『白い炎』に始まり胸にグサッグサ突き刺さる名曲の数々、記念アルバムに収録された海外のクラシックナンバーまで熱唱した斉藤由貴 『白い炎』に始まり胸にグサッグサ突き刺さる名曲の数々、記念アルバムに収録された海外のクラシックナンバーまで熱唱した斉藤由貴

「今の年齢だからこそ、恋というものを敢えて思い返してみたいというのがきっかけです」

デビュー30周年で『30th anniversary concert』を開催した斉藤由貴は終演後、そう語った。

「…というのも、皆さん結婚したり子供を産んだりしていて、恋から遠ざかっていますよね? 若かった時に、夢中になった恋愛やそのときめき、幸せな感じを思い返して切ない気持ちになってみる、というのも今の年齢だからこそ素敵なんじゃないかなと」

たった3日間、4公演だけのスペシャルなひと時。会場となった東京・日比谷のシアター・クーリエが座席数600余なだけにプレミア感は尚更だ。実際、チケットは早々にソールドアウト。立ち見もないため、この機会に立ち会えたファンは幸運すぎるといっても過言ではない。

この日は3月14日、夜の部。開演前から劇場前は人混みでざわつき、ポスターの写メを撮る人、場内ではパンフ売り場に並ぶ人…長い列の先で記念アルバム「ETERNITY」を皆、手にしていく。多くは彼女と同世代近くのアラフィフ、アラフォー男性のようで、ひとりの姿も少なくない。

場内に流れる曲を一緒に口ずさみ、席で肩を揺らせる女性も見られる中、冒頭でも語った通り、“恋”をテーマにした演出のサプライズはいきなり幕開けから…。ストゥールに座り、黒のシックなドレスに身を包んだ彼女がスポットライトに浮かび上がると、朗読劇のようにある物語を紡(つむ)ぎ始めたのだ。

〈デビューしたての1986年、9月10日。NHKホールでのコンサート終了後、帰りの車の道すがら立ち寄ったコンビニのレジに彼はいた。もう二度と会うこともないだろうと思っていた学生時代…過去の記憶。何気ない再会の会話を交した後、ふたりは連絡先を交換する。だがその時、彼は彼女が“アイドル”になっていたことを知らなかった。

携帯もメールもない時代。まさか、そんなにも長く続くとは想像もしなかったふたりの文通。そして、まさかそれっきりになるとも思わなかった直接の出会い。だが、そのやりとりの中である時、彼から届いた手紙には…「斉藤由貴って、キミか!」。そして返した一文…「バレたか!」。

時が経ち、1995年ーー大学を卒業した彼は仕事で関西に移っていた。彼女は大阪でのコンサートに初めて彼を招待する。それは自らが結婚を決めたことを告げるためだった。

しかし、その再会は叶わなかった。1月17日、もしあの悲劇が阪神・淡路を襲いさえしなければ…。

30年前は想像もしなかった未来。誰も10代では到底考えない思いーーその時間を経て、今この場で面と面を向かい合わせる私たちのもうひとつの出会い…〉

本当はやりたくなかった?

これは斉藤由貴の“初戀”の告白なのか?

『Lovin’you!』など記念アルバムに収録されたクラシックな名曲を織り交ぜながら、彼女の口から語られるそのドラマに息を飲み聞き入る客席。その当惑を打ち破るように『白い炎』が鳴り響き胸に突き刺さる! 青の衣装に身を包んだ「動」の斉藤由貴が開幕だ。

すでに目頭を押さえる女性、こぼれそうな涙を拭う姿もちらほら見える中、続く『初戀』『海の絵葉書』『AXIA~かなしいことり~』…歌い終わってのMCで「甘酸っぱい青春の曲」と自らが表現したレパートリーに早くも場内は興奮で沸き立つ。

