『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)が今年25周年を迎えるにあたり、4月11日放送のスペシャル版で、日本が誇る二大ホラー漫画家・楳図(うめず)かずお先生と伊藤潤二先生の作品を実写ドラマ化することが決定。
それに先立ち、週プレで世にも奇妙な“恐怖対談”が実現! 今回の後編では、ふたりの巨匠がホラーの神髄を明かす?(お互いの名作を語った前編はコチラ→http://wpb.shueisha.co.jp/2015/03/29/45754/)
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―おふたりにとって「怖い」とはなんでしょう?
楳図 人間って怖いモノがふたつあるんですよ。ひとつは自然界の怖さ。風の音、暗闇、遠吠(とおぼ)え、洞窟、稲妻など。僕自身は、宇宙が今も広がっていて、見えている星がドンドン遠くにいっちゃうと思うとすごく怖い。自分には直接関係ないのに本能的な怖さを感じるんです。
もうひとつは人間です。幽霊だって、人間の怨念や憎悪がカタチになったもの。幽霊が怖いということは、人間が怖いってことなんです。伊藤さんの場合は、人間そのものを解剖学的見地で扱ってホラーを作っている気がするなぁ。
伊藤 確かに家に家庭医学の本があって、よく読んでいました。人間の肉体的なところに関心があったんです。
楳図 人間の体って無理ヤリ開けて見られるわけじゃないから、身近でありながらすごく不思議な存在なんだよね。
―そういう意味では体内も「自然」ですよね。そして今回の『世にも…』でドラマ化される楳図さんの作品『蟲(むし)たちの家』は、人間のジェラシーがテーマです。
*『蟲たちの家』…1972年に発表。大学の後輩である羽奈子と不倫関係を続けていた蓮司。妻・留以子の様子がおかしいことを打ち明けたことで、3人が愛憎劇を繰り広げていく
楳図 登場人物が3人出てくるんですが、ジェラシーは愛情なのか憎悪なのか、はたまたジェラシーや憎悪があるから愛情が芽生えてくるモノなのか。三者三様で攻撃的な部分を持ちつつ被害者でもある。人間の持つ心理を集めたらこんな感じかなって思って描いた作品です。
僕は作品で明確な答えを出すのが嫌い。ミステリーは真相がわかるけど、ホラーは答えがわからないところが素晴らしいんです。だって、世の中はわからないことだらけでしょ? ちょっと深みの部分を垣間見るのが“ホラーのお仕事”だと思うんです。
伊藤 僕もそう思います。作品を描き継ぐ中で、最終的に深みを掘り下げていくのがホラーのお仕事ですよね。
ホラーを作るのが難しくなっている
―伊藤先生は『地縛者』がドラマ化されます。
*『地縛者』…ある日突然、街の至る所に体が固まって動かなくなる人々の姿が…
楳図 どんなお話なの?
伊藤 楳図先生を前に恐縮なんですが…何かしらの×××(ネタバレのため伏せ字。以下同)を持つ人が、×××した場所で動かなくなっていくという話。地縛霊っていうのはよく聞くけど、人間が道端で自縛しているのも怖いなって思ったんです。でも、描き始めたら筒井康隆先生の小説『×××』と似ている部分が出てきて…。
楳図 革新的なことをやろうとすると、逆に同じところにいっちゃうこともあるから。
伊藤 根幹をズラすわけにはいかないので、そこに配慮しながら苦労して描いた覚えがあります。そうそう、『世にも…』は昔から好きな番組で、一番印象に残っているのは織田裕二さんが主演した『ロッカー』。あれは本当に怖かったです…。
―実際に奇妙な体験をされたことはありますか?
楳図 この間ありました。仕事部屋にいた時、突然、画びょうがポトリと頭に落ちてきたんです。しかも、その翌々日にはホウキから画びょうが…。どこにも画びょうを刺していなかったし、本当に不思議。
伊藤 画びょうってすごく無気味ですね。僕はそういう体験、一切ないなぁ。
楳図 けど、今の世の中、ホラーを作るのが難しくなっていると思います。飛行機に乗れば、上から全部見えるでしょ? 昔は富士山の五合目以上は登れず、何があるかわからなかった。「富士山の頂上から煙がたなびいて天国に…」って言えば怖かったのに、今はそうはいかない。
ふたりが今、怖いと思うこと
―では、おふたりが今、怖いと思うことは?
楳図 さっき話した自然や人間の怖さっていうのは、遺伝子に組み込まれた恐怖。暗闇にしても人間の感情にしても、なんとか本能で対応できると思うんです。だけど、これから先は本能が対応できない恐怖が出てくるはず。そのひとつは放射能でしょうね。目に見えないものだし、普通に生活をしていたら認識することさえできませんから。
伊藤 僕はイスラム国のテロのような、突然身に降りかかる脅威が怖いですね。身構えることさえできない。
楳図 僕は休筆していますが、これから先、伊藤先生がどんな作品を描くのか本当に楽しみなんですよ。
伊藤 今日はありがとうございました。対談なのに楳図先生のお話を伺ってばかりで…すみません(苦笑)。
■楳図かずお(うめず・かずお) 1936年9月生まれ、高野山出身。1955年に漫画家としてデビュー。『おろち』『漂流教室』『まことちゃん』『14歳』などの大ヒット作を世に送り出す。1995年に腱鞘炎が悪化したことにより、休筆。昨年は映画『マザー』で初監督を務めた
■伊藤潤二(いとう・じゅんじ) 1963年7月生まれ、岐阜県出身。歯科技工士として働いているときに応募した作品で、『月刊ハロウィン』の「第1回楳図賞」を受賞。代表作の『富江』『うずまき』はともに映画化されて大ヒット。日本でホラー映画ブームを巻き起こした
■『世にも奇妙な物語 25周年スペシャル・春~人気マンガ家競演編~』 4月11日(土)21時~23時10分 フジテレビ系にて 1990年にスタートした『世にも奇妙な物語』は今年25周年。スペシャル企画として、楳図かずお先生、伊藤潤二先生のほか、人気漫画家とコラボしてドラマ化。『ONE PIECE』のルフィも登場する!
(取材・文/高篠友一 撮影/本田雄士)