テレビアニメ『機動戦士ガンダム』(以下、ファースト)のストーリーを踏襲しつつ、モビルスーツやキャラクター設定を作者である安彦良和が独自に解釈し、新規エピソードを追加してマンガ化した作品『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下、オリジン)。
そのファン待望の映画化が2月28日、ついに公開。『週刊ブレイボーイ』ではそれに先んじて、総監督・安彦良和氏を直撃し話を聞いている。
1979年から世界中のファンに愛され続けるガンダム。当初は視聴率が低迷、打ち切りという憂き目にも遭うが、安彦氏がそのブームを実感したのは「テレビシリーズを制作していたかなり早い時期から手応えを感じていました。不思議なもんでね。〝あ、これはうまくいった〟というのが感覚的にわかる」と明かす。
その感覚とは…安彦氏自身がニュータイプに覚醒していたのか!?とも思えるが、そんな経験は本人も初めてだったという。だが、それからの社会的大ブームで「実は、僕にとってのガンダムって〝消したい過去〟だと思っていた時期もありました。どうしても〝ガンダムやってた人〟というイメージになりますから」と告白。
そしてアニメの仕事を辞め、89年からマンガ家となって、そのイメージも払拭されてきたかという時期に、オリジン漫画化の話が…。その際は、やりましょう!とは即答できなかったという。
「固辞したんですけどね。結局やることになりました」
当初は、ファーストの展開をそのままなぞって描き始めたが、「でも、9巻まで行ったところで、やっぱりファーストの過去の話をしないとダメだと思った」そうで、そこでなぜ、シャアとセイラの過去の物語を?
「ひと言では難しいんだけどね。シャアというキャラクターについて、自分自身で理解が圧倒的に足りなかった。〝こいつ、なんなの?〟って部分が多かったんです。それでシャアを中心にファーストの過去を語らなければいけないなと。
11歳で父親を失った彼がどうなったのか? 世間的にシャアは父親の敵を討とうとしていたと伝わっています。でも、実はそうではない。そうすると、彼を中心にいろんな世界、それぞれのキャラクターの過去が見えてきた」
特に描き応えがあった、あのオヤジとは?
原作のオリジン、そして映画化された本作でそれは描き切れたのか…。シャアの印象は変わるのか?という問いに安彦氏は、
「変わると思います。もし、変わらなかったら、僕の描き方が悪かったのかなってなっちゃう」
一方、オリジンを描きながら「ガンダムってオッサンばかりだなぁ」とあらためて感じたというが、それはそれで皆、不器用でいい味を出しているから楽しかったとか。特に、描き応えがあったというのがランバ・ラル。当時の子供向けアニメではシブすぎるキャラにも関わらず人気は高かったが、確かに若干メタボなオヤジ…。
「でもね、どんどんいい味を出してくる。子供番組なのに愛人のハモンといちゃいちゃしたりね。こういう“男が惚(ほ)れる男”を創造できたのが、富野由悠季(よしゆき)原案の偉大なところなんですよ。本作では準主役として、ランバ・ラルとハモンの若い頃が描かれています。ファーストしか見てないお客さんに、若いふたりを味わってもらえればと」
そして最後に、安彦氏はこう語っている。
「“消したい過去”と思った時もありましたけど、今では自分のキャリアの中でも宝物です。良い作品に巡り合えたと思っています。本作は“ガンダムを全部知ってます!”というお客さんだけでなく“ファーストしか見てません”って方々にこそ見てほしい。彼らが楽しめるという手応えを感じていますからね」
(取材/直井裕太)
■週刊プレイボーイ9号「安彦良和総監督インタビュー」より