数年前から音楽ファンの間でアツい注目を集め続けてきた、定額による音楽ストリーミングサービス。

スマホやPCを使ってネットに接続することによって音楽を楽しむ…そんな今の時代ならではの音楽の楽しみ方がいよいよ日本でも普及していきそうだ。

昨年10月、LINEとソニーミュージック、エイベックスが共同で設立した新会社「LINE MUSIC」では、定額の音楽ストリーミングサービスを開始することを発表。

ソニーは全世界6千万人のユーザーを抱える業界最大手の「Spotify」と提携し「Play Station Music」(PSMを、エイベックスはサイバーエージェントと共に「AWA」をそれぞれスタートさせるなど「dヒッツ」「レコチョクBest」「KKBOX」など既存のサービスも併せ、ここにきて国内の音楽ストリーミングのマーケットは一気に戦国時代の様相を呈してきた。

ネットビジネスに詳しいコンテンツビジネス・エバンジェリストの山口哲一氏は解説する。

「ここ数年、世界の音楽マーケットではSpotifyやアメリカのPANDORAなどの音楽ストリーミングサービスがCDやダウンロードに代わって主流となり、新しい収益化の道を確立させています。

日本はCDの販売が主流なので普及が遅々として進まないままでしたが、音楽不況も底を着いたのかここにきてやっと動き出したようです。特にLINE MUSICにおいてソニーとエイベックスという歴史も社風も反する大手レコード会社が手を組むことの意味は大きいです」

また音楽コンシュルジュのふくりゅう氏もこう語る。

「この数年で各サービスともUI(ユーザーインターフェース)は見やすくなったし、コンテンツも少しずつ充実して、これまで少なかった邦楽の新曲も比較的聴けるようになりました。新たなサービスが参入し、業界全体が活性化することで、より人気曲の充実や新規ユーザーの増加を期待したいです」

“聴き放題型”と“ラジオ型”どちらを選ぶ?

ようやく本格的に動き出した音楽ストリーミングサービス。その魅力は何か。ここでおさらいしておこう。

「音楽ストリーミングサービスは、定額ゆえに膨大な音楽を自由に楽しめます。それだけに普段、積極的に聴かない曲にも気軽に触れられて、未知なる曲との出会いがあるのが最大の魅力。SNSなど、フェイスブックやツイッターに聴いている曲のリンクが貼れるサービスも増え、仲間と音楽をシェアする面白さもありますね」(ふくりゅう氏)

ちなみに現在、国内のサービスは大きく分けて2種類ある。ひとつは膨大な曲の中から好きな曲を選びスマホにダウンロードし、契約期間中はオフラインでも聴ける“聴き放題型”。もうひとつはサービス側によるプログラムで曲を楽しめる“ラジオ型”だ。

「Spotify」をはじめ「LINE MUSIC」「PSM」「AWA」といったサービスはすべて前者。ということは、今後は“聴き放題型”が主流になるのだろうか?

だが、この状況に待った!をかけるのが「dヒッツ」だ。NTTドコモが2012年にスタートさせた“ラジオ型”の音楽ストリーミングサービスで、100万以上の楽曲を500以上のプログラムで配信している。会員数は先日、300万人を突破し現在、音楽ストリーミングサービスでは国内No.1のシェアを誇っている。

その強みは、なんと言っても楽曲とプログラムの充実ぶりにある。発売されて間もない新曲はもちろん、サザンオールスターズAKB48乃木坂46福山雅治…といった旬の邦楽アーティスト曲からテイラー・スウィフトワン・ダイレクションなどの洋楽モノ、さらにはTHE BLUE HEARTSマイケル・ジャクソンなどの懐かしの名曲まで。

それらが「年代別」や「ジャンル」から「元気注入!」「マキタスポーツ選曲」「カープ女子応援ソング」まで多彩なプログラムで聴けるのだ。プログラムとはいえ、聴きたくない曲があればスキップ機能もついているので飛ばせばよい。

新しい曲を次々と聴きたくなる上に、たくさん聴いても料金は定額。ストリーミングサービスが本来持つ、音楽の出会いが楽しめるというわけだ。

次世代のスターを探す楽しみも!

NTTドコモマーケットビジネス推進部の下川淳子さんが語る。

「dヒッツは何より音楽にライトなユーザー層にターゲットを置いている。それがいいのかもしれません。UIは曲を見つけやすく、どこからでも楽しめるようにプログラムを設計してあります。通勤・通学の途中や作業中など日常のBGMとして手軽に音楽を楽しむには利便性は高いと思います」

価格も安い。“聴き放題型”は“1ヵ月で約1000円”というタイプが多いが、「dヒッツ」は300円コースと500円の2コース。しかも利用時間に制限はなく、前出のスキップ機能に回数制限もない。500円コースにはプログラムから気に入った曲を毎月最大10曲、1年間で120曲を登録できる「myヒッツ」という機能まである。キャッシュ(保存)できて、オフラインでも聴けるというものだ。

「プログラムが500あるとはいえ、ユーザーの趣味嗜好はすべてフォローしきれません。そこで“ラジオ型”でありながら“聴き放題型”の良さも取り入れています。また年内には個々のユーザーの視聴動向で、その方の好みの曲が流れるユーザー限定のプログラム作成機能も導入する予定です。こちらを使えば自分の趣味と近い未知の曲と出会える可能性がより高まります」

熱心な音楽ファンに見逃せないのが「ヒットチャートを駆けのぼれ!」というプログラム。これはタワーレコードとコラボした新人アーティストだけにフォーカスしたもので、リアル店舗ならではのインディーズの現場感を伝えるプログラムは他のサービスでは見かけない。ゲスの極み乙女。KANA‐BOONなど最近のJポップではインディーズ出身者が続々ブレイクを果たしているだけに、ここに次世代のスターが隠れている可能性は大いにある。

「このプログラムもそうですが、春からタワーレコードさん、レコチョクさんとコラボし『Eggsプロジェクト』という若手支援の企画をスタートしています。インディーズの曲を積極的にプログラムに取り入れたりフェスと連動したり。若手と音楽ファンが出会える場を作り、ここからヒットを作れればと思っています」(下川さん)

すでに海外ではアップルやグーグルも音楽ストリーミングサービスへの参加を表明し、数年前から噂されていたSpotifyの日本進出もいよいよ現実味を帯びている。“黒船”の来襲を目前に国内マーケットがさらに熾烈な争いの舞台になるのは必至だ。

いつでもどこでも音楽を楽しめて、さらに新たな音楽との出会いを演出してくれる音楽ストリーミングサービス。この先、どう切磋琢磨し発展していくのか。今から楽しみではある。

(取材・文/大野智己)