほんろう)されるがまま堕ちていく女。
これまで和製ホラークイーンという異名を持つなど独特の個性派女優としてキャリアを積み重ねてきた三輪が、自ら今までにないという役柄をまさに体当たりで熱演。陵辱的なセックスシーンもすべてを晒(さら)し演じ切った。
美保純や田口トモロヲ、滝藤賢一ら味のある共演陣も魅力を遺憾なく発揮する中、新たな境地を拓き今後がますます期待される彼女の現在(いま)を聞きたい! そこで、DVD発売を前にロングインタビューを敢行した!
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―今作では、受賞は逃すも報知映画賞に宮沢りえさん、吉永小百合さんに名前を挟まれ主演女優ノミネート!
三輪 ありがとうございます。まさかまさかのでした。撮影から2年も経って、去年じゃないんだ、今年?ってビックリしたんですけど(笑)。
―ずいぶん時間を経ての公開で、その間の気持ちって?
三輪 結構、苦しんでましたね。こういう役柄が初めてだったのもあって、自分の中ですごく手探りで。他の人が観て、意見を聞くまでわからなかったし本当にあれでよかったのかって悩んで。1年間苦行のような。
―当初、出演を決めた時は脚本を読んで決心を?
三輪 本はすごく面白かったんですけど、これ私!? 私、できる?って。自分の芝居のカテゴリーにこういう人間ドラマをやる素質があるか、ほんと未知数だったので。挑戦したいって気持ちはあっても、なかなか踏み込むことができなくて。脱ぐということに関しても問題はありますけど、そういう技術的なことではなかったんですね。
―激しい官能シーンがどうこうより、この人物像を自分が描ききれるかと。
三輪 濡れ場って、演(や)ってしまえば別に…なんだろう、本当にじゃないしっていうか(笑)。見え方に対する不安はありましたけど、本当にその京子という人間を演じれるかって不安の方が大きかったですね。
お風呂だって脱がないで入る?
―周囲からの見られ方や意見はあまり関係なく?
三輪 脱がないほうがいいって意見は多かったんですよ。ただ、この作品ではそこも大事であって。日常生活でお風呂入りますよね? その時、脱がないで入る?って。そこが生理的にどうしてもイヤというのは別になかったんです。
―では、それこそホラークイーン的な役柄や戦隊物の特撮作品のイメージが強い自分でほんとどうなの?と。
三輪 人間以外だったら全然大丈夫ですけど、人間だよって言われると人間ほどわからないものはないじゃないですか(笑)。
―デビューして最初の頃から、なんかアンドロイド的というか、イメージがね。
三輪 生活感がないっていうか。暖かみがないんだろうなとは感じてました。それが、この京子ってすごい母性が強いし、私ができるのか本当に未知数だったので…。他の人から見て普通の人間かもわからないのに、私でいいの?って(笑)。
―でも、その自分にオファーがあったわけですよ。
三輪 だから、まず初めに私は浮かんでこないだろうっていう。違う人ですよねって話をしてたり、いろんな方にお話いった最後にきたのかな?って。今までそういうのも多いんです。誰かの代役とか急病でやめちゃって出れないとか(笑)。
―あはは、それも含めて脇役でも自分のMっ気がそそられるみたいなことを以前のインタビューで発言してましたが。
三輪 そういうのはあります。その方が存在感出しやすいと思うし。主役より脇でちょこっと出て、その一瞬にかけるって方がすごく好きですし。
人間ってこんな生々しいんだ
―それが結局、出ずっぱりの主演を今回やってみて?