そんな中、久々のライブコンサートにも「本当は30周年でも特に何もするつもりなかったんですよ。イベントとか言われないよう静かにしてようって(笑)」、「でも早いですよね。もうこれで後は明日だけか。意外とすぐでもったいな~い」と、相変わらずのトボけた発言?でマイペースのトーク。

さらに「昨日は13日の金曜でしたけど今日はホワイトデーですよ! 皆さん、何かくださーい。あ、でも私もあげてないしね(笑)」、「25周年の時は全公演来られた方もいたけど、今回は…2回の人、手を挙げて!…あっ、どうせ暗くて見えないや。3回は…? じゃあ4回…ヒマなのー!?」。いまだ自由奔放なオチャメっぷりも微笑ましく場内が緩む。

そして、「『海の絵葉書』は難しくて本当は歌いたくないんですよ。ライブでは危険(笑)」とぶっちゃけると、「自分では演技している感じの物語がある歌って好きなんです。ここからはそんな曲を」と披露されたのは『土曜日のタマネギ』『MAY』『少女時代』の3曲。

フリを付けながら世界観を表現すると、『MAY』では涙ぐんで声を詰まらせる風も…歌い終わると肩を震わせて息するほどだった。

ここで一転、ゲストとのトーク&ライブ。登場したのは多くの楽曲を提供してきた谷山浩子。昔から「大好きすぎて暴力的になってしまう」と告白すると、谷山とお互いの性格や欠点を暴露。「基本、後ろ向きなんですよ」(斉藤)、「でも前のめりだよね」(谷山)、「適当な人生なんです」(斉藤)…と丁々発止のやりとりに皆、大爆笑。時間オーバーするほど盛り上がった後、『ひまわり』『窓あかり』の2曲をデュエットした。

サプライズで“彼”が登場!?

いよいよ終盤、桜が舞う柄の鮮やかなピンクの衣装にお召し替えし満を持しての『卒業』を歌い上げると『予感』、ラストの『悲しみよこんにちは』…そこまで叙情に浸っていた観客はここで初めて万雷の手拍子! それに呼応して、なんと彼女がステージを飛び出し客席中央の通路まで駆けてくるというサプライズもーー。

舞台に戻ると、再びオープニングと同じシチュエーションでの語りが始まった。「もうそんなに若くはないけれど、何も私は変わっていない」…そしてエンディングの曲はこれも記念アルバムから『Across The Univers』ーー。

だが、もちろんそれで終わるはずもなく、喝采はそのまま怒濤のアンコールへ。さらなるサプライズは「今日ここにその“彼”が来てくれていますので紹介したいと思います」! ざわめく会場…も、そこで客席から壇上に上がったのは、なんと三谷幸喜!? 昨年の公演『紫式部ダイアリー』が縁で登場を約束していたそうで、鼻笛まで披露した三谷とこの夜だけの『夢の中へ』をデュエット。なんともミラクルな一期一会となった。

最後に「胸が痛くなったり眠れなかったり、世界の色が変わって見えたり、みんな切ない恋をしてきた」その思いを今またと、冒頭の通り今回のテーマを語りかけ『The April Fools』とともに終幕。あの時代の青春に浸り、恋心を懐かしんだ時間に皆酔いしれた。

無事終わっての感想を「正直言うと、お稽古が短かったので十分なことができなかったと思います。その準備不足を思い出して、反省しているところです」と語ってくれたが、

「私がある程度の年齢にきているので、どんなお客さんに来て頂いているのかなと思ってたら若い方も結構来てくださって、とても嬉しかったです。そして全ての曲を集中して聴いてくださっていたのも印象的でした。ゲストの皆さんとのコラボレーションもすごく楽しかったです」

そして、気になる“彼”との物語は…。彼は本当にこの場に来て再会を果たせたのか? だが、それに対する答えはなかった。切なさを抱えたまま、明確な結末も得られず心に問い続けるのも“恋”。出会いから30年、斉藤由貴の情熱、いまだ胸の中で燃える白い炎は確かに飛び火した。

(取材・文/週プレNEWS編集部)

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