三輪 やっぱり難しい。本当に格闘でしたね。ずっと精神的にも戦いながら演ってたし、方言っていう壁もあって。さらに、からみシーンがいろいろあるっていう…全部濃厚でしたから。
―最初からほぼレイプだもんね、狸穴に無理矢理…。ピュアな京子が抗うのと、でも惹かれる感じと、その葛藤を表現するのも難しいだろうなと。
三輪 疑問を持ちながらも何か惹かれるものがあるっていう。でもきっと、救いたいと思ったのかもしれないけど、逆に自分が救われにいったんだなとも思う。
―そこを描かれてるのが当然、挑戦するやりがいだっただろうし。ほんと“捨てがたき人々”というテーマであり、人間の煩悩だよね、このお店(※1)みたいに(笑)。
※1 取材は三輪さんがオーナーの隠れ家バー『Bonne eau 煩悩』で収録
三輪 ほんと煩悩の世界ですよね。結構、業(ごう)の深い作品だなって思うし、人間ってこんな生々しいんだよねっていう。
―業の深さゆえというか、最後も結論とか答えはないわけで…救いがたい。
三輪 ないんです。ただ、最終的にはこれだけひどいことをしてきても、狸穴がすごく人間味があって愛着のわく人間に感じれるっていうのがすごい。それこそ捨てがたき人々なんだと。
―人間臭いというか、いろいろあってこんな人間ができあがった過去を想像したり。こういう生き方してる人間や人間関係が地方とかいっぱいあるんだろうなと。
三輪 きっと皆さん、いろんな過去とか経験とかをオーバーラップさせて、最後観終わった後に自分に問いかけてしまう作品なんだなって。だから、大勢でわいわいっていうよりひとりでじっくり観てほしいですね。
撮影中は一切ストレス発散しない
―居酒屋をやってる京子の叔母(美保純)が、最初はこんな男やめなって言ってるのに結局、狸穴と懇(ねんご)ろになったり。周りも捨てがたき人間模様が様々描かれて。
三輪 初めて本を読んだ時に、方言指導の方が五島の方で、こういうことあります?って言ったら、ありますよー、私は違いますけどって(笑)。本当にご近所さんとか知り合いが知り合いととか結構あるって。
―そこがまた生々しすぎて、自分が観たら、やめてくれって人もいるかも(笑)。
三輪 耐えられないっていう? ただ、五島の方と公開後にお話する機会があったんですけど、若い世代はすごく面白かったみたいで。五島のウリにはちょっとならないかなーと言いつつ(笑)、島っていうのがよく出ていて面白かったって。
そこでほっとしたんですけどね。私自身、映画にもあるコミュニティっていうのが現地で撮影してすごくわかりやすかったですし。台本だけで読むよりは実際に入り込みやすかったのもありました。
―でも、役柄も鬱屈(うっくつ)しそうだし、ずっとオールロケで行き詰まった時の解消法とかはどうしてました?
三輪 私、結構自分を追い込むタイプなんで、作品に入ってる時は一切ストレス発散しなくて、終わってからですね。作品に入ったら食がすごく細くなるのは昔からだし、今までの役柄もあると思うんですけど、追い込まないとできないというか、わかりやすく食も含めてハングリーでないといけないというか。
―では、撮影後の飲み会とか共演者とも馴れ合わず?
三輪 なかったですね。共演させていただいても、連絡先知ってる方の方が少ないですね。
美保純さんに救われました
―今回、公開時の舞台挨拶では、叔母役を演じた美保純さんの存在がすごくありがたかったという話もあったけど。
三輪 美保さんはそうなんですよ~。ふたりで歩いているシーンがあって、その合間に私がこういう人間ドラマ初めてで悩んでるんですよ~って言った時に、「私なんか、何年も悩んだんだから大丈夫大丈夫」って、さらーっと返してくれて。
それに救われちゃったみたいな。そういう軽いひと言でほぐしてくれる人ってすごいなって、すごい尊敬してるんです。
―実際、今回の美保さんの演技も絶品でした。
三輪 ほんと格好良かったです。エロって格好いいんだって思わせるひとりですよね。わざわざ出さなくても滲(にじ)み出てくるのはさすがだと思って。艶(つや)ってああいうことなんだなと。みんなに観てほしいですね。
―そんな出会いもあり、自分の演技も評価されて。あらためて振り返ると、キャリアを重ねた今だからこの作品をできた実感も?
三輪 それはあります。脱ぐのでも、若い頃は恥ずかしいということの方が前に出て。ちょっとできなかったですよね。まず演技の想像もつかないですし。
―女性として成長してる、進んでるってことも大きい?
三輪 その人生が進んでいるからできたっていうのはすごくあったし。私、結構若い頃ってストイックというか真面目だったので、他の人の生き方でも多くを知らなかったというか。見たくないものは見なかったんですよ。
最近になって、私みたいなのもいて、他のタイプの人もいて世の中は成り立ってるみたいなのがあって。自分と全然違うところを演じることが、この仕事の楽しさだって思えるようになったんです。
10代の頃は周りが全部敵だと…
―そもそもグラビアを含めて、こういう仕事に進んだのは自分の意志で?
三輪 グラビアがスタートではないですが、なんだろう…若い時は変わったことがしたかったってのもありますね。自分しかできないことがやりたいっていうのがすごくあって。初めはほんとに好奇心みたいな。それが、進路を決めなくちゃいけない時になって、私はこの道に進もうって。
―それこそ派手に見られがちな世界。自分を晒(さら)したりする葛藤とか、人見知りな部分にはどう折り合いを?
三輪 20代前半までって、すごい人見知りだったと思うんです。でも、晒け出すのが仕事なんだって頭の中で整理ができてから、やっと人を知りたいと思った。それでこの店に繋(つな)がるんですけど。
―こういう店も持ってみて、あらためて人に興味を持てたと。
三輪 本当に殻に閉じこもって、すごい狭い私の中の世界みたいな感じで生きてきて、あんまり他人ときちんと触れ合ったり、意見を聞いたりとかしてなかったので。すごく面白いですね。
―それこぞ捨てがたき人々がいっぱいいたり(笑)?
三輪 いっぱいいますね。たぶん、そういうのが仕事、女優ってものに対して生きてくると思いますし。今、私の中で貯めてる状態ですけど、糧(かて)としていきたいなと。
―ほんと、若い時と比べてどんどんオープンになってイイ感じに。
三輪 いつからかあんまり怖いものがなくなってきましたね。10代って周りが全部敵だと思ってたし。私、人に助けてもらうって恥だと思ってたんですよ。
特にきっかけってないけど、でも20代後半くらいですか…いろいろあって、何も見返りを求めずにちゃんと助けてくれる人たちがいるんだって気づいて。自分が変わったっていうのはあります。
私も捨てがたき人々なんです
―でも、10代の頃に持ってたストイックさとかオーラ含めて、ホラークイーン的なものにも生かされてたり。その時その時でね。
三輪 いい方向にいってますよね? 違うか(笑)。でも、ほんと昔は全部完璧にできなきゃいけないって思い込んでたんですけど、世の中に出たらもっと上がいっぱいいて、それは全然完璧ではないんだって知って。
もっと上にいかなきゃって、どんどん壁が厚くなってったんですけど。今ある自分でいいじゃんって思えるようになって。だから、捨てがたき人々なんです、私(笑)。
―以前にインタビューさせてもらった時も、素は気さくで明るいんだけど繊細なんだろうなと。妹の明日美ちゃんとのWインタビューでは典型的な長女気質を感じたし(笑)。
三輪 そうですね。妹は昔からオープンで、甘すぎる!というか。私には絶対無理(笑)。でも、それが昔よりは少し楽に生きていけるようになって、自分を甘やかしてあげることもできるようになったから。すごいな~と。今、甘やかしすぎですけど(笑)。
―それこそいろんな経験を経て、人のダメさ加減も知って許せるようになった?
三輪 周りが全部敵と思ってる時って、家の外に一歩出たらスゴいぴりぴりしてて。その神経を使わない分、他人にも気を遣うことができるようになったかなと。私、スゴい優しくなったと思うんですよ(笑)。
―じゃあ、女優として、ことさら大きい目標とかもなく今後も自然に?
三輪 私ね、ジャンル“三輪ひとみ”を作りたいなって。お友達の女優さんに「ホラー女優とか既存にあるものの代名詞に付くより、三輪ひとみってジャンルだよね」って言われたことがあって。それ目指そう!私、と(笑)。
―それいいね、オンリーワン的な。
三輪 そんな格好いいものじゃないんだけど、三輪ひとみっていう変なジャンルを作りたい。
何をやっても驚かないでほしい
ーこの京子の顔の痣も、自分に決まってからつけることになったとか。それもジャンルが想起させる個性ゆえでは?
三輪 また、この痣が似合うんですよね(笑)。
―尊敬する美保さんも、ああいう風になりたくてもなれないし、それこそオンリー美保純ってジャンルな気がするよね。
三輪 あのしゃべり方が独特で格好いいし、マネできないんですよね。ほんと憧れというか、めざすところではあります。
―では最後に、ジャンル三輪ひとみとしては今後、新たにどんな役を?
三輪 今またこの状況でホラーをちゃんとやってみたいっていうのはありますね。昔のストイックじゃないところでやるホラーっていうのを。ただ、何をやっても驚かないでほしいというか。今度はそうきたかーみたいなのはやっていきたいなって。
―それこそ、シリアルキラーとか…後妻で保険金殺人みたいなのは?(笑)
三輪 そっちですかー。殺人鬼もやってみたいなとは思いますけどね。
―いろいろ想像は膨らみますが、是非また意外な驚かせ方を期待しつつ楽しみにしています!
(取材/週プレNEWS 撮影/五十嵐和博)
■三輪ひとみ Miwa Hitomi 1978年生まれ、神奈川県出身。映画『D坂の殺人事件』(98年)で本格的に女優デビュー。99年、『発狂する唇』では初主演。以後、『呪怨』(00年)など数多くのホラー作品に出演。TVではウルトラシリーズ、平成仮面ライダーシリーズ、スーパー戦隊シリーズなど特撮作品も多い。最新情報及びバー『Bonne eau 煩悩』についてはオフィシャルブログにて→ http://ameblo.jp/miwa-hitomi/
■『捨てがたき人々』は1月6日よりブルーレイ&DVDにて発売(発売・販売元/ハピネット